大海15
残った刺身はその辺の人にあげて、急いでステージに向かった。
……思ったより人が少ない。てっきりほかの船で脱落者がいないものと思っていたが、他の船でも脱落者はいたようだ。
今大会のメイン実況者のキュネがマイクを持ってステージ上に立つ。
「はい、それでは次に行く前に確認です。まず1隻目はかなり優秀な方々が揃っているようでほとんど脱落者はいませんでした。残った組が7組です」
あれは優秀な奴だから生き残れるってもんじゃないでしょ。まあ、一般的な感覚を持っていれば失格はないけどな。
「問題は2隻目ですよね。私が乗っていた3艘目も残った組は1組ですが、内容が全く違います。乗船していた参加者はほぼすべてひん死の状態です。ルール上、海に落ちる、もしくは落としたら失格ですので、船に乗っている以上失格にはなりませんが、2隻目の参加者はその一組を除き、ファイナルステージを棄権するということになりました。こんなひどいことをするなんて……」
「そんなひどいことする人がいるなんて信じられないよな」
「そうですわね。次のステージで会ったらぼっこぼこにしてやりますわ」
「そうデスヨ!あいつらだけは断固許すわけにはいきマセン!」
「んだんだ」
チェット、クレサ、アミン、青龍のそれぞれが誰に聞かせるでもなくそう言うのが聞こえた。
……。
……うん、そうだね。暴力はよくないね……。
「3隻目は私が一緒に乗って実況していたのでわかります。沈黙の中にある無数の駆け引き」
いや、そんなのなかった。沈黙も駆け引きもそんなのなかった。
「手に汗握る攻防」
それもない。
「そして、参加者たちの熱き友情!」
他の参加者と一言もしゃべったことねぇけど……。
「正攻法でこれらを制し、3隻目で残ったのはたった一組です」
それらを制すも何もなかったって。お前が落としてた。そして落ちてた。
実況者の話に解説のおっさんがうなずき、一言。
「これは今大会の台風の目になるかもしれませんね」
うるせーよ。
「4隻目は結果から見るとダメな奴らが多かったようですね。次のステージに進む組は0組です。全員船酔いして海に飛び込んだらしいです。カヅワさんは4隻目に乗っていたんですよね?どうでした?」
落ちた奴らをダメって言ってやるなよ……。ダメなのは審査方法さ!
「ああ、もう大丈夫だよ。去年は乗り込んですぐに吐いてしまったからね。今年は船酔いだけはしないようにあれから一年に一度は滝に打たれるようにしたんだが、やっぱり1時間も経たないうちに気持ち悪くなって吐いてしまってね……。それが他の人に移って……、地獄のゲロ船になっていました」
あいつらが降りてきたときいい笑顔だったのは開放感か……。
こいつらがいる船は本当ろくなことねーな。
というかそもそも滝に打たれて酔いが克服できるか!
いや、その前に去年から一年に一回は……って結局1回しか言ってねぇじゃん!
格好つけんな!
「合計9組が次のステージ、ファイナルステージに進みます。ファイナルステージで行われるのは一騎打ちのチーム戦です!」
……一騎打ちのチーム戦?それは何だ?
言葉の意味をそのまま受け取れば、柔道とか剣道とかの団体戦みたいなものか?それなら一騎打ちでチーム戦という意味もわからなくもない。
でも、チームって必然的にこの4人組だよな?偶数だぞ?
それならはじめから参加者を奇数にするべきだろ……。特に今までチーム内での協力が必要になったステージはないし、これからもないんだろ?これがファイナルステージなわけだし……。2勝2敗になったらどうするんだ?それとも3人制とか?でも、それならセカンドステージで一人脱落してもいいよな……。何がしたいんだ、これ?
「つまり、これはチーム対抗で行われる一対一の戦いです」
言っていることはわかるんだよ。言ってることに解釈が追い付かなくて困ってんだよ。ちゃんと説明しろ!
「しかもトーナメント形式です」
そうかトーナメントか……、じゃなくて中身!たぶん誰もわかってないぞ!
「このチーム戦の方式はアルメナスの悲劇方式ですと言えば皆さんわかりますよね?くどくなるので説明は省略します」
省略すんな!
誰?もしくはどこ?アルメナスって何?悲劇ってどういうことなの?
全然わからん!
「よっしゃ、気合がみなぎってきた!まさかアルメナスの悲劇方式の大会に参加できる日が来るとはな!ファイナルステージはストレートに決めるぜ!」
「おばあさまから聞かされていたアルメナスの悲劇をここで……、楽しみですわ!」
「ここで私の力を思い知らせてやりマスヨ!」
「ウォォォォォー!オラ、やるべ!」
どうやらうちの面々は気合がみなぎっている。そのエネルギーをどこに向ければいいのか、本当にわかってるのか?
いいよ、どうせ始まってから俺が頑張って理解していかなきゃならないんだろ?もういいよ。
まあ、でもアルメナスの戦とやらがわからなくても一対一の団体戦ということはわかっているんだ。一騎打ちということは戦いだろうし……。
細かい部分で俺の常識を覆す何かが起こるかもしれないが大部分は武道の団体戦のような感じだろう。
それよりも3位になるために大事なことは対戦の組み合わせだ。
9組によるトーナメント方式ということはほとんどが準々決勝からスタートすることになるが2組だけ一回多くなる。2/9の確率で準決勝に進出するのに2勝必要になるブロックに入れられてしまう。別に2勝するのはいいんだが、2勝したら決勝なのか、そうじゃないのかだけはっきりさせないと……。バンジャローになりたくないし、ステッカーはもっといらん。
組み合わせは何で決めるんだろうか……。セカンドステージは順位付けできるような内容じゃなかったし、抽選か?
「あっ、対戦表は今までの成績からこちらの独断で作らせていただきました。対戦表を確認の上決闘のステージまでお越しください。それでは健闘を祈ります」
お前らに俺たちの何がわかるんだよ!勝手に決めんな!
それは置いておいて対戦表を見ても俺たちがどこに割り当てられているのか全く分からない。口で説明してくれよ。文字は読めないんだよ!
いやでも、よく考えれば問題ないな。その二組になったら間違いなく一番最初に戦うことになるはずだ。ほかの相手よりも先に戦いが始まったら俺たちは運が悪かったということになる。もしそうじゃなかったら勝って負けて勝てば3位だ。世界地図だ。
対戦表を覗き込んだチェットは振り返って言った。
「おっ、さっそくだぜ、相棒!」
さっそくなのか……。ついてねーな。一番最初に戦いが始まればわかるとは言ったが、少ない回数で望む成果を得られた方がいいに決まっている。ついてねーのは今に始まったことではないが……。
と思ったらほぼすべてのチームが移動を開始した。
……どういうことだ?
スピーカーからキュネの大きな声が流れる。
「いよいよ始まります、ファイナルステージ!アルメナスの悲劇方式の決闘です!今から4つ同時にそれぞれの場所で始まります。1つだけ違いますが3つはなんと準々決勝まで勝ち上がった面々です!どこを見ても見ごたえありますよ!観客の皆さんは早いうちによい席確保してくださいね!間もなく始まります。」
そういうことね。4箇所一気に始めるのね……。
それじゃわかんねーじゃん。
本当についてねーな……。




