魔の森4
このあたりの道に詳しいらしい妖精が先行しその妖精を唯一目視できるクレサがその後を追う。俺とチェットはそのクレサの後に続いて森の中を歩き出した。誰かさんが魔法使えばそんなことはないのだが……。
「旦那様はこの森が何と呼ばれているかご存知ですか?」
前を歩くクレサが歩きながら質問してきた。おそらく妖精にされた質問がわからなくて俺に聞いたのだと思われる。こんなにいるのにずっと無言というのも味気ないと思った妖精なりの配慮の質問なのだろう。俺らの姿が見えていないにもかかわらずこんな気配りができる奴がこの世界にいたとは……、ちょっと感動だ。
だけど……、
『いいえ』
と嘆息混じりに答えた。
何せこれと『はい』しか言えないわけだし、これからの会話についていける気がしない。チェットと会話してもらった方が話も進むし知識も増える。
「えー、何々?この森の名前?なんだろうー。クレサちゃんは知ってるの?」
チェットがこの森の雰囲気をガン無視するテンションで会話に入ってくる。
チェットの質問を受け、何もないところを見て頷いたクレサは言う。
「ふーん、チェットさん、この森はサンマの森と言うらしいですわ。」
何だサンマって、魚か?
もしかして秋刀魚の稚魚の放流でもやってんのか?いや、秋刀魚って別に川で産卵とかしないよな。
森の中に秋刀魚の稚魚を放流するとか、逆に環境破壊だ。
というか秋刀魚ってそもそもこの世界にいるのか?
するとサンマってもしかして三人麻雀のことか?
いや、秋刀魚よりも存在の可能性が低い。
こうしたどうでもいい話にどうでもいい考えを巡らせてそれを楽しむことができる。こののほほんとした空気はいいな……。本当は俺も会話に参加したいが穏やかな時の流れが妙に心地よい。
「サンマっていうのは3つの『ま』から始まるこの森の通り名からついたらしいですわ。旦那様は1つ目の『ま』が何だかわかりますか?」
3つの『ま』でサンマね。
『いいえ』
分かったところで答えられないしな。
というか見当もつかない。
『ま』?『ま』?
妖精の森とかじゃないんだもんな……。勇者の森とかでもないし、わからない。
チェットが嬉々としてクレサの問題に答える!
「えー……、『ま』でしょ……。何だろう……。マジでわからない……あっ!マジでわからない森だ!なんちゃって!」
……うぜぇ。
「正解はまぼろしの森です。理由は妖精が見えたり見えなかったりするからだそうですわ」
……それが理由でまぼろしとは、ちょっとおしゃれな言い方だね。
「旦那様、2つ目はなんだかわかります?」
『いいえ』
1つ目がわからないのになんで2つ目がわかると思ったのでしょう、この子は……。
いちいち俺を挟まなくていいんだよ!
『いいえ』しか言わないから会話が淡白になるだろ。誰が悪いんでもないんだけどさ!
そんなことより、ちょいちょい道からそれて変なところ歩かされてることに気を回して欲しいんだが……。
整備されているとは言えないが獣道か知らないが踏み分けられている部分があるのに、さっきからそこをわざわざ外れて、岩の上だったり草をかき分けたりしないと進めない場所を歩かされている。
見えないから確かなことは言えないけどもしかしたら妖精は浮いているのかもしれない。
退屈させないように会話で気を配ってくれているのは確かにうれしいけども!
……まったく!
「『ま』ねぇ……。まから始まる言葉がいっぱいありすぎて何を言ったらいいのやら……」
俺の感じているストレスを全く感じていないようでチェットは2つ目の『ま』について考えている。
ありすぎて悩むって……。こう……今すでに進路に関して悩みがあるだろうに……。
まあ、そんなことこいつに期待したところでって感じだけども……。
「うーん、なんだろう。ヒントは?」
腹を立てても仕方ない。俺も考えるか……。
うーん、ヒントは確かに欲しいね。
「ヒントは今すでに起こっていることですわ。」
少しの間の後、クレサが答える。
すでに……起こっている。
何だろう?
……魔物の森とかかな?
目の前に数時間前チェットを葬ったあの岩サイと同種の魔物が1匹あらわれた。今回は1匹か……。俺が瞬殺してやってもいいが……、
「うおおおお!この勇者兼魔法剣士のチェット様が相手だ!かかって来い!」
と剣を抜き、魔物に向かって突進していくチェットが面白かったのでしばらく様子を見ることにした。目をそらさず戦いを見てればチェットも死ぬこともないだろう。
とりあえず、チェットの職業が魔法剣士にせよ、勇者にせよ、その前が何のつもりだったのかは知らないけど剣を抜いて突進していくのはお決まりらしい。その行為が自殺に等しいことをいつになったら学習するのか見物だ。
まあ、今回は俺がちゃんと戦況を見守っているからチェットが死ぬことはないし、いいけど……。
それにしてもチェットの剣撃は弱そうだ。俺も能力最強と言えど武器の扱い、剣さばきや体さばきみたいな戦いの基本は鍛錬を積んだわけではないからある程度武術をかじった人から見たら素人だろう。しかし、そんな俺の目から見てもチェットの動きは……、もはや醜い……。
まったく魔物にダメージを与えられているようには見えない。
まあ、好きなだけやって学習してくれればいいよ。とにかく死ぬと記憶が飛ぶようだから死ぬ前に倒さないといけないが……。
戦闘中必死に剣を振り回すチェット。傍の目から見ると結構滑稽だ。
「あっ!クレサちゃん!俺分かったよ!2つ目の『ま』は魔物の『ま』だね!」
チェットが戦いながら大声で叫ぶ。
お前のその雑念のせいなのか?剣筋が明らか鈍っているのは!戦いに集中しろよ!ただでさえ弱いんだから!
それに魔物なんてこの森に限らずどこにでもいるじゃないか。
俺も一度はその結論に達したが、魔物の『ま』は考えにくい。
「チェットさん、ざーんねーん!」
顔の前で両腕を交差し笑顔でクレサが返答する。
うん、俺もやっぱり違うと思ったけども……、まさかそんなテンションで不正解を突き付けられるとは……。チェットが必死に戦っているというのに……。
「正解は……ドゥルルルルジャン!『魔封じの森』でした!」
そっかー、魔封じの森かー!
……えっ!魔封じって……。
おい!魔封じかよ!
言葉通りの意味なら魔法が使えないところってこと?
それ!一つ目より先に言えよ!




