魔の森6
気が付くとやはり、やはり元の洞窟に戻されていた。
「ここはどこだー!」
例の場所だよ!もうお馴染みだろ……。
チェットの叫び声にますます疲労感が溜まる。
「あの妖精どこ行きやがった!」
今度はクレサの怒号が響く。
急にどっか行ったのは俺たちの方だから……、妖精を責めないであげて。
妖精はどうやらワープしてきてないらしい。
今妖精を見失ってしまうのは痛いが一番の問題は妖精じゃない。
洞窟に転送されると前回同様すぐに四神が現れたが、目が合うと何も言わずどこかへ消えた。
……まあ、そうなるな。
別に友達じゃねーし、俺ももう特に言いたいことはないわ……。
いやあるとすれば出口までの近道を作れってことかな。遠いんだよ、出口までが。何にも邪魔されなくても10㎞くらいはあるぞ!
やはり一番の問題はこの死んだら振り出しに戻るのシステムだ。勇者死亡時の転送先として機能している勇者の祠を解明しないとダメなのかもしれないな。
とは言ってもあの時ぶっ壊したままで瓦礫となって燦然と散らかっているこの祠をどうしたら……。祠ごと運べば死んでもと思ったがこいつらを運ぶとすれば入れ物とかがあれば……、そうだな例えば何でも入るふくろとか。
……まあ、当然そんなものは持っていない。
持っていたらまずチェットをつっこんで運ぶけどな。
「おい、相棒!そんな瓦礫なんか見てないで早いとこ行こうぜ!何だか腹減ってきた。それにしてもさっきまで食べてたステーキはどこ行ったんだ?」
お前さっきキノコ喰って死んだろうが……。
少しは学習しろ!いや、こいつ死ぬ直前の記憶がないんだった……。
記憶がないって恐ろしいな……。記憶を失うっていうのは本当にろくなことがない。
というかステーキって何だ?まぼろしでも魅せられてたのか?
確かに俺も腹が減ってきてはいるがこの問題が解決しないと毎回振り出しに戻るのでは前には進めない。
「旦那様、私もお腹減ってきましたわ。ここを出たところにある森で採集できる山の幸を使ってご飯にしましょう」
クレサも腹が減っているようだ。
「お肉が食べたいですわ。あの裏切り妖精で出汁をとってお鍋とかにしましょう!きっと……、あらやだ、涎が……。」
冷静な判断力とか……、腹だけではなくモラルとか大切な部分がかなり減っているようだ。
どうせクレサ以外妖精を見えも触れもしないんだから入っていてもわからないし、好きにすれば……、いや食べちゃダメだよ。森を抜けるまでは!
チェットもクレサも正気ではないだろう。また、見境なく口に入れてまた毒キノコ喰って死んでも目覚めが悪い。
ふー、じゃあ俺も行くか。ここで考えていても今すぐに勇者の祠を解明することなんてできないんだから、とりあえずこいつらが変なことしないように見張っておかないと……。考えるのは見張りながらでもできるしな。
森に出るまでのアホみたいに長い道のり歩き出す。
今の時間を有効利用しなくては……。
ええっと、なんだっけ。
俺が考えうる勇者の祠が転送先として機能するメカニズムは……。
①マークや文字
なんかなんかで書かれた特別なマーク、例えば魔法陣とか呪文のスペルとかがあって、そこにワープするようなシステムになっている可能性。
②化学反応
化学の力が働いているとは考えられないけど、例えば柱に使われた木と石畳に使われた石とかにそれぞれ謎の力が込められていて、その2つが接触またはある程度近くにある時に初めてワープの転送先としての機能をもつという可能性。
③地下
転送機能を持つ何かが埋まっていて、その上に祠を建てて、勇者の祠としている可能性。つまり祠そのものには何の意味もなく転送システムの上に祠を建てただけという説。
どれも可能性があると思うけどどれも可能性がないとも思う。勇者の祠を他にも見たことあればその傾向から対策が練れるが、あいにくこの洞窟の勇者の祠の残骸しか見たことがない。今ある知識で何とかするしかない。
どちらかというと祠そのものというよりも概念全体について考えた方がいい気がする。転送のシステムは間違いなく魔法の類だ。魔法に関する知識がないから物理法則を無視した概念が働いていた場合の解明は今ある知識や知恵ではどうにもならない。ただ幸い今まで人為的なこと以外で生活に困らされたことはない。というか異世界に来て自然現象よりも人の奇行によって困らされているってどういうことなの?
それも文化の違いとか価値観の違いとかじゃなくてっていう……。今更言っても仕方がないか……。奴らの奇行も超常現象の一つとして考えればいい話だ。
そんなことよりここを脱出する方法を考えなければ……。この世界はニュートン力学を無視していない。物は地面に向かって落ちる。特にこの世界で物理法則を無視する場面は見たことないし感じたこともない。
つまり、物理で説明できない現象は魔法ととらえるしかない。
ただ魔法だって何らかの法則があるはずだ。その原理を解明しなければこの先もわけわからない展開に振り回されることになる……。
それを踏まえて物理法則を無視せずに魔法がやっていることとなると、考えられるのは空間の断絶と転移か……。
何もないところから火や水や雷や風を生み出すことは不可能だ。となるとやはりどこかから持ってきたものと考えるのが妥当なはずだ。その場所はわからないが常時それらをコントロールしている場所があって使いたい時に自分の魔力と引き換えにその場所と空間を繋げ引っ張り出す。
それならクレサが言っていた魔法の頭に着く威力を表す言葉が攻撃範囲ではなく、その攻撃の強さによるというのもなんとなくうなずける。つまり、魔法の強さ、ダッシュだとかクロスだとかはその場所から引っ張り出す量によるということだ。
魔法の仕組みが空間移送ならチェットが死ぬたびに起こっているのは逆転現象ではあるが同じである言える。つまり、チェットが死ぬたびに勇者の祠がチェットを呼び出しているということになる。その際に毎回チェットがよみがえっている原理はわからんが。この世界において魔力とは4次元の力ということだな。
この現象を解明するのにまだわからないことは何だ。
①チェットを召喚する際使われる魔力源はどこか?
②クレサが使える魔法は一人一系統と言っていた。魔法と呼び出せる現象との間に何か結びつきがあるのか……。
③俺やクレサはどうしてチェットが死ぬたびに一緒に飛ばされるのか?
④これがチェットが死んだときのみ作動するのはなぜか?
⑤転送されるたびに発生する光の粒子とは何か?
⑥チェットが全快になるのはなぜか?
⑦チェットの記憶が飛ぶのはなぜか?
⑧チェットがアホなのはなぜか?
……挙げだすときりがないがもう少しで見えてきそうだ。
「旦那様、出口が見えてきましたわ。私が腕を振るって作りますので期待して待っていてくださいね!」
続きは食後か……。
「相棒!やっと飯が食えるな!」
そうだな。お前はそれでフライングデッドしてたけどな。
「俺も生でもいけちゃうくらい腹減ってるからクレサちゃん量多めでよろしくね」
こんな怪しい森で生食いけるって……。
注文も図々しいし……。
⑧の謎は理屈じゃないんだろうな……、きっと……。
というか『俺も生でもいけちゃう』ってなんだ『俺も』って!




