四神9
さてと完全に手詰まりなわけだがこれからどうすればいいんだろう。
任された以上はなんとしても役割を全うしたい。
とは言っても俺にできることなんてもうない。
いや、あきらめるな、俺。
もう一度回復という概念について考えてみよう。
まだ、俺の持つ常識にとらわれすぎて見落としている何かがあるかもしれない。
俺の知ってる一般常識的な回復とは違う原理でこの世界は回っている。
何か糸口があるはずだ。俺にできることが……。
回復とは、この世界における回復とは平たく言うとHPの値が増えるということ。
実際にこの目でHPが増えているところを見たのは……、ないな。……そういやなかった。
けどクレサがさっき俺にやった緑色の光の魔法……、あれがおそらく回復魔法。
この世界では回復魔法を唱えるのが一般常識なのか……。
いや、違う。
最初にチェットと洞窟に入った時、あいつはダメージ結構もらってたのに回復魔法を使ってなかった……。
ということは回復魔法は必ずしも全員が使えるものではない。
そういう人はいったいどうやって回復するんだ?
あの時あいつは……薬草!そうだ、薬草を使っていた!回復魔法が使えない人は薬草を使うわけか……。
まあ、そう都合よく持っていたりはしないわけなんだが……。
いや待て、チェットはまだ持ってるかもしれない!
薬草ちょうだい!って言えれば速攻で解決するんだが……、まあ今気絶してるし勝手に調べてみるか。
チェットの鞄の中を調べてみると大きな葉が3枚ほど入っていた。
……よし。これで回復はバッチリだ。
肩もみも試したかったが、初めからこれやっとけばよかった。
……いやー、なんかこわいな、俺の思い通りに進んでいる辺りが……。
まさか毒消し草とかいうオチじゃないだろうな……。
回復方法の確立とか全く意味ないんだった、何せイチコロだからな。
まったく役に立たないけどチェットも使う余裕なんかないしな。一応、俺が持っておこう。
あの後……、そういやボスっぽい小物相手に苦戦してダメージを負ったはずだ。
あいつに魔法を教えてもらおうと思ったのに何を血迷ったか俺に攻撃してきて反射的に反撃したら倒しちゃった、あいつ。
チェットのあの時受けたダメージはいつ回復したんだ?
あれは薬草を使ったわけじゃない。
考えられるのは……え~と、飯食ったときか?
……まあ、ここにはその何でもないただの飯すらないんだけどね。
マジでどうすんだこれ!
いやここで思考を止めるな、他にもあるはずだ、頑張れ!俺!
諦めるな。回復するとき……、他にも見たことある気がする……。
「……ここは!」
隣で薬草を盗まれたことにも気づかずアホ面で寝そべっていたチェットがガバッと起き上がる。
ここは!じゃねぇよ。
お前が毎回一撃でくたばるからこっちはこんなに大変なんだよ!
能天気な声を上げるな!腹立つな!
「こんなところでのんびりしてる時間はねぇよ!行くぜ!相棒とクレサちゃん!」
そう言ってチェットはまた扉に向かって走り出す。
のんびりしてるんじゃない!のんびりさせられてるんだよ!お前に!
何でそんな元気なんだよ!
ん、ちょっと待て……、なんであいつが元気なのか?
そう、それは回復してるから……。
あいつは死んでここにワープさせられるたびに回復する。
原理はわからんけども、あいつはここに飛ばされるたびに0だったHPがMaxになる。
物事には必ず因果と結果がある。
この現象を引き起こしているシステムがわかれば解けない謎はない!
状況を整理してみよう。
チェットがくたばるたびに毎回飛ばされるここ……、ここは勇者の祠の前。
白虎が言うには死んだ場所から最も近い勇者の祠の前に転生されるらしい。
つまり死ぬとどこかに瞬間移動させられる。
その移動している間に回復しているのか、移動してから回復するのか、回復してから移動するのか……、そのどれかだろう。でもまあ、こうやってチェットが起き上がるまでに時間がかかるということは、移動する前に回復するってことはないかもしれない。
というかその最寄りの勇者の祠はどうやってわかるんだ?
考えても情報がなさ過ぎて際限がないけども……、いや、ちょっと待てよ!
なんかの偶然、予期せぬ、思いがけない、たまたまこの祠がぶっ壊れてしまってワープ機能を失ってしまったら、ここではない世界にいくつか点在する他の勇者の祠の前にワープすることになるのではないか?
つまり、この勇者の祠をぶっ壊してさえしまえばチェットが死んだときに、必然的に別の祠に飛ばされるはずだ。そうすればこの試練はクリアしなくても、というか負けた方がこの洞窟から早く抜けられる可能性がある!
いや、待て。その前にここが破壊されたせいでどこにもワープできないという可能性はないだろうか……。
もしそうだったら……、いやないな。勇者が生き返るのはワープというワンクッションをはさんでいる。これがなくその場で生き返ったらそれはゾンビだ。それに憧れる人間はいないだろ。あんなに勇者の証を手に入れたい人がいたわけだしないな。どこかわけのわからない、例えば俺がこの世界に来る前にいた何もない真っ白な空間みたいなところに飛ばされる可能性……もないな。勇者は死なないという条件にかみ合わない。勇者が死ぬのは感情の問題であってそれ以外には死なないはず。そんなんで死ぬならあらかじめ条件に入っているだろ。それにほかにも祠をぶっ壊した人もいるんじゃないか?移動するのに大変便利な方法だし……。
まあ、生き返らなくなるという心配はないかな。
問題はこの祠だが見た感じ木と石でできているな。勇者の証を手に入れるための試練で使われてた会場も似たような材質だったけど、その屋根をぶっ壊して中に入ったこともあるし、この祠が壊れないということはないだろう。
ワープ先が屋根がないところだったらそこからチェットの魔法で一気にとんで街に行ける!
チェットがあの魔法を使わないのはここが洞窟の中だからというよりは、チェットにその発想がないから試してないのだろうけどここでは使えまい。頭撃つだけだ。
それからクレサの母親を探して……。
キター!これで完璧だ!
これで長かった試練がついに終わりを迎える。
いつからあるかわからないけどものすごく年代を感じる。
それに勇者を転生させるという人智を超えた機能を持つ素晴らしい建物だ。
さすがに今まで結構勝手やってた俺と言えどこれを壊すのは気が引ける。
まあ、ここまで来て背に腹は代えられない。
見る影もない状態になるまで殴る蹴るの暴行を加えた。
なんかちょっと楽しい……。
「あのー、旦那様……。ご乱心のところすみません」
声がして後ろを向くとクレサが恥ずかしそうに下を向いていた。
別に乱心だったわけじゃないけどそう恥ずかしそうに言われるこっちも恥ずかしい。
「お願いがあるんですが」
クレサはぼそぼそっと言葉を紡ぐ。
その恥ずかしそうな態度やめて!
やばい、変なの見ちゃったみたいな顔するのやめてー。
言っておくけどクレサに比べたら全然だからね!
「あの私と担当代わってもらえませんか?私には魔法攻撃よりも回復の方が合ってると思いますの。私の性格がそもそも攻撃向きじゃありませんし――」
そんなことはなくね?
「――回復魔法もそんなに得意じゃありませんけど頑張りますから!お願いします!」
クレサが手を合わせ上目づかいでこっちを見る。
魔法攻撃なんてできないけどそんな目で見つめなくてももちろん引き受ける。
というか役割以前に次の戦闘なんてどうでもいいからな。
「ありがとうございます!私旦那様が傷ついたらすぐ回復できるように頑張りますわ。よーし!」
そう言って気合を入れ直したクレサは扉に向かった。
さて俺も行くかな、おそらくラストバトルに!




