大海3
チェットがクレサと青龍を連れて軽い足取りでどんどん進む。
さっきまで困ったとか言っていたのにその足取りにあまりに迷いがないのが逆に不安なのだが……。
あの紙には地図でも載っていたのだろうか……。
そう言えば俺、この世界にきて地図を見たことなかったな。図面とかは読めるのだろうか?
今の位置がこの世界のどこらへんなのか、まったくわからない。
チェットの移動魔法や四神の試練やらでワープとかしたし、移動距離自体はそこそこあると思うが土地勘はまったくない。
いや、それは置いておいても普通に地図が見たい。
この世界は普通ではない。俺の常識が通用しないことは身に染みている。だからこそこの世界がどうなっているのかを知りたい。
まあ、そう都合よくもいかないか……。
いいんですいいんです。そこまでは期待してないし、俺がすべきことは今を精一杯生きるだけだ。
おっと、考え事していたらいつの間にかチェットたちとの距離が開いてしまっていた。
普段は鈍くさいところだらけなのに歩くのだけは早いんだから……。
まあ、俺が本気で走れば一瞬で追いつくがな。
チェットたちの後を追っていると砂浜から石畳の街中に来ていた。
と言うか街中だぞ?でかい龍が平然とそこにいるのはいいのか?
周りにいる人々もあいつらを不審者を見るような目で見ている。
変な目で見るのはいいが、騒いだりおびえたりする人がいない。
どこか警察みたいな国家権力にすがる様子もない。
龍ってどういう扱いなわけ?
とりあえず、少し離れたことをいいことにこのまま距離を保って歩こう。
……いや、せっかく距離があいたんだ。その辺でしゃべっている人たちに聞き耳を立ててみよう。
一番いいのは一般人を装って、あれなんなんですかね?あの頭がおかしい連中はとか話しかけられればいいがそれができないからな。
建物の前でおしゃべりしているカップルのそばに寄って盗み聞きをしてみる。
「俺、ちょっと熱っぽいかも……」
熱っぽい?あいつらとは関係ないよな?
「大丈夫?……そうだ!今日御飯作りに行ってあげるわよ」
うん、これ、関係ないわ。
よく龍が目の前を通り過ぎたというのに、そのな平和な会話ができるな。
「いや、いいよ。君に熱をうつすわけにはいかないからさ」
風邪引いてんだったら帰れよ!
「そんなこと言わないで。あなたのためなら私、そんな熱くらいなんともないわ!」
まあ、何でもいいわ。頭の熱もお大事に!
「いや、この熱は俺だけのものにしておきたいんだ」
じゃあ、しゃべってねーでとっとと帰れよ!
「あなたの苦しみは私も背負うわ。そんな寂しいこと言わないで!」
わからんけど太陽の位置的にまだ朝だろ?
何そのテンション、徹夜してハイになってるの?やっぱり帰れ!
「寂しくさせちゃったらごめんね。でもこの熱はすべて君への情熱だからさ!」
うるせぇよ!帰って寝ろ!
「やだー。それならわたしもすでにかかっているわよ!」
なんだこのバカップル!
何も得るものがなかったどころか、ただ損しただけだったな。
これは人選ミス、完全に俺のミスだ。適当に選びすぎた。馬鹿はダメだ。
もっとあいつらを見ている奴を選ばないと今度は主婦と思しき2人の会話を聞いてみる。
間違いなくあいつらのことを言っているだろう。
「見ました奥さん。あの人たち」
チェットたちを後ろ指さしている。まず間違いないだろう。
人たちという表現が気になるが……。
「ええ。最近の若い人は本当に何を考えているのかしらねぇー」
俺が知りたい!
「あの人たち、水着で歩いてるわよ」
それかよ!
確かにチェットろクレサは水着のままだし、確かに変だけども!
「まったく水着なんて着て!ここをどこだって思っているのかしらね!」
良かったー。俺は着替えなくて……。
じゃなくて、こと青龍に関してはノータッチ!?
いや、青龍を見て誰も何も言わないなんてそんなわけがない。
探せばどこかにいるはずだ!……探さないと見つからないものなのか?
片手で青龍を指さしている子供がもう片方の手で母親らしき女性のスカートを引っ張って叫んでいる。
「ねぇー、うちも龍飼いたい!買って買って!お願いお母さん!買ってー!」
買ってって龍だぞ?ペット扱いじゃん。この世界では龍はそういう扱いなのか?
お前、自分で2枚目キャラとか言っていたよな?
子供の駄々にムッとした母親は子供の手を引っ張り大声を出す。
「ダメ!動物を飼うのはいいけど龍は食費がバカにならないじゃない!誰が世話すると思っているの!どうせあなたは最初だけ!こういうのは決まって最終的にお母さんが世話することになるんじゃない!」
そのセリフ、聞いたことある。常識は違うはずなのに……。
と言うか龍って食費かさむの?まあ、近くの街まで送ってくれるだけって話だったし、フジツボ(笑)も見つかったことだしそのうちあいつは帰るだろう。
「ええー。いいじゃん!お願いお願い!」
まあ、実際お願いされても龍一匹を一般家庭で飼うにはでっかい敷地が必要だしな。経済的にもそうだけど物理的にも難しいよな。
「ダメ!買うなら簡単な蟹とかにしなさい!すぐそこ海だし、タダだし、飽きたら捨てられるし、捨てるの勿体なかったら鍋にしてもいいし!」
……何言ってんだ、このお母さん。
どこに着地させるための説得なの?
「ちぇ、じゃあいいよ!僕、蟹とって帰るから。言っておくけどカニみそは僕が食べるからね!」
どんなに妥協しても龍は蟹にはならんだろ……。
蟹みそ食えれば何でもいいか。
こんな気違い親子に付き合っている暇はない。
今まで聞いた感じだと龍が街中にいても問題ない。むしろ水着で町を歩いている方が変ということが分かった。
たぶん、これ以上話を聞いていても仕方がないので、急いで砂浜に取り残されていた服を取りに戻った。
「着いたぜ。ここが紙に書いてあった場所だ」
チェットたちに追いついたところでちょうど目的地に到着したみたいだ。
大きな空き地のような広場のような場所に大勢の人が集まっていた。
門の前には大きな看板もある。残念ながら何が書いてあるかはわからないがそこにいる人たちの様子を見る感じ運動系の何かの会場のようだ。
……絶対面倒くさいことに巻き込まれようとしている。
それだけはわかる。




