決闘4
チェットがフィールド中央まで歩み寄る。1回戦での俺の戦いはもうないはずだが、勝ち上がれば、というか勝ち上がらなくては3位になれないから勝たないといけないわけで、次に俺の番が回ってきたときのためにしっかり参考にしなくてはならない。特にエフとか言うやつ……。
あれ、結局何なんだ?
「はじめッ!」
思索にふけっていると審判の声が響いた。おっと、チェットの戦いぶりををちゃんと見なくちゃ。
と思ったが、見た感じお互いに臨戦態勢に入っているようには見えない。やる気あるのか?……それとも俺がジャンプして見た他会場の様子から判断したことは俺の間違いだったのか?
対戦相手の女はチェットと向かい合ったままのんきに話を始める。
「あら、あなたがクリッパーなの?」
「ああ、そうだ」
「そう。ということはあの子がエイムなのね。ということは作戦成功ね」
女はクレサに向かって指を差す。
「作戦?作戦だと!?作戦ってなんのことだ?どういうことだ!?おい!」
チェット、うろたえすぎだろ……。作戦の一つや二つあるでしょ、別に……。
いや、作戦をちゃんと立ててくれたら少しはこれのルールがわかったかもしれないな……。
「もうここまで来ればいいわ。教えてあげる」
女は余裕の表情を浮かべてそう言ったが、俺にはまず今どこまで来ているのかを教えていただきたい。
女は鼻を鳴らし、小ばかにしたように話をし始める。
「私たちの末の妹、さっきべローン戦で戦った子ね、プリンには生まれつき特殊な能力があるの。」
「なっ、なんだって!」
驚くのはまだ早いだろ。どんな能力かもわからないのに……。心配しなくてもお前もある意味特殊能力が備わっているよ。
「『神の右手小指』って言えばわかるかしら?」
出た!また神の能力!
というか右手小指って!神の能力はどんだけ隅々まで行き渡っているんだよ。
「ああ。つまり、あれだろ」
「ええ。あれよ」
あれで話を進めるな!神の右手小指とやらはどんな能力があるんだよ!そして、何でチェットたちはその能力の内容を知ってんだ!リストがあるなら教えてくれよ!
「私たちは長いから親しみを込めて超直感と呼んでいるわ。」
淡白すぎてどの辺に親しみが込められているのか知らんが、『神の右手小指』とやらは直感に関する能力らしい。それが何なのかは知らんが……。
「『神の右手小指』の能力は一日一回しか発動できないけど、絶対に直感が当たる能力なの」
……結局説明した。ぶっちゃけもう会うこともないだろうしどうでもいいことだけど、ありがとな。説明してくれて……。
「そんなことは知っている。何が言いたい?」
そう言うな。お前の知っていることを知らない人間はいるんだぞ、お前が思っているよりも近くにな。
「今日もファーストステージが始まる前からあの壺の在り処を当ててなかったら、今頃ファーストステージ敗退していたわよ」
いや、当てたか当ててないかに限らず、今頃はファイナルステージだ。ここにいないかもって話だろ?
「そのあの子が言ったの」
いや、何を言おうとその子の発言に超直感とやらはないんじゃね?一日一回だろ?ツボ探すのに使ったって言ってなかった?神の力とかそっちの作戦とかいいから大会に関係する何かをやって!
「……なんて言ったかなー。そう言えば、私は直接聞いてないからわからないわ。それも全部ここのトイレが少ないのが悪いのよ!そう思わない!?」
何の話?
「いや、それははじめからわかっていただろ。俺はセカンドステージのうちに海にしといたからまったく問題ない」
いや、チェット……。その海に何人もの人間が飛び込んでいったのだが……。まあ、ここには被害者はいないから効かなかったことにしておこう。先に進めてくれ!
「いやいや、あなたは男性だからそういうことできるかもしれないけども私たちはそう言うわけにもいかないじゃない!」
もういいだろ!そっちは先じゃない!
という俺の願いは通じず。
「俺だって鎧脱がないといけないから大変なんだぞ!」
「そんなの大したことないじゃない!デリカシーのない男ね!」
「なんだと!そんなの仲間とか船の備品とかの影になっている場所を作れば別に恥ずかしくもないだろうし。俺はやっている間ずっと鎧を盗られるんじゃないかと気が気じゃなかったんだからな!」
「鎧脱いだって言ったって目の届くところにあったんでしょ!犯人の顔も見れるしどうにでもなるじゃない!私たちは一度でも見られたら、痴女だのビッチだの言われて今後もバカな男たちにいやらしい目で見られ続けることになるでしょ!そんなこともわからないの!」
「わからないね!そもそもそう言う場所は衆人監視されているからやってても堂々と見る奴なんていないね!自意識過剰すぎるんだよ!」
「堂々と見られるかなんてどうでもいいのよ。ちょっとでも見られちゃダメなの!そもそも衆人環視があるなら鎧だって盗まれないわよ!バカね」
「バカねってなんだ!バカは関係ないだろ!」
「何よ!」
「なんだ!」
何だじゃねーよ!お前ら何に熱くなってんだ!
「おっといけない。話を戻すわね。それでセカンドステージ終わってからトイレ並んだんだけど少ないだけじゃなかったの。そのトイレがまた臭いのよ!しっかりしてほしいわよね。」
しつけーよ!
俺が戦った相手に神の力があってその子が大事なこと言ったって話だっただろ?どこに戻ってんだ!トイレの話はその余談だったじゃねーか!
「それはわかる」
共感している場合か!
「トイレを見ればその家のことがわかるっていうんで俺も母親にはきれいにしなさいってよく言われてたわ。母親はほぼ毎日トイレ掃除してたし。だから臭いのははっきり言って信じられないな」
「あら、気が合うわね。」
さっきまで全然合ってなかっただろ……。何言ってんだ、あいつ……。
「両者!ともにエフ!」
突如、大きく目を見開いていただけの審判が大声を発した。どうやら例のエフを二人ともに宣告したらしい。エフを宣告される条件がわからん。
「あら、仕方ないわね。審判さん、じゃあ、私はここで棄権します」
エフの宣告を受けた直後、チェットの対戦相手の女は審判にそう告げ、チェットに背を向けて自分たちのチームメイトの方へ歩き出した。
って!
ちょっと待て!棄権すんの?さっきまでしょうもない話をしてただけじゃん!何がどうなってその結論に至ったんだ?
「おい、待て!」
さすがのチェットも去りゆく女を呼び止める。納得いかないもんな?勝ったのはいいがせめて理由だけは知りたい。
「なによ」
「審判が勝者の名を言うまでが戦いだ。勝手に去ろうとするんじゃない!」
「あら、それは失礼したわ」
……あっそう。
「棄権により勝者チェット!」
審判が大声でそうコールすると同時に
「さすがチェットさんですわ!」
とクレサは大はしゃぎ。クレサ、さっきまでのくだり、ちゃんと見てた?
……クレサは結果主義者だもんな。
チェットは少し難しい顔をして戻ってきた。
「なんでああいうふうに勝手な行動するかなー。マナー違反だろ!」
お前にはマナー違反とか言われたくない。
「次の試合を始めます!」
審判がフィールドの中央で大声を張り上げる。
「これで2勝、あと1勝すれば俺たちの勝ちだ」
「ということは私にかかっているということですわね」
クレサの表情が引き締まる。一番目立つあの巨漢の女はまだ出てないということはクレサの相手は……。
いや、待て。まだ出てない相手はあの巨漢のほかにもう一人いるではないか!だって、アミン不戦勝だったし……。
あれ?どういうことなの?
審判が大きく息を吸う。
「ディロス、前へ!」
……ちょっと待て。
ディロスってなんだ?初めて聞いたぞ?
もう終盤だよな?
新しい単語出してくんな!
この試合方式が全然理解できんわ。




