大海13
まずは手始めに……、甲板にうちのアホどもが陣取っているしそこは後、まずは船内でのほほんとしている奴らから……。
「皆さん、このあたりの海域が何て呼ばれているかご存知ですか?」
ん?
まだなんかスピーカーから流れていたのか……。まあ、関係ないがな。むしろ参加者の気がいっているなら願ったりかなったりだ。
「この辺りは当時バンジャローと海の覇者を争っていた海賊リップスがバンジャローに船を沈められた海域で……、え~と、バンジャローファンならもはや常識である……え~、何とかの戦いの跡地です」
いや、常識なら勉強して来いよ!
「失礼しました。跡地というのはおかしいですね、海なのに」
それを謝るのかよ!どうでもいいわ!
「それでですね。これは噂ですが、今も沈められたリップスの海賊船に積まれていた財宝が上昇海流に乗って上がってきて、このあたりでも発見できるという話を聞いたことがあります。まあ、あくまで噂ですけ……。んん!あれは……、もしかして……、ざ、財宝では!見てください!船の進行方向右の甲板から何やら光り輝くものが見えます!」
ってそんなうまい話が……。急いで甲板に向かうと確かに海から太陽の反射とは異なる光が無数に見える。
「私は子供のころからこの話を聞かされていて……。当時の金貨を持っている人がいるならいい値で買うと言うのが私の母親の口癖で……。金は金なのに何言ってんでしょうね。ああ、実況者なのにうまく言葉が出てきません。今まさに夢のようです!」
これ全部手に入れたらたぶんお前の家破産するぞ……。
「このラジオは少しの間お休みします」
と言った直後、海から大きな水しぶきが上がるとそれに倣うかのように参加者が次々に海に飛び込んでいった。どういう事態だこれ……。幸いにも一人遊びに夢中でチェットもクレサも甲板で何が起こっているのかすらわかっていないようだ。アミンは甲板の隅で嬉々として海に飛び込む参加者たちを引いた目で見つめていた。
最終的に海に飛び込んだ奴が18人もの人が脱落した……。これで脱落って……、むしろここで何もしなかった奴よりも海賊らしいのにな……。
おっと、こうしている場合じゃなかった。俺にはやることがある。と思った矢先、再びスピーカーから声が流れる。
「うう、ちょっと寒くなってきましたね」
お前はな!
「ところで突然ですが、皆さん、サケってご存知ですか?」
サケって……魚か?この世界にもいるのか?
「いや、今私が一杯やっている方の酒ではないですよ。サケです」
いや、何で飲んでんだよ、こいつ……。
「この辺りはサケの漁獲量が世界一と評されるほどの名産地です。あっ、またしても失礼をしました。名産地だなんて、海なのに……」
だからうっせーつーの!
「特に今はサケが旬ですので身が厚い上によくしまっています。また黄金色に焼いた肉からは溢れんばかりの肉汁がジュワ~と溢れだしています。私は今そいつで一杯やっていますが……、くぁああ、最高です!」
おっさんみたいな声出すな!というかまともに実況下のはじめてじゃね?内容はセカンドステージとまったく関係ないけど……。
「サケは鮮度が一番です。見わかるときはまず目をご覧ください。目が濁っていたり充血している者は鮮度が落ちています。切り身の場合は水気にご注意ください。乾いているものはサケ本来の旨味が落ちているので注意が必要です」
何でそんなに詳しいんだよ!八百屋のくせに……。時間あるならバンジャローについてもっと調べて来いよ!
「まあ、私が食べているのはさっき捕まえたものなので鮮度の心配は全くないというか最高レベルです。サケは基本的に網で取りますがこの船にはそう言ったものはございません。ですが、係員に尋ねていただければ銛をお貸ししますのでご自由にお使いください。この船には一流の板前職人がございます。お申し付けいただければ有料で捌きます」
こうして欲望に忠実な奴が死んでいった……。これ本当に海賊になりたい奴を残す気あるの?
4人のうち一人でも落ちたらその組が失格となるルールでさっきのと合わせて半分以上が海に入り、残っているのが何組かわからんが少なくとも半分以上の組は落ちた。
実況がかなり煽っているいるのはあるけども、こいつら何しに来たんだ?
そして、さっきからスピーカーから流れる悪魔のささやきをまったく意に介さず一人で遊んでいるチェットとクレサ……、お前らも何しに来たんだ……。
俺的には都合がいいけども、なんか腑に落ちない……。
その後、はふはふしながら酒を食べ、くぁああっと深い息を吐くしょうもない放送が流れた続けた。俺は当初の予定を変更して悪魔のささやきからチェットもしくはクレサが海に飛び込まないように監視することにした。だってすでに半分以上は脱落しているし……。今は攻撃に出るよりも守りを固める方が先決だ。
「おや、皆さん。進行方向左をご覧ください」
今度は何だ!
「かなり遠くですが、海上に立派な建物が見えますか?」
確かに海上に大きな建物……、あれは城か?ずいぶん立派だ。勇者の証を手に入れに行った王国の首都の宮殿と同じくらいの規模にあの城以上の推定5、6階建ての大きな城だ。色が黒を基調とした地味な感じなのがあの規模の城にあって違和感があるが……。そんなことはこの世界に比べれば知したことではない。
それにしてもあれはどういうことなんだ?
この世界には海上都市みたいなものがあるのか?もしくは海底都市みたいなものが……。まあ、どっちにしろ、ちょっと行ってみたい……。
「そうです。あれが魔王城です」
……ハァ?
ちょっと待て!
おい!
ちょっと待て!
……全然言葉にならないんだがちょっと待てよ!
何でそんなところにあるんだよ!なんでこの船は平然と通り過ぎてんだ!
この世界に来て結構な不意打ちを食らってきたが、今回のは相当なもんだ。
落ち着け、俺……。
いや、どう落ち着けと……。
それでも落ち着け……。
魔王城と言われてもこの辺に強そうな魔物はいない。もしかしたら魔王とは言ってもそんなに実害はないのかもしれない。いや、そんなはずはない。そしたらわざわざ俺みたいなのを異世界から召喚する必要もない……。何より妖精王があそこに幽閉されているんだからな。……実害があるのか?
この世界の魔王ってなんだ?俺はどうしたらいいんだ?
「あそこは危険ですので絶対に立ち入らないでくださいね」
いや、注意が暢気すぎるだろ!怖いおっちゃんが住んでいる近所の家くらいの感覚で言うな!
ここで脱落者が増えることはなかった。
何事もないまま、魔王城が見えなくなるくらい船が進んだ。いきなり決戦とか言われてもどうしていいかわからんし、それに俺の旅の目的はもう変わったしな。
とりあえずセカンドステージはこのまま何事もなく終わってほしい。これからのことはもう少し落ち着いてから考えたい。
とは言ってもやはり何事もないというのは無理だった。
「ああー!」
スピーカーから驚きの声が上がる。もうそろそろ黙っててくれ。
俺はすでにきついんだが……。
「あれをご覧ください!船の進行方向右です!あれは……ヌ、ヌ、ヌーディストビーチです!」
ヌーディストビーチって魔王城の近くになんてものがあるんだ!バカばっかだな!ここからじゃさすがに魔王城を見ることはできないが知っていたら開放感なんてものねぇーだろ、さすがに!
「見てくださいあのあられもない姿を!」
見んな見んな!
「しばらく実況をお休みします。次の放送は決まり次第連絡します」
そして、またたくさんの水しぶきが上がる音が聞こえる。今度はさっきよりもたくさん……。もう何が正しいかわからなくなってきた。
そうして次の船内放送はないまま3時間の航行、体感的にはもっといたような気がするが……、セカンドステージは終わり、俺たちは最初の港に戻ってきた。船を降りると会場中に変態実況者キュネのアナウンスが響き渡る。
「セカンドステージを勝ち残ったのはなんとたった一組です!彼らは今大会の台風の目となること間違いな……、ヘッ、ヘックショイ!あ~、失礼しました。彼らは台風の目になること間違いないでしょう!」
……何が台風の目だ。
ほとんどお前がやったようなもんだろ!




