大海2
壺が開いてしまった……。いや、まだ確認してないけど……。
雲が目の前を流れる高さからゆっくり下降していく。
その時間がまた不安を助長している。
気持ち悪くなり損だ、これ……。
青龍にしがみついているクレサにいたっては目尻にしわができるほど強くつぶっている上にその小さい体はまるで青龍のイボのようにがっちり捕まっている。
怖いなら無理しなくていいのに……。
骨折り損だったのは俺だけではないようだ。それが何の慰めにもなってないけども……。
吐き気をもよおしながらも割れた壺をの周辺を見ても特に何も見当たらない。毒とか呪いとか、得体のしれない何かとかではないようだ。
何もないのか……。そう言えば投げたり引っ張ったりしたときも別に中から変な音とかしなかったしな……。
警戒しすぎだったのか。まあ、何事もなくてよかった。
日光に照らされて温かくて柔らかい砂浜にそのまま横になった。
安心感からかすごく心地いい。
「何にもねぇな!魔法のランプとか魔法のじゅうたんとか入っていると思ったんだけどなー」
チェットのがっかりした声が聞こえる。
それは残念だったな。
と言うか大きさ的にそれはないだろ。あるとしたらせいぜいメダルとか小銭とかその辺じゃね?
「あーあ、残念ですわ。てっきりお菓子とか果物が入っていると思ってましたのに……」
次はクレサの声だ。
幼女らしいかわいい解答だが、それが入っていたとしても保存状態が悪すぎるから食べるのはやめとけ。
「何にも入っでねがっだなー。オラてっきり愛とか夢とか詰まってるとばおもっどったわ」
そんなもん詰まってるわけねぇーだろ!
概念じゃねぇか!万一それを手に入れると今後どうなるんだよ!
青龍、お前は黙ってろ!
「今回は残念でした」
チェットは手をパンと叩いてからまとめるように言う。
次回はないけどな!
「じゃあ、海を汚しちゃいけないからこの割れた壺を皆で片づけましょう!」
……いい人だった。
仕方ない俺も手伝うか。気持ち悪いままだが体を起こし壺のかけらを一つ一つ取り上げてゴミ捨て場に持っていく。
何も入ってないなら俺が普通に開ければよかった。
まあ、それは結果論だし仕方ない。
「あー!」
クレサの声だ。
見ると壺が落ちたあたりを覗き込んでいる。
何かあったのか?
「どうしたのクレサちゃん?」
「チェットさん、この紙見てください。」
クレサが拾い上げた紙は小さく折りたたまれていた。壺の破片の下に隠れていたのだろうか……。
チェットが広げたその紙を3人と1匹が覗き込む。
青龍、顔がでかい。ちょっと見ずらい。
見ると紙なのにモザイクがかかっているように見える。と言うことは文字が書かれているのだろう……。
俺は文字が読めないから、いや、読まさせてくれないから内容がわからない。
ふんふんとしきりにうなずく2人と1体。わからないのは俺だけのようだ。どうでもいいけど識字率高いんだな。というか青龍はどこで勉強したんだ?
あと青龍は首を小刻みに振るな、ただでさえでかいんだから。
誰か一人でも読み上げてくれればいいのだけど……。
まあ、期待はしてない!
「これは困ったなー」
「困りましたわねー」
「んだんだ」
それぞれがそれぞれを見つめては首をかしげている。
俺だけその困ったことというのがどんなことなのかわからないことに困っている。
紙になんて書いてあったんだ?
目的とかあったような気がするけど……、俺たちは割と自由に生きている。だからこそ、不測の事態が起こって困るという事態はそれなりにあるだろう。文字が読めなかったり、言葉が話せなかったり、仲間がアホばっかりだったりとか数えればきりがない。
だが紙を見て困るっていうのはどういうことなんだ?
①何かを禁止する事柄が書かれている。
②急な予定が入る。
③読めない文字で書かれている。
④その紙が早急に落とし主に届けなくてはならない大事なものだった。
⑤実は割った壺が高価だった。
考えられるとすればこのあたりか……。
何かを禁止するって言われても若者と幼女と珍獣が禁止されて同時に困ることなんてあるのか?まったく想像つかない。むしろこいつらの自由を少し規制してほしいくらいだ。
魔法の使用制限とかならあるか……。いや、そういうことは海の中にある壺の中に小さく折りたたまっている紙に書く内容ではない。もっと大々的に知らせるべきだ。
急な予定が入るってことはないよな。だってもともと予定がないんだから!
今クレサが俺達といる理由を覚えている奴が果たしているのだろうか……。
読めない文字っていうのもも考えにくいな。言語はこの世界の住人でない俺からそこにいる珍獣まで通じているし共通している。たまに青龍の言っていることが聞き取りにくいことはあるが……。言葉は共通なのに文字は別と言うのもおかしな話だ。
まあ、何が起こるかわからないのがこの世界だし0と言い切るのは早計だが十中八九これではないだろう。
その紙自体が大事なものだったという可能性……、というのは少しあるか。なんかこの辺の偉い人の悪事とかを直接言えないから紙に書いて海に隠していたというのはあるかもしれない。そして、あいつらは本来知ってはいけないことを知ってしまった。
いや、それもないか。クレサと青龍が人間社会のヒエラルギーとかかわりがあるとは思えない。
ということは壺が高価だった可能性が?
単純に値が高いものを壊し他ことに罪悪感を感じているだけならあるかもしれないが、海の中に置いておくなって話だ。勿体ないことしたなとか思って困ったのか?拾ったもので儲けようなんて金にがめつすぎる。
それにこいつらは金には執着しない。なんだかよくわからないものにはとらわれるが……。
……うーん、どれもしっくりこないな。
やっぱりあの時感じた嫌な予感というのは間違ってなかったようだ。
不安で仕方がない。
「おい、相棒!行こうぜ!」
いつの間にか先に進んでいたチェットが振り返って俺は呼んでいる。
まあ、とりあえずついて行くしかないか。
最悪の場合は二人を担いで猛ダッシュでその場を離れるしかないな。
とは言え具体的な内容は想像できないが、今までこの世界で生活してきた感から言えるのは……、わけのわからない展開が待っているってことだけだ。




