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旅立ち5

 明らかに今まで見かけていた雑魚モンスターとは違う。何よりはっきりと変な奇声ではなく言葉を発している。それに姿かたちも何をモチーフにしたかもわからない珍妙な生物どもだったがそいつは普通の人間のような中肉中背でやや小型で瞳は黄色、髪は赤、耳はとんがっている。肌はやや暗めの灰色といった感じで若干知的なような気がする。


 ……が、それでも俺には雑魚にしか見えない。そいつのことをそんなに気にする必要はないかな。そんなことより今は魔法だ!


「ここは俺様の……、えーと、大事な場所だ!ここを通りたければ持ちものと命を全部置いていけ!」

 ……俺らが初めてじゃないんだろ?設定をはっきりさせておけよ!なんでそんなにグダグダなんだ。けどこの洞窟で縄張りを張っていたボスっぽさはあるな。言い回しがかなりダサいけど……。


 そもそもボスってどのくらいの強さなんだ?この洞窟で倒してきた魔物の強さを考えれば……、まあそれなりだろう。一応のため、ステータスを覗いてみる。

ドーラス

HP 300

MP 300

ATK 25

DEF 25

MAT 45

MDE 40

SPD 35


 ……そうきたか。どうしよう?Plan E(肉体言語→チェット)、いっちゃう?ボスとは言ってもこの程度……、俺が戦えば間違いなくイチコロ。そもそも存在を気にする必要はないレベルだ。


 ……いや、待てよ。

 コイツがボスならチェットが魔法を使うかもしれない。その為に魔法を使ってこなかったのだろうしPlan A(魔法を使ったところをすかさず褒めまくる作戦)を再始動しよう。


 ……というかそもそもチェットってどのくらいの強さなんだ?そういえばまだ見たことなかった……。

チェット

Lv.7

HP 65

MP 58

ATK 26

DEF 24

MAT 54

MDE 43

SPD 31


 ……わからん。倒さない相手のステータスって何を基準に見ればいいんだ?あのボスとはいい勝負……かも。この場相応の能力な気もするけど俺が強すぎるばっかりにここにおける平均的な強さがわからん。確実に勝てるとは言えないレベルって感じかな。でもまあ、少なくともチェットの魔法攻撃が効かないということはないだろう。確実に成果を出すためには俺が盾になってボスの攻撃を受けてやって、チェットのダメージを肩代わりしてやればチェットは攻撃に専念できる。そこで魔法を使わせて……。うん、よしこれでいこう!


 とか考えているとチェットは目をキリッとさせて魔物に言い返した。

「身ぐるみ剥がされるくらいはわけない」

 さすがは道中全裸になった男だ。言うことが違う。

「だが命はあげられないな。この道は人間が汗と時間と金を大量に使って出来たもの。それをどこの馬の骨ともしれない奴が私利私欲で使うところを黙って見過ごすわけにはいかない。そっちがその気なら覚悟しろ!」

 ……そんな正義感のある人だったか?あと俺はお前の隣で私利私欲のために戦っているけどな。


 魔物は不敵な笑みを浮かべる。

「お前のそのキリッとした眉毛が末広がりになるのが楽しみだぜ!」

 末広がりになるって眉毛の外側が下がる、困った顔って意味かな?末広がりっていい意味なんだけど……。


 まあ、あいつの言い分はどうでもいい。俺がやつの攻撃を全て受け止め、チェットに魔法を使わせる。そして、その魔法を煽てて教えてもらえるように仕向ける。俺のすべきことはこれだけだ!


 魔物は早口で何か言いながら両手を俺に向けた。そこから大きな氷の塊が出てきた。氷の魔法か!

 その氷が俺に向かって飛んで来る。避けようと思えばどうにでも避けられるが避けた先でチェットに当たっても仕方ない。あいつ、どんくさいからな。

 甘んじてその氷に……、ぶつかる?本当に俺に当たった……?あまりに痛みがなさすぎてどこに当たったかもわからない。


「フ、俺様の初級氷魔法をくらって立っているとはな!だがここからはもっと痛いのがバンバン出てくるぞ。逃げるのなら今のうちだぜ!逃がさねぇけどな!」


 ……。何言ってんだあいつ?


 そんなことはどうでもいいわ。今だ、チェット!あの噛ませ犬に本気の一撃かましたれ!

 振り返るとチェットの表情がさっきよりも険しくなっている。これはスイッチが入った人の顔だ!

「お前の相手は俺だ!勝手に相棒に攻撃してんじゃねぇよ!お前を絶対に許さない!」

 そう言うとチェットは魔物に向かって走りだし、渾身の一激をかます!

 ……剣で。


 何で熱くなってんのか知らないけど魔法使えよ!お前の最大の武器はま・ほ・う!!!


 チェットは俺の気も知らずに剣による連続攻撃!慌てた魔物は体勢を立て直すために後方に跳びつつ氷の魔法をチェットに向けて放った。

 攻撃に夢中で大きなスキができていたチェットだがまだ大丈夫そうだ。


 魔法だ!魔法!魔法を使え!

 ……心でそう思うものの戦い方が雑魚狩りの時と変わってない。これは何がどうなったか知らんが魔法を使う気がないだろう。


 ……もうチェットじゃなくてあいつに教わろうかな。だってチェットのことを待っていてもなんかそんな雰囲気じゃないし……。

 ……そうだ!そうしよう!

 そうと決まれば!

 俺は魔物が魔法を使うたびに本気で拍手したり、鳴らないけど指笛したり、布を頭上で回したりした。


 チェットの拙い攻撃でも猪突猛進で間合いを詰めるチェットに手を焼いていた。魔法を使うのも体勢を立て直すためで、攻撃的な意図は見た感じない。それでも熱心に応援したかいあってどうにか相手に気付いてもらえた。

 魔物は苦しそうに引きつった顔をする。

「今の俺では厳しいな。だが俺も魔物だ!一つだけでも命はもらっていく。覚悟!」

魔物はそう叫ぶと何を血迷ったか俺に向かってきた。


 ……なんでだ、なんで俺に向かってきた?

 もしかしてさっきの俺の本気の賛辞を『あいつ、あのチェット相手に善戦してるじゃん、スゲー』的な感じにとらえちゃった?全然違うんだけどな……。


 ……そうだ!一発かる~く殴って、全然歯が立たねーって雰囲気を出せばあいつが調子に乗って魔法のことを教えてくれるかもしれない。一瞬で背後をとりジャブくらいの気持ちで殴ってやった。

 魔物は吹っ飛んで倒れたかと思ったら体が光に包まれだした。


 ……うっそ!

 俺とこいつには天と地ぐらいの力の差があったのは知っていたがうっそでしょ!ジャブって言ってもグーで触ったくらいの攻撃だぞ?


 光に包まれながら魔物は言葉を区切り区切り言った。

「ほんとは人間の命とか持ち物とかどうでもよかったんだ……。俺様の育ったところは周りがみんな俺様より弱くてな……。喧嘩にならなかったんだ……。いつか本気で戦える相手と戦いたい……。ずっとそう思ってた……。」

 今もワンパンで喧嘩にはなってなかったがな。というかそんなに余力があるならまだ戦えるだろ!

「お前らに会えて本当に良かったぜ。あばよ、最高にはじけた俺様の人生。あばよ、マイベストフレンズ……。」

 そう言い残すと魔物は消えた。


 ……なんなの、あいつ。やりづらいな……。


 チェットは傷の手当をしながら感情を押し殺すように言った。

「あいつもあいつなりの信念があったというわけか。まあ、魔物である以上俺たちがここを通らなくてもどこかの戦士に倒されていただろうさ。俺らにも俺らの目的がある。それを成就することがきっと今まで倒してきたやつらへの手向けになるさ」


 お前もなんなの!?

こんなエリアボスにそんなバックグラウンドいらないしお前も便乗して気持ちくまなくていいわ。


「あばよ、お前のことは忘れない。」

 それだけ言い残すとチェットは再び洞窟の奥へと歩き出した。


 あれ?

 魔物をはびこらせると良くないことが起こるんだよね。魔物は根源的な悪なんだよね。ファノラ、そんなこと言ってたよね。なんか和解できそうじゃね?


 ……俺がおかしいんじゃない。こいつらが特殊なだけだ。落ち着こう。あいつらのペースに巻き込まれちゃダメだ。

 あばよ、役に立たなかった魔法教材B


 このぐらいでいい。俺も再び歩き出した。

2017/09/18 改稿

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