決闘2
特に何の説明もないまま1回戦が始まる。
運良く先鋒戦を戦うことを免れたみたいだ。チェットの口ぶりから察するに次鋒戦に出ることになるらしい。これで先鋒のアミンの戦いぶりを見れるから俺の出番に出番が回ってくるまでにはどんな感じか少しはわかるだろう。
フィールドには20m四方のラインが引かれている。まあ、出たら負けか仕切り直しか……そんなところだろう……。
「アーナム、前へ!」
という審判の声と共にアミンはフィールドに入っていく。なんだかわからないけどいざ始まるとなると少し緊張するな……。何が始まるのかは未だに何もわからないが、少しだけ鼓動が早くなってきた……。
アミンも緊張からか中央に向かう足取りが重い。
「早く来てください!」
という審判の声を聴きようやくフィールドの中央まで歩みを進める。
しかし、アミンがフィールド中央まで歩いているというのに、なぜか対戦相手は一人も出てこない。歩こうともしていない。メンバー表で対戦順が決まっているのではないのか?審判も何も言おうとしないし……。どういうことだ?
「くそ、まさか究極戦法をとってくるなんてな……。読めなかったぜ……」
と相手が何もしてないことに対してなぜか隣にいるチェットが悔しさをにじませている。俺には何が何だかわからないままなんだが……。究極戦法ってなんだ?どんな意味があるんだ?
というかそもそもお前メンバー決めてないからな!
チェットが解説するのを刹那ほどの間を待ち、フィールド中央にいる審判に目を移す。未だ対戦相手は出てこない。
しかし、審判は何食わぬ顔で手を前に出し、
「はじめッ!」
の声で前に出していた手を振り上げる。
そして、その直後、
「勝負ありッ!」
の声で振り上げた手を勢いよく下ろした。
……なんだ、今の一連の動きは?
そもそも勝負も何もなかっただろ……。
「アーナム戦、勝者アミン!」
審判がこちらを手で差し示す。
……何?なんなの?勝ったの?
審判に勝利を宣告されたのち戻ってくるアミンをクレサが飛び跳ねながら嬉しそうに出迎える。
「やりましたわね!」
「まずは1勝デスネ」
やっぱ勝ったんだ……。
まずは1勝だな!
って!
いやいやいやいや、ちょっと待て!
何が起こった!
ちゃんと説明しろ!
二人の様子を見ていたチェットが真面目な顔で言う。
「クレサちゃん、アミン、喜ぶのはまだ早いよ。まだ数ある山の一つを越えただけに過ぎないんだからさ!」
えっ、山の一つを越えたの?いつ?
「それもそうですわね、チェットさん。でも次は旦那様ですのでそこまで心配はいらないのでないじゃありませんの?」
「それはそうだが……。それもそうだな!やったなアミン!まずは一勝だぜ!」
……なんだこいつ。信頼してくれるのは嬉しいけども……。なんだこいつ……。
「旦那様、頑張ってくださいね!私応援していますわ!」
と上目遣いで言ったクレサのエールには応えてやりたいが、これって何、俺は審判が手を上げ下げするのを眺めればいいの?
誰か説明して!さっきの何?
「それではべローンの試合を始めます!選手は前へ!」
もうフィールドから審判の催促の声がする。
次俺なんだよな?……何もわからないままなのに。
いや、さっきのは忘れよう。実況のあいつはこれは一騎打ちって言っていた。要するに1対1で勝つのが基本であるはず。さっきのはおそらくあの中の誰かが怖気づいて棄権したのだろう。そう言うことにしておこう。
いや、それならチェットが悔しそうにしていたのはおかしいんじゃないか……、いや、今は忘れよう。
「べローンは前へ出てください!」
仕方ない。行くか。
とりあえずフィールド内で突っ立ていればいいんだろ?
と思ったが今度は向こうから一人出てきた。体の線が細く、肌も白い。明らかインドア派だ。何より本を持って来ているし……。本を何に使う気なんだ?
対戦相手の女と審判を挟んで向かい合う位置で止まる。
「それではべローン戦を始めます」
そう言ってさっき同様手を前に出し、「はじめッ!」の声で手を振り上げる。
しかし、今度はその振り上がった手はそのまま静かに腰のあたりまで降りて行った。
勝負ありではないらしい。
……どうやら何かは始まったらしい。
俺はどうしたらいい?何をしたらいい?
審判が大きく目を見開いてこっちを見ている。そんなに見られてもちょっと怖い……。しかも、目が合うと変顔してくる。ただただ腹が立つ。
俺はさ、先鋒が嫌だったんじゃないんだよ。一番最初に戦うのが嫌だったんだよ!
これじゃ結局俺が先鋒戦じゃねぇーか。
ぬか喜びさせやがって!
落ち着け、俺。
先鋒でもいいようにシュミレーションをしたじゃないか。まずは相手を観察だ。
対戦相手は持ってきた本を広げ、何やらブツブツと聞き取れない音量で読み上げている。まあそうか、本は読むものだよな。
……いや、断片的な様子だけで判断するのは早い。あれは何だ?何をしている?俺は何をされている?ただ本を読んでいるだけにしか見えないが……、これが何か意図があるとしたら俺に知識がない魔法である可能性は高い。でも特に周りは火が出たり氷が出たりはしていない。魔法の基本は炎、氷、雷、風とはクレサから聞いたことがあるが、回復魔法とかそれに該当しない魔法があるのも事実。今までも混乱状態にさせられる魔法の言葉を受けまくってたからな。
状態異常系の魔法かもしれない。そう言えば少し頭痛がする。いや、これはその前からか……。
まずいな……。目の前で女の人が本読んでいるだけという何でもない状況なのに、もしかしたらこの世界に来て一番やばいかもしれない。今までも理解不能な事態は多々あったが、俺に意思や目的がなかったことはなく、うまくいったかは別として何をすべきかがわかっていた。だから惑わされることや迷わされることはあっても打つ手がないなんてことはなかった。
いや、あきらめるな。落ち着け、考えろ……。
状況を整理するんだ。まずは空間。フィールドが存在しているということはその狭い空間で行える何かであるということがわかる。
次に審判がいるということ。審判がいるということは勝敗を決めるのは対戦者同士の主観的なものではなく、第3者による客観的なものであるということ。つまり、審判が見ようとしているものがすなわち勝敗を決める要因になるということである。
審判は手や足、あらゆる挙動を見ているようで実質俺の何を見ようとしているのかは全く分からない。目が合うと変顔をしてくるあたり、何も見ていないのかもしれない。
そして、対戦相手……。チラチラこっちを見ているが基本的に立ったまま本を読んでいる。ただでさえ小声なのにさらに早口で何を音読しているのはわからないがとりあえず審判がはじめと言ってから3ページはいったな……。これは本を読むスピードを決める戦いなのか?でもアミンは本なんて持ってなかったし、チェットもクレサも本を持っているとは思えない。今外から見ている対戦相手も本を持っているようには見えない。何より本読み勝負なら俺は絶対に勝てない。文字が読めないんだもん。
というか宝探しして船に乗って……、そして、最後に本読みバトルなんてわけがわからなすぎる。
これに関する人物や環境から考察した結果を総合して言えることはちゃんと説明を受けなくてはわからないということだ。
向こうは何もしてこないし、俺にできることもない……。どうしようかな……、寝ようかな……。
ゆっくり地面に腰を下ろす。
「アイボー!」
するとただガン見してくるだけだった審判が不意に叫んだ。
……なんだよ、急に大声出すなよ。
というか相棒言うな!
審判は相当目が乾いていたのか10回くらい瞬きをしてから
「エフ!」
と俺を指を差して言った。
エフ?何言ってんだ?
というか人のこと指差すな!




