四神11
まばゆい光に目がくらみ思わず目を閉じる。
そこからゆっくりと目を開くと、見慣れた洞窟の同じ場所だった。
祠はちゃんとぶっ壊れたままなのにどうして?俺の理論は完璧だったはず。
勇者の祠は今も原形がまったく想像つかないほどのただの瓦礫の山になっているというのに……。
まずは落ち着こう。
このまま正攻法で頑張ってもこの試練は抜けられないんだから奇策に出るのは間違ってない。
象が蟻とガチンコバトルするくらいの差で、戦術とか戦略で補えるような戦力差ではない。
俺を物理攻撃担当にするのが最善の手ではあるが……。
まだ無理だ……。まだチェットの意に反することはできない。
……つまり俺がやれる範囲でできることはこの転送システムをうまいこと利用して負けるが勝ちをしっかり構築するということだ。そのためにはもう少し転生システムについて理解を深めなくてはならないな……。
正直侮っていた。
俺たちがここに転送される流れは毎回一緒だ。
①チェットのHPが0になる。
②俺、チェット、クレサの周りに光の粒子が集まる。
③その光が突然眩い輝きを放つ。
④ここにいる。
間違いなく③と④の間に何かが起こっているわけだが……、何度も経験しているのにまったくわからない。
ただチェットの街に飛ぶときに使う魔法と違って宙に浮いてということはないだろう。俺の血圧がそう言っている。
だから完全にワープしている、空間がこうなんか……、圧縮とか……、不連続点とかがこう……。
まったくわからんな。
ただ実際にその状況を何度も体験してきたわけで俺の常識外の何かが起こってしまっているということは間違いない。
結局、ワープのことは何もわからない。
ただわかったこともある。
勇者の祠は瓦礫と化しても転送蘇生のシステムは機能しているということ。
つまり、この瓦礫の山を勇者の祠と認識する何かがまだ生きているということだ。
ここを転送先として認識させないためにはそいつを完全に破壊し機能を停止しないといけないということだろう……。
となると考えられるのは勇者の祠のどこか一部にその機能を担っている部分がある。ワープ理論がわからないから怪しい箇所とかわからないけど。
思いつくことを列挙してみると……。
①マークや文字
なんかなんかで書かれた特別なマーク、例えば魔法陣とか呪文のスペルとかがあって、そこにワープするようなシステムになっている……。
先ほど気のすむままに勇者の祠をボロッカスにぶっ壊したが、それでも偶然そのマークは消えたり割れたりしなかったという可能性はないこともない。マーク自体がどのくらいの大きさなのか俺にはわからないから、そのマークが俺が思っているよりも小さくてたまたま無傷だったかもしれない。
他にも「俺みたいに祠を壊そうとする存在を予見して、または自然に壊れる可能性、例えば地震とか流れ弾とか八つ当たりとか、そういう可能性を考えてあらかじめ祠が潰れても消えないところに書いてあるかもしれない。
もしこれだったら瓦礫の山からかけらを一つ一つ確認して……。
それに1個という保証もないから全部見ないと……。
②祠に使われている材料に魔法が込められている。
例えば柱に使われた木と石畳に使われた石とかにそれぞれ謎の力が込められていて、その2つが接触またはある程度近くにある時に初めてワープの転送先としての機能をもつという可能性。ぱっと見、いやじっくり見ても目の前に散らばった瓦礫の山の一つ一つはただの石や木にしか見えない。
だがしかし、この世界は常識にとらわてはいけない。そのせいで散々痛い目見てきたからな!
ただ、この瓦礫の山からそれを判断するのは難しい。
転送される瞬間に光るとか目に見えて反応があればいいんだけど……。
③地下
勇者の証の試練のしょうもないクイズ大会の時は隠し場所は天井だと深読みしすぎてせいで、まさに俺の人生が狂ってしまったが、俺が生きる世界は当然3次元に広がっている以上、考えは上や下にまで配慮する必要がある。
あっ違った。この世界は4次元だった……。
じゃなくて当然、上には見た感じ何もないけど、見えてないからこその地下は考えなくてはならない。
転送機能を持つ何かが埋まっているものの上に祠を建てて、勇者の祠としているだけかもしれないし、これがもし本当にそうだったら祠をぶっ壊してもその機能は何も変わらず無傷で動き続ける。確認するには、一旦、この瓦礫の山をどかして、穴を掘っていくしかないな。スコップみたいなものは当然ないから……手で?
まあ、他にそれっぽいのも思いつかないし試してみるしかないだろう。
横で寝そべっているアホな勇者のために。
何よりこんな薄暗い洞窟から一刻も早く抜け出したい自分のために!
手順としてはどれも可能性がある以上全部同時進行でやるか。
瓦礫の山からかけらを一つ一つ手に取り、マークみたいなものがついていないか確認して、なかったら種類ごとに分別して、それでも転生機能が生きていたら穴掘ってみて、それでもなかったら……、また考え直さなくては……。
考えがまとまったところで呆然とチェットを眺める。すべての元凶はこい……、いや、別にチェットは何も悪くない。
むしろ、何も悪くないところが腹立つ。
特に今なんか起き上がって神妙な顔つきをしているところが!
お前は大して悩むことなんかないだろ!
どうでもいいや、さてと頑張りますか!俺には頑張ることしかできない!
この素晴らしいステータスはそのために……、本当にこのためで合ってる?
「なあ、相棒!」
早速作業に取りかろうとしたとき、さっきまでの神妙な顔つきのままチェットがいつもより低いどんよりした声で話しかけてきた。
なんか思いつめている?
何かあったのか?
……まあいろいろあったけども。
「俺さ、さっきから気が付くとこの場所にいるんだ」
それは俺も。まあ俺はお前の被害者だけどな!
「正直に言ってくれ!俺って何度か死んでるんじゃないか?ただ俺は勇者の力で生き返っているだけでさ」
よく自力で気づいたな!
成長したじゃんか!
「やっぱいいや。何も言わなくても相棒の言おうとしてることくらい顔を見ればわかる」
何を根拠に!?
「そうか……。ということは覚えてないけど、俺の剣さばきはまったく通用してなかったんだな……」
剣とか関係ないんだけどな。
「そうか、俺の剣では道を切り開くことはできないのか」
ああ、純然たる事実だ。
他に言い表す言葉存在しないと言ってもいいくらい純然たる事実だ。
「俺はもともと魔法使いの子孫で剣どころか物理攻撃自体向いてない」
知ってたんだ。全然向いてないこと!
「本当はそんなことわかっていた。ただ相棒みたいに敵を颯爽となぎ払う強い戦士になりたかった……。団長のように背中で語れるかっこいい剣士になりたかった……。それだけだったのに……」
受け入れがたい現実っていうのはよくある話だ。
俺も壁にぶち当たりまくってるし……。
けどそれを乗り越えないと人は前に進めない。
まあ、何も八方塞がりってわけじゃない。
お前には魔法の才能があるだろ!
伝説の魔女、ジクリーン……だっけか、まあその子孫なんだから!
自分の長所を活かせばきっと強くなれるさ!
チェットは一人でふさぎ込み黙り込んでいたが俺が隣で先ほどの瓦礫の分別をしているとしばらくしてふとチェットの顔が上がる。
「……決めた!俺、剣士になるのはあきらめるよ!」
そう言ったチェットの顔はどこか迷いが吹っ切れたようにさわやかな表情を見せている。
よかった。俺にとってもチェットにとってもこれは前進だ!
しかし、よく決断したな。
夢や目標を持ち続けるのは大事だけどそのせいでどこにも進めなくなってはいけないと思う。
あきらめる覚悟をもつのは難しいけど、本人もわかっているようにチェットの剣に活路はない。
どうしてもあきらめきれないことならまたやり直せるはずさ!
「自分で言うのもなんだけど俺って魔法の才能はあるんだよね。自分の長所をまるで活かせてなかった」
それが俺とお前でWIN-WINになる選択だ。
憧れとのギャップはあるだろうけどよく決断したな!
さすがは俺の相棒だ!
「だから俺、魔法剣士になる!」
……は?何言ってんだ、こいつ?魔法剣士?
全然剣士諦めてねぇじゃん!
悪いことは言わないからお前は魔法に専念しろ!
どうでもいいけど魔法剣士は物理担当なの?それとも魔法担当なの?




