大海6
チェットが受付で参加申し込みをしている間、クレサと青龍は幸せそ……、なんか楽しそうにしており、その輪に入りきれない俺とチェットに連れてこられた人は話せ……、特に話すこともないので会場の隅にあるベンチに座ってクレサたちを眺めていた。
この人はどういう人なのだろうか。ベンチに座っている間、何度かコミュニケーションをとろうとはしていたが、こちらの都合でそれもできずボーっとしている。特徴的なのはこの世界に来て初めて見た褐色の肌ということくらい、この世界にも様々な人種とかあるのだろう。でも、それ以外は普通だな、端正な顔つきは真面目そうな印象を受ける。チェットにしてはまともそうな奴を連れてきたものだ……。
……あれ?今のはフラグになってないよね?
おっと話が脱線してしまった。でもまあ、チェットが受付で参加申し込みを終えて戻ってきたし、何らかの説明があるだろう。チェットはクレサと青龍を連れて俺たちの前に来るなり言った。
「改めて紹介するな!彼は4人目の助っ人でこの街の人だ」
……それで?お前の情報は俺が感じた第一印象以下なんですけど……。
「どうもこの街の人デース。ヨロシクネ」
妙にカタコトな言葉でその男も挨拶する。別にこいつのつまらんギャグに乗っからなくていいんだが……。
それは真面目なだけだよね?
「私はクレサと言います。よろしくお願いしますわ、この街の人さん」
「オラは青龍。よろしぐだっぺ」
何で普通に挨拶してるの!?
えっ、もしかして本当に『この街の人』が名前なの?
だとしたら親は言った何を考えて……。こんな名前だったら昨今のキラキラネームよりもいじめられるわ!
……マジで!?
クレサと青龍が普通にあいさつするのを見て、この街の人は慌てて手を左右に振りながら言う。
「いや、ちょっと待ってくだサーイ。冗談デース。自己紹介させてくだサイ」
……そうだよね。うちの連中はバカみたいに真に受けやすいから今後気を付けてね。
マジでやめろよな!
「改めて私は隣町で自営業してマース、アミンって言いマース。今度こそヨロシクネ」
おい!この街の人じゃねぇーじゃねぇーか!
結局、チェットは何も知らないってこと?よくスカウトしたな……。
「そうだったのか、そんじゃ改めてよろしくな、アミン」
そして、よくスカウトされたな……。願わくば変人ではありませんように……。
「改めてよろしくお願いしますわ。この街の人さん……、長いのでマッチさんでいいですか?」
だからクレサ、この人、この街の人じゃないって……。隣町の人でもマッチさんだからいいか……。
今までのくだり全然理解してない……。
「んだ。よろしくだべ、この街の人……。なげーからコノマチでええが?」
統一しろよ!なんでオリジナリティー出そうとすんだよ!それにこの街の人は名前じゃねぇーって!青龍、お前は黙ってろ!
……ってもういいわ。
さて、この一連の流れで俺も自己紹介と行きたいところだが……、『はい』と『いいえ』では自己紹介はできない。
「それで、さっきから無口な彼はどなたデースカ?お名前教えていただけまセンカ?」
思っていたら、向こうから話を振ってきた。心の声をオープンにしたらたぶん一番うるさい人になると思うがな。自己紹介……、今までやった記憶がない。一度もしないでどうやって今まで生きてきたんだっけ……。
「彼は俺の相棒だ。確かに無口なところはあるがいいやつだ。よろしくしてくれ」
そうだ、こんな感じでチェットが話を進めてくれるから自己紹介したことなかったんだった。なんか勝手に解釈していたんだよな。たぶんチェットが思っているほどいいやつじゃないけどよろしくな。
「ソーデスカ。よろしく、アイボーさん」
お前は相棒言うな!あと『相棒』は名前じゃないだろ!
一通り顔合わせも済んだし、早く大会始まらないかな。ステージでは舞台上の準備がすでに整っていそうな雰囲気であとは視界とかが来るのを待つだけといった状況だ。周りも期待勘が高まっているのかざわついている。参加することが避けられない今俺も少し楽しみになってきた。しかし、未だにこれが何の大会なのかわからないんだよな……。
経験上、こいつらからの情報は初めからこれっぽっちも期待できない以上開会式ぽいところで何か説明をくれるといいんだけど……。
いや、待て。
経験上、こいつらは俺の欲しい情報に限って何もしゃべらないが、聞き方によってはもしかしたらアミンなら何か言ってくれるかもしれない。
どうする?どうすれば聞き出せる?
「さてと、自己紹介も済んだところでアミン、ちょっといいか?アミンはこの大会のこと、前から知ってるんだよな?隣町の人なのにこの大会のこと知っていたということは……。」
なんだなんだ?天変地異の前触れか?
だが何でもいい、聞いてくれ!この大会、前にも参加し……。
「自営業って普段はどんな仕事をしてるんだ?よくこの街に来るような仕事か?」
そうじゃねぇーよ!最悪、何の仕事してなくてもこんな大規模の大会なら知っててもおかしくないだろ!
というかそれ、自己紹介済んでね―じゃん!
お前スカウトしてきたのに何も知らねーのな!
ホントどうやってスカウトしてきたんだよ!
「私もぜひ聞きたいですわ!」
クレサが手を挙げてピョンピョン飛び跳ねる。
どうでもいいとは言いずらいが、そんな積極的に聞きたい内容か?
「はたしてオラよりも収入ええがな?」
青龍、お前のアレ収入あるの!?
「私の仕事は一言では難しいデース。実は私は<神の右鼻>を持っていマース。それを使った仕事デース。」
「へぇー、そうなんだ」
その説明じゃ、何の仕事か全然わかんねぇーじゃん。チェットは何を納得したんだ?
「えっ、<神の右鼻>……ですって……。」
目を真ん丸に見開いちゃって……、クレサは神の力にいちいち反応がオーバーなんだよ!神の力なんて大したことないのばっかだろ!
「!!!」
青龍、黙ってるのはいいがお前も似たようなの持ってるだろ!何をそんなに驚いてんだ?
「あっ、なんか一方的に聞いてばっかりで、俺たちのことまだ言ってなかったな。俺はチェット」
名前はさっき言っただろ……。
「魔法剣士と兼業で勇者もやっている。俺の先祖はかの大魔法使いジクリーンで魔法に関しては幼いころから基礎を叩きこまれたから、初級から上級まで魔法は扱えるぜ。うちの村は小さいしちょっと特殊で村人全員が家族みたいな感じなんだ。あっ、血のつながった家族は母親と妹が実家にいて、あと兄ちゃんがいるんだけど俺の兄ちゃんはすげぇんだぜ!なんと――」
なげぇよ!
アミンに仕事を聞いたのはただお前が話したかっただけか?しかも仕事関係ないし……。
「私は……、旦那様の……、は……、恥ずかしくて言えませんわ」
そう言って顔を手で覆ったクレサの耳は真っ赤になっていく。この子は本当に一人でも楽しそうだな……。
「オラは勇者の試練の洞窟で試練官をしている四神の一匹だ。オラのほかに試練官をやっているのは白虎と朱雀と玄武なんだども……。えぇーど……、あっ白虎が一応オラたぢのリーダーぽく振る舞ってんだげども……、あっ、あいつがおらたぢのなかで一番年長だがらで……。だども白虎っだら全然冗談通じんくて、あと朱雀はええ奴だど、おごりっぽいとごもあっけどな。玄武もよぐみんなを笑わせてぐれで――」
お前は無理してチェットに張り合おうとしなくていいわ!しかもほとんど同僚の説明で自己紹介全然してないしな!
チェットと青龍の同時攻撃に疲れたのか俺と目が合う。悪いが俺では助けられん。チェットの言葉攻撃は耐えるしかないんだ。経験者の俺が言うんだから間違いない。たぶんあと数分もすれば大会が始まるからそれまで頑張れ!
思っていたが、彼は俺にはない力があった。
「それでアイボーさんは?」
そう、質問する力だ。
いや、そう来るのが普通か……。いいな、話を遮るすべがあって……。
チェットの口が止まり、俺の方を見る。
「相棒は相棒だ」
いや、相棒は職業でもなんでもねぇーよ?お前の中で相棒とは何なんだ?今後お前の口から出てくる相棒という言葉をどうとらえたらいいんだ?
大会始まる直前にチームワークに疑念が生まれた。




