大海8
「それではファーストステージを始めます!ファーストステージはこの広場から半径1km以内に隠されているツボを見つけ出し、その中身を持ち帰ることです。これは海賊として必要な宝物の嗅覚を試されているそうです」
そんなんで海賊としての嗅覚がわかるのか?というか実際に海賊になったとして世界のどこかに宝物が隠されているなんてことがあるのか?誰が隠してんだよ!何のために?
……ってこと以上にツボ?ツボって言った?ツボってまさかな……。
「なるほどこれは難しいですね。ツボを見つけてもそれが1km圏内のものか確かめなくてはなりませんからね。私も長いこと解説としてこの大会に携わってきましたがこんな鬼畜なファーストステージは前回大会以来じゃないですか?」
自称解説役のカヅワが感心したようにうなずきながら言った。
えっ、そういうこと?だったらもしかしてあのツボも突破できない可能性もあるわけだ。
「いえ、1km圏外には隠していないはずです」
解説してねぇじゃん。聞き手に混乱をもたらしてんじゃん。やっぱ山に帰れ。
「皆さん、ツボと言ってもどんなもののかわからないと探しようがありませんよね」
確かにそうだ。もしかしたらさっき海で拾ったのもまったく関係ないツボかもしれない……。中に入っていた紙もただの無人島からのSOSかもしれないし……。
「今回使われるツボはこちらです」
そう言って実況の女がステージ上で持ち上げた壺は……、明らか見たことあるものだった。そもそも始まる前から見つけられちゃうような宝探しは種目として大きな問題があるのでは?そう言うところが緩いんだよな……、この世界は全体的に……。
「制限時間はちょっと短いですが1時間です。上位40組がセカンドステージ進出です!はい、じゃあ、スタート」
なんか雑な感じで突然始まった……。いや、終わった……。
会場中の人が一斉に広場の出口に向かって駆け出す。必死な形相の参加者を横目に俺たちは広場の端にあるベンチに腰掛けた。
すぐにツボの中から見つけた紙を渡しに行くのかと思っていたが、クレサがトイレに行きたいと言い出したので、とりあえず隅の方でクレサと付き添いの青龍が戻ってくるまで待つことになった。パッと見た感じ俺たち同様にすでにツボを見つけていた人は多くすでに列ができている。
この大会……、クソすぎる……。開会式やっている間に隠すとかこれを2回戦にして1回戦の間に隠すとか、これやりたいならいくらでも方法はあったろうに……。
なんだこれ……。何だこの大会……。参加者の本気はこんなクソみたいな仕様で満足できるのか?
ただ一人事態を飲み込めていないアミンだけは落ちつきのない様子でいた。小声でなんで今トイレに……とか何とか言ってとにかく周りをキョロキョロしている。せっかく大会に参加したのに仲間たちが一歩も動こうとしなかったら……、まあ、気持ちはわかるが……。
「みなサーン、何のんびりしているのデスカ?早くいかないとおいていかれちゃいマスヨ!」
アミンは焦燥混じりの声でチェットに訴える。実はもう終わっているんだね~って軽いノリで言ってあげたい。
「アミン、そう焦るなよ。今までのことを思い出せ、俺たちは大丈夫だ」
思い出せも何もその時いなかったから。俺達との思い出は15分くらいしかないから!何を思いださせようとしているのやら……。むしろ、お前が思い出せ!
「ああ、そういうことデスカ……」
何を納得したのかわからんがアミンがうなずく。
いや、何を思い出したんだよ。知らねぇだろ!無理に合わせなくていいんだって!まあ、知らなくてもわかったならいいわ。
「あれを奪うんデスネ。だったら急がナイト!」
と言ってさっきステージ上で見本として見せたツボを指差す。
いや、そう言うことではないわ!状況が変わっていたら俺やってたかもしれないけどな……。というか海賊の大会としてはむしろ推奨すべきなのでは?普通に見てたが列に並んでいる奴らを含めてさっきから行儀良すぎだろ……。
「違う違う。落ち着けって忘れちまったのかよ、あのこと!」
チェットはそう力強くいうが、知らんもんは知らんよな。あの事とかぼかさないで言ってやれよ!見ててアミンが哀れだわ。俺が話せればこんな茶番なんて速攻終わってクレサ遅いなーとかいう平和な話になるのに……。人が一番聞きたいことを言わないのはお前らこの世界の住人の悪いところだ。
「わかりマシタヨ。そうデシタ。落ち着いて考えればわかることデス……」
またしてもアミンが納得する。しかし、こいつもこいつで凄いな。
「こういう種目ではコレクター……、つまり必要以上にツボを集めてくる人がイマス。その人たちから奪い取るのデスネ」
発想がやはり普通の人ではないが、どこかこの世界の人とかみ合っていないような……。なんだろう、この違和感。
「違う違う。そんな物騒なことをしないよ」
「ま……、まさか買い取るんデスカ?」
何でそっちがまさかなんだ?コレクターなんだからむしろ向こうも売るのがメインなのでは?こいつ……、最初の印象と違ってちょっと危ない奴か?
「忘れちまったのか?もうあるんだよ!ほら!」
そう言ってようやくチェットがポケットから紙切れを取り出しアミンに見せる。それを最初に言ってやれよ……。いつもの俺を見ているようだ……。
「そうだったのデスカ……」
こいつらのやり取りのあとに襲い掛かってくる虚無感……。その気持ち……よくわかるぜ……。
しばらくしてクレサたちが戻ってくる。思っていた以上に時間かかったが、まあ、クレサのためにも詮索はしないでおこう。と思っていたが青龍が我慢できないとばかりに嬉々として話し出す。
「クレサっだらトイレでなー」
詮索しないって言っただろ!いや、言ってないけど野暮なこというな!
「ちょっ、やめてくださらない。恥ずかしいですわ」
本人もそう言ってるし、青龍お前黙ってろ!
「いんや、ぎいてほじいべ。クレサっだらな、トイレの前で……。……いや、やっぱやめておくべ」
いや、言えよ!
……クソ、青龍に遊ばれた。でも誰か気になって……。
「おい、青龍。いつまでも遊び気分でいられたら困るぞ!」
チェットがなぜか青龍を戒める。そういうお前は何気分でいるの?兄貴分?どうせ、青龍が喋ってんのが気にくわなくっただけだろ。
さすがに俺たちが並ぶころに行列は消え、すぐに順番が回ってきた。
「おめでとうございます。あなた方で29組目の通過者です!」
まだ始まって10分くらいだというのに、すでに半分以上通過しているのだけど……。これコレクターとかやってたら絶対負けるだろ。必要以上に宝集めしている方が海賊っぽいのに……。大会のルールにかなり問題があると思うんだけど……。
「次のステージですが、海賊と言ったら航海がつきものですよね」
いえ、この大会が始まる前から後悔が付いてまわってます。
「セカンドステージはその紙に書かれている通り、船酔いテストです」
その紙に書かれていることはまったくわからんが、……船酔いテスト?名前から察するに船に乗って……、今まで船酔い適性を検査するなんてこと考えたこともないからな……。船に乗って……、乗って?
「そうそう、それを待ってたんだよな」
「楽しみですわ、私、船は初めてですの」
「んだんだ、オラさ、昨日楽しみで眠れながったべ」
知ったのは今日だろ!
とはいえ皆さんは自体を把握しているらしい。
「次はナニヲ?」
「次は船に乗るんですの!」
自体を把握できていないアミンの質問にクレサは輝かんばかりの笑顔でそう言った。
だが、ほんのちょっとだけ考えてほしい。言われなくてもそのくらいはわかる。
聞きたいのは船に乗って何をするかだ!
船の上なんて完全に孤立した世界。海賊になりたい人たちがそんな隔離された空間に集められてすることと言えば……、力比べ系の何かだろう。
トンデモ展開のパターンだ……。




