魔の森12
まだドラゴン酔いが治らない。世界広しと言えどドラゴン酔いした奴なんてそうそういないだろう。
……まずドラゴンに乗る機会がないか。
それは置いておいてさっきチェットは泳ぎ教えてるとか言っていたが、ここからだと遊んでいるようにしか見えない。どこで手に入れたのか知らんがチェットもクレサも水着を着ているしご丁寧に俺の横にも海パンがたたんで置かれている。完全に遊ぶのが一番の目的になってるじゃねぇーか!
まったく、何やってんだか……。
フジツボなら岩場を探せば見つかるだろ。少し首を振っただけでフジツボがありそうならしき岩場は何か所もある。見つけてから遊べよな!
大体フジツボが見たいってなんだよ……。冒頭にやってたつまらんギャグのロケハンか?
見たところでそのネタをやるのはチェットが死んだあと、つまり、チェットの次に勇者になる奴にだろ?チェットはそうそう死なんぞ!アホだから!
まだ頭はくらくらするがいつまでもここにいるわけにはいかない。このままだと今日は遊び倒して終わってしまう。重たい腰を上げ、体についた砂をはらい落とす。奴らが遊び出すと俺に止める術はない。遊ぶだけ遊ばせて飽きるのを待つしかない。
「行くぞ!」と一言言えれば話は別なのだが……。
まあ、さっきまで太陽も届かない洞窟の中、そして、周りがよく見えない森の中とそこにいるだけでストレスを感じるような場所にいたから、開放的な場所に出て羽目を外したいのだろう。俺もその気持ちはわかるから今回だけはフジツボを俺が見つけておいて遊び終わったらすぐに次の行動に移れる準備でもしておくか……。せっかくの海だ。まあ、出店もないしビーチボールや浮き輪もない海でやることと言えば……。
まあ、いいや。
「おーい、相棒!青龍が泳げるようになって探せるようになったから一緒にフジツボ探そうぜ!」
チェットが俺が立ち上がったのを見てそう声をかけてくる。珍しく俺の行動を見ていたな。だけど、いいよ、お前らは遊んでろ。俺が見つけておいてやるから。たぶん数分とかからないだろうし……。
いや、ちょっと待て!泳ぎとフジツボは関係ないだろ!フジツボって海の岩場に生えている気持ち悪い奴のことだろ?海面より高い場所にいくらでもあるでしょ!むしろ青龍の場合、泳ぐよりも飛ぶ方が役に立つわ!
海の中に入らなくても簡単に見つか……、お前らもしかしてフジツボ知らないで探してたの?
よく見るとクレサは何度も海に潜っては息継ぎのために顔を出すという行為を必死に繰り返している。こいつらがわかってないことがはっきり分かった。というかその辺りならまだ潜らなくても海の底が見えるような気がするけども……。
まあ、何事にも一生懸命なのがクレサのいいところだから……、俺が見つけるまでの数分間ありもしないフジツボを探していてくれ……。俺に声をかけてからチェットがずっと笑顔でこっちを見ていたが無視して近くの岩場に向かう。
すぐに見つかった。
一つ目の岩場で見つけることができた。
この俺が!この世界はかなり俺に不親切だが、やはり物理現象や自然現象だけは俺の味方のようだ。フジツボごときでたいそうな物言いだったか……。自然現象だけが数少ない俺の味方……。
あとはあいつらに見せれるようにしておくか……。おーい!と一言声をかければそれで解決だが、そんな簡単なことも俺にはできない。
さて、どうするか……。
うん、持っていこう。
その岩をぶん殴ると運びやすい感じに割れた。
この超パワーは本当に便利だな。
フジツボがびっしりくっついている岩のかけらを必死に素潜りをしている奴らのもとへ運ぶ。遠目で見るとかなり滑稽な姿だ。特に人の何倍もある大きな龍が海に顔を突っ込んでは困った顔をしている姿はもうしばらく見ていたい気持ちになる。しかし、彼らが何のためにそれをしているのかということを知っているともはや滑稽さを通り越して惨めだ……。
これを奴らに見せれば晴れて青龍の望みは叶い、俺たちは魔法の研究ができるわけだ!この世界にしかないことだからこそ、この世界に来た意義があるというものだ。
……ん、ちょっと待て。ドラゴンもそうだよな。それも青龍ってただのドラゴンじゃないよな?いや、ただのドラゴンも見たことないけど……。もしかして伝説の生き物とかじゃないのか?
こんな変哲のない海ではしゃぎながら遊んでいたらまずいんじゃないのか?
こう……、珍しいもの見たさにギャラリーができるなんてこともあるかもしれないな。
そう……、青龍自体珍しいのにさらに今のこの珍行動……。3枚目キャラとしては大成功だろうが一緒にいる俺達も取材とかされて身動きを封じられたら……。
大迷惑だ!
辺りを見渡す限りアホ3体以外に人影はない。とは言えいつ人が集まってきてもおかしくはない。現に俺が倒れている間にあいつら水着を入手してきているわけだし……。
「あーっ!」
甲高い子供の声が海に鳴り響く。
やばい!
「ありましたわ!」
……さっきのはクレサだったらしい。
少し安心したがとにかく俺が持っているこのフジツボがびっしりくっついている岩のかけらを見せて……、あったって何が?
クレサたちが素潜りしていた辺りに岩なんてなかっただろ?ずっと砂だったはず……。
岩のかけらをその辺に置き急いでクレサのもとへ走って向かうとすでに砂浜でチェットとクレサと青龍が囲んで何かを見ていた。
「おう、相棒!どこ行ってたんだ?残念だけどもうクレサちゃんがフジツボ見つけちゃったぜ!」
クレサが抱えているものを見るとそれはただの蓋付きの壺だった。呪術とかで使いそうな、中にサソリだか蜘蛛だかを入れて生き残ったやつの毒を使うのに使うような壺……。
こんなに怪しいものをよく見つけたもんだ。
そして、よく何のためらいもなくここまで運んできたものだ……。
というかなんで誰もこれにフジツボではないという疑いを抱かないんだ?壺ではあるがこんなでかい壺の上で転んでその膝にこれがびっしりくっついたら気持ち悪い云々じゃなくてただ歩きにくいだろ!
気づけ!
……絶対フジツボとは違うけどもうそれでいいわ。どうせ誰も知らないんだし、青龍が納得すれば何でもいいわ。そんなことより早いところこんな場所離れようぜ!
「ずんげー、オラ、はずめてフジツボば見たわ。早く開けてみるべ!」
青龍、お前は黙ってろ。
……ちょっと待て。開けるって言った?中に何があるかわからないのに?危険すぎるだろ。
でもまあ、クレサは占いババアの孫娘でそういう呪術とかの知識はありそうだしに強そうだし、チェットも魔法使いの村で育ったんだし開けるのに抵抗があるんじゃないのか?
「そうですわね。」
「ちょっとワクワクするね!」
全然違った……。
俺はまだ魔法という概念を正しくとらえきれていないようだ。似たようなものを勝手に頭の中の同じファイルに入れてた……。
クレサが蓋についているお札のようなシールを勢いよくはがす。
もう取り上げるのは間に合わない。
フワフワした雰囲気の中一人だけ臨戦態勢をとる。
万が一、チェットを助けられなくてもあの洞窟に戻りませんように……。




