決闘3
「相棒!エフのことは気にすんな!相棒らしさを出せば勝てない相手じゃないからさ!」
とすぐさまチェットから声がかかる。
気にすんなってわざわざ言うということはエフとやらはいいことではないのだろう。3位になるためにも気にしないというのはかなり難しい。何がエフとやらに該当したのだろうか。
言われる直前に俺がとった行動……。地面に座った……。
……もしかしてダウンとみなされたのか?
足の裏以外地面に着いたらダメとかそういうルールなのか?わからんが可能性は高い!そうとわかれば話は早い。同じことを相手にするだけだ。
と思ったが……、
「よっこいしょ」
とわざわざおっさん臭い言葉を発して、対戦相手の女は自分から勝手に座り出した。こいつ、エフだろ!
……なんだエフって、俺は何を言ってんだ……と思いつつ、すぐさま審判を見る。しかし、相変わらず眼球をカッサカサにしながら俺と女を見ているだけで何もしない。完全に腰を下ろした対戦相手を絶対見ているのに審判は何も言わない。しばらく審判を見ていたら目が合った。そして、変顔された……。
エフが地面に座ることによって言われたことではないのだろう。地面に座るという何でもない行為を再度試すと今回は目を見開いているだけで審判は何も言ってこない。
直前の行動によるものではないのか?というかエフとコールされたっきり特に何かを制限されたようでもないし、立っている状態から座った状態になった点を除けば、相手の様子が変わったわけでもない。審判は相変わらず眼球飛び出るんじゃないかってくらい大きく目を見開いている。他に俺の挙動で変なことがあったのか?とは言っても始まってから審判と対戦相手を見ること以外何もしていない。
結局何なんだ、エフって?
……チェットの言うように気にしない方がいいのかもしれない。そもそももらった理由もわからないのに、対策のしようがない。これもこの世界特有の超常識の一つなのかもしれない。
どうやって3位になるか、そんなこと以前に、もはやこれが何なのかを理解すること自体難しい……。俺が一番最初に戦うことにならなければ、もう少しやりようがあったんだが……。
いや、ちょっと待て。
これ確か、4試合同時開催だったよな……。ということは近くでどこかとどこかが戦っているってことだよな。ここからでは人だかりができていて他の試合を見れないが、俺の超スピードの助走からの超ジャンプならたぶん10mくらいは跳べる。勇者の証を探しに王宮の周りの屋根の上をを跳び回った経験がここで生きるとはな!
いや、俺ホント何やってんだろ……。能力の使いどころおかしすぎるよな……。左目の相手のステータス見る能力だって、俺強すぎて使う意味がないし……。宝の持ち腐れ、いや使ってはいるんだよな……、使い方が地味すぎるんだよ……、こういうのなんて言うんだろ……。
まあ、いいや。立ち上がりフィールドが書かれている線まで移動し、そこから全力で助走をつけて思いっきり跳んだ。今の俺なら棒なしで棒高跳びの世界新は容易いな。ええっと、気を取り直して様子を見なくては……。一か所から赤いものが見える。あれは火か?ということは魔法でも使っているのか?
おそらく普通に戦っているんだと思う。高く跳べたとは言ってもその間に見えた断片的な映像でははっきりと理解することはできなかった。まあ、理解できなかったらもう一度やるだけだ。
それに心なしか俺が大ジャンプから戻ってきたときの審判の表情がさっきより一瞬穏やかだった。目が合うとすぐに変顔したので確かなことはわからないが……。もしかしたらエフとやらは何もしなかったことに対する警告なのかもしれない。戦いの場で何もせずに突っ立っていて急に座り出したらやる気がないようにとられても仕方がない。まあ、本を読んでいるのはどうなんだって言いたいが……、この世界の特殊ルールのことは俺にはわからん。
おそらくを確信に変えるためにもう一度大ジャンプをする。さっきのジャンプで見るべき方向がわかっている分、さっきよりはっきり見えた。明らかに一方が襲い掛かり、襲い掛かられている方は応戦している。やっぱりそういうところだったんだ、ここは!
俺の対戦相手が何もしてこないのは戦いに自信がないからだと考えられる。チーム戦である以上、戦いに不向きでも人数合わせで参加させられる可能性はある。いや、そう見せておいて実は奥の手があるのかもしれない。なんにせよ、着地したらさっそく……。
「アイボー!」
着地と同時に審判が叫ぶ。今度は何だ!
「エフ!」
何で?
「フーデリックアウト!」
何て?
「勝負ありッ!」
何の?
「勝者プリン!」
何だと!
審判は目をショボショボさせながら、対戦相手の女を指差している。
なんで俺は2つ目のエフくらったの?動いていたじゃん!
「あんた、大したことないわね。あんたのおかげでジョニーの冒険の最終巻、楽しく読めたわ!」
と女はドヤ顔でそう言い残すと誇らしげにチームメイトのもと歩き去った。
なんだその捨て台詞!あいつ本読んでただけじゃん!
うざいな……。俺が相手じゃなかったら……、いや、俺が一番手じゃなかったらお前負けてたぞ!
というか魔法書とかじゃなくて噂のジョニーの冒険読んでたのかよ!……あれ?ジョニーの冒険の最終巻ってネタが切れたからってジョニーが仲間たちを殺しまくる話じゃなかったっけ?本当に楽しく読めたのかよ……。
……なんか悔しい。いろいろ悔しいが一番はなんで負けたのかまったく理解できないのが悔しい。
審判に抗議やジャッジの説明を促すことができればいいが、真ん中にいても審判が目薬差しているのを眺めるくらいしかやることがないので仕方なくチェットたちの元へ戻る。
「惜しかったな、相棒!」
……惜しかったのか?どの辺が?俺の行動の何が相手を追い詰めてたの?どこが敗因なの?フォローするならちゃんとしてくれ!
「まあまあ、アイボーサン。まだ1勝1敗デスカラ」
とアミンが俺の肩を軽く叩くが……、あんたさっき何もしてないうちに終わってたじゃないか!
「大丈夫ですわよ、旦那様!私とチェットさんが必ず勝ちますから!」
と言ってクレサは俺の手をぎゅっと握る。さっきの敗戦は確かにショックだが、それ以上に味方がおそらく反則負けしたのにその説明が全くないことなんだけどな。あれはやったらダメだよとか言ってくれれば少しは楽なんだが……。
「オラが出てれば勝ってたな!」
青龍、お前は黙ってろ!
「次、クリッパーの試合を行います。前へ!」
若干充血気味の審判が呼び出しを始める。
「そんじゃ、行ってくるわ!相棒の仇は俺が討つ!」
と言い残し、チェットがフィールドの中央に向かう。
頼んだぞ、チェット!3位になるために俺の仇を討ってくれ!
まあ、俺の仇はこの戦いの方式そのものだけどな!




