大海5
チェットとクレサがそれぞれ頑張って、謎の大会に参加してくれる人を探しに行くことになった。
不幸中の幸いと言うべきかあと30分以内にエントリーを済ませないといけないらしい。こういっちゃなんだが、ぶっちゃけあと30分でそんな都合のいい人が見つかるとは思えない。
この街が青龍の背中に乗ってきただけでどこなのかわからんし、仮に初めて来たところじゃないとしても、ここまで特に誰かに会いに行こうなんて素振りを全く見せなかった以上、ここに好意的な人脈があるとは思えない。
クレサはそもそも世俗と完全に隔離された山の中で暮らしていたし、チェットもチェットで人脈なんてものがないはずだ。何せあいつは会った初日から俺のことを相棒呼ばわりしてきたからな。友達一人もいないんじゃないか……。これは考えないでおいてやるか。
いくらこの世界がとんでも常識の世界とはいえ、とてもじゃないがこんなに急なお願いを聞いてくれるような人間関係を作っていたとは考えにくい。
今思えば、あいつの瞬間移動魔法を使えば、あいつの家族の一人くらい連れて来れそうだが……、でも、あいつ考えがあるとか言って青龍の背中に乗って行ったしな。
まあ、せいぜい無駄なあがきだ。気の済むようにしたらいいさ。
あいつのことはいい。俺が心配なのは残されたクレサが何をするのかということだ。考えがあるとは言っていたが、その考えが検討もつかないし、その考えが何であれ、とてもじゃないけどうまくいく想像つかない。
「チェットさん、行っちゃいましたわね……」
クレサがチェットの背中を見送りつつ、つぶやいた。
奴のことは心配すんな。すぐ泣きそうな面で帰って来るさ!
「さて、私たちも頑張りましょう!えいえい、おー」
とりあえずクレサの掛け声に合わせて拳を上に突き上げたが……、何をするの?
この子しっかりしているようで頭のねじが抜けているときがあるから心配でしょうがない。
「旦那様のためにも絶対この大会参加して見せますわ!私も旦那様の役に立ちたいもの!ピンチのときこそチームワークですわ!」
……えっ、旦那様の役に立ちたいの?立ちたいならそこでじっとしていてくれないかな……、マジで……。
「早速私たちも取り掛かりましょう!私の作戦はシンプルですわ。仲間になってくれそうな人に仲間になってくれるようにお願いしますの。名づけてスカウト作戦ですわ!こんなに人がいるのだからきっと一人くらい協力してくれますわ!」
……ちょっと待って、何するって!?
聞き間違いじゃないよね……、スカウト作戦って言ったの……。
つまりここにいる人に仲間になってもらうってことでしょ。中にはこの大会の運営に携わっている人もいるが、このあたりにいる人はほとんどが大会参加者だろう。つまりエントリー済みというわけだ。
驚くほどに浅はか……。
浅はかすぎて、さすがの俺でも思いつかなかったわ。
こんなんでうまくいくと思ってんのか?相手からすれば何言ってんだって感じだよな。しかも開始前で空気が張りつめているこの状態で……。この作戦だとわけのわからんこと言われた相手がキレて、それでクレサのメンタルが自爆するなんてこともあるかもしれない。いや、この子はそれに対して逆ギレとかしそう……。
まだ参加できるかわからないのに前哨戦とかやめてくれよ。
クレサの平常時の言葉使いは丁寧だし、見た目も中身子供だからお家帰りなさいとか言われて終わるかもしれない。いや、最悪の場合、俺の考えの方が間違いでクレサの考えがこの世界のワールドスタンダードなのかもしれない。いや、自分を信じろ。
やばい、大会に参加するかしないかってこと以上にハラハラしてきた。
「それでは私、行ってきますわ!」
と言ってクレサはちょこちょこと知らないお兄さんの方へ歩いていった。
成功されても困るし、止める方が優しさなのか……。いや、ここはクレサに人間関係の築き方という側面である程度成長してもらうためにわざと失敗させた方がいいのだろう。クレサはもちろん、今後の俺のためにも……。
交渉のすべてをクレサに任せるが、暴力沙汰になったらさすがに止めに入らなくてはならない。俺はクレサにばれないように話し声が聞こえるまで近づいた。
「あの、うちのチームに入りませんか?」
ずいぶんとまあ、単刀直入な声のかけ方だこと……。確かに何するかわかっている分、スムーズに話を先へ進めるが……。
「えっ!うーん、それはどうかなー」
クレサに声をかけられたお兄さんは戸惑いながら答えた。
なんではぐらかしてんのかは知らんが、いい返事がもらえるわけはないわな。クレサはなぜか言葉にならない驚きを顔で表現しているが、成功率がどのくらいのつもりで声かけたの?
何の大会かは知らんが開始前の状況を見るにほとんどの人が勝利を目指しているように見える。しかも、チーム戦ということはそれなりに気心が知れた仲か実力を認めている者と組んでいるはずだ。当日の、しかも開始の30分前に突然言われてチームを変えるような奴は普通いない。そもそもこっちの戦力は目の前にいる幼女しかわからんのに……。
でもまあ、ここまでは想定内だ。ここからの展開がクレサにとって大事になってくる。断られたクレサはどう出る?
「お嬢ちゃん、ちょっと来て」
と思ったが、次の言葉を発したのはお兄さんの方でそのままクレサと会場の端っこの方まで移動した。とりあえず俺はそのまま二人に同行した。何をする気か知らんが、お兄さんのためにも度を越した展開にならんといいがな……。
しかし、というかやはりというかそういう展開にはならなかった。俺はまだこの世界のこと、この世界の人間のことを舐めきれてはいなかったようだ。
「……それで?いくらだ?」
……。
いや、何言ってんだこいつ!?
金の問題なの!
「今はこれしか……」
クレサは小さなポーチからコインを数枚出す。
いや、出さなくていいでいいわ。
十分持っていたとしてもいらねーよ、そんな幼女からたかるような奴!
「ごめんな、お嬢ちゃん。もうすぐ始まるし、団長のところに戻らなくちゃ!」
クレサのなけなしの硬貨を見るとそう言ってお兄さんはもと来た方へ走り去っていった。
失敗したのはよかったが……、相手がクズ過ぎた……。
クレサの教育に悪いものを見せてしまった。このままだと間違った価値観を持ちそうだ。いや、正しい価値観なんてこの世界にはないのかもしれないが……。
世界は無常だな……。
「あら、旦那様!」
交渉の一部始終に唖然としていて隠れるのを忘れてしまっていたところをクレサに見つかってしまった。
「もしかして見てましたか……。私、失敗してしまいましたわ……」
……そうだね。
慰める?叱る?諭す?
……今まで不便さを感じたことは何度もあったが、言葉を持たないことがこんなに悔しいのは初めてかもしれない。
「私考えましたの、なんで失敗したか……」
今からお金を稼ぐとか言うなよ。
失敗は作戦そのもの以外にはなかったからさ!
「さっきの人は参加者だったから断られたのですわ。今度は受付の人に聞いてみますわ!」
……ポジティブ過ぎない!?
どういう思考からその結論に達したんだ?
「おーい!」
クレサが反省?を聞いていたところにチェットが青龍に乗って戻ってきた。しかも、知らない男を連れて……。男の肌は褐色で全体的にそうだが特に下半身が筋肉質である。見た目だけで判断すると俺より力はありそうだ。あくまで見た目での判断だけど。
……まあ、そんなことは大した問題ではない。
「つれてきたぜ!彼が4人目だ!急いでエントリーしよう!」
そう言ってチェットは早速受付に向かって駆け出した。
クレサは大して成長してないし、結局参加することになるし……。
なんか無駄なことばっかしてる気がする。




