四神4
せっかく最深部まで行ったというのに……。このまま奴らを放っておくわけにもいかないので、面倒だが仕方なく最初にいた場所に戻ってきた。
生き返るだとか言っていたが逆走中に出くわすことはなく、ひたすらドアから部屋の反対側にあるドアまでただ真っ直ぐ歩くだけ。
二度手間だよ!
これ自体俺の先走りとはいえ、こんな形で時間を浪費するとは……。ただでさえ時間がないのに……。
試練自体が楽勝なのはせめてもの救いか。
一番最初にいた部屋に戻る。陽の光が差さないじめじめした場所だからあまり周りを気にしてなかったが確かにチェットとクレサがいる所よりも奥に古びた小さい祠がある。
まあ、見たところでどうすることもないけどね。他には特に際立ったものはなさそうだ。
……飯とかどうすんの、これ?
いや、試練を突破しちまえば飯の心配もいらない。無事にネタ作りが終わっていれば簡単に試練の方に誘導できるんだが……。
「やった!できたね、クレサちゃん!」
チェットの嬉しそうな声が洞窟内にこだまする。ただでさえいつもうるさいのに2割増しだ。
「はい、まあまあの出来ですわ!」
クレサのちょっと恥じらうようにうわずった声が聞こえる。
何、キャッキャウフフやってんだ!
こっちはもう試練に王手をかけたのにわざわざ撤回して戻ってきたんだぞ!お前らのために……、いや俺のためだけど、この疲労感をお前らにも味わってほしいわ。
嘆息混じりに二人の方に近寄ると俺に気づいたチェットが声をかけてきた。
「おう、相棒!どこ行ってたんだ?」
限りなくゴールですけど?
「まあ、いいや」
まあ、いいやってなんだよ。
「さっきできたコント見てくれよ!、相棒!」
別にコント見るのなんてすべてが終わった後でもいいじゃん。
とは言ってもどうせこいつらが一通り納得いくまで先には進めないんだろうな……。
こうやって目をキラキラ輝かせているときはどうせ断ったって無駄だ。
一応言ってはみるが……。
『いいえ』
「えっ、なんて?」
……これだもんな。
頼むから俺たちのコント見てくれよとか必死さが俺に伝わればまだいいんだけど聞こえないふりはないだろ。俺の疲労感を助長する態度だ。仮に俺が死ぬとしたらストレス性の病気だろうな。
鬱とかで俺が無口になったら病院に連れて行ってくれ!
……それじゃ、一生病院じゃねぇか!
一人でボケツッコみしてる場合じゃない!分かったよ、見るだけ見たらすぐ次に行くぞ!
……って言いたい。普通なら流れでこうなるだろうがこいつらの場合はどうなるかわからん。ああ、もどかしい。調子に乗ってなんか新ネタをさらに考え始めたら厄介だな。何か策はないか……。
というか普段俺が困ってる時は何しても気づかないくせに自分の都合を押し付けるときは何の気づかいもなしに強引に来るよな……。いったい俺をどう認識してんだ、こいつ。
まあ、考えても仕方ない。どうせ一回は聞かないといけないしな……。
『はい』はい、好きにしてくれ。
「おお、さすが相棒!話がわかるな!それじゃいくよ、クレサちゃん!」
俺は話がわかるわけじゃない、お前に話をわからされているだけだ。
「ええ!待ってください。私まだ第3章第2節のセリフを覚えられてませんわ」
チェットの言葉にクレサは驚いた表情を見せる。
……何をしようとしてるの?
もしかしてもう始まってる?
「細かいところはいいからさ。成功は失敗の上に成り立つんだぜ!ありのままの自分をストレートに決めようぜ!クレサちゃん!」
何を言ってんだ、こいつ?
「いいえだめです。あと5分待ってください」
……断られとる。
これはまだ始まってないんだよね?
チェットは苦笑いすると俺の方に向き直るとあっけらかんとした声で言う。
「悪いな相棒!5分したら始めるからよ!」
漫才の間として5分は放送事故だろ!
……あっ、まだ始まってないのか。
そんでお前はクレサに弱いな。俺にもその従順な態度をとってくれよ!
まあいいや。俺も次の展開について考えるとするか。どうやったらこいつらが一回で満足するか……。
①拍手喝采
十分な満足感を与えれば、本来の目的を思い出し、すぐにあの扉を向かう。
いや、調子に乗って2本目とかやりかねない……。これはなし。
②見終わったら何もせずに席を立ち、すぐに扉に向かう
真っ直ぐ扉に向かう俺を見て、本来の目的を思い出し、すぐにあの扉に向かう。
これも考えにくい。何かいじけそう……。
チェットなら大丈夫かもしれんがクレサはまだよくわからないからな。
安全策ということでこれもなしだな。
③なんか雀を捕まえる罠みたいに扉まで食べ物かなんかで釣って試練の方に向かう。
これもチェットは何とかなりそうだがクレサはわからん。
何より釣るものがない……。
それにこんな面倒くさいことをするくらいなら抱えていった方が……あっ。
決まりだな。
試練が始まっちまえば内容が闘いである以上呑気にコントのネタを考えるなんてことはしないだろう。いや、しててもいいのか。俺が片づけている間、その部屋にいてくれれば。俺一人でも余裕だし。とりあえずあの扉をくぐってくれさえすれば、自動的に事が進む!
万事解決だ。
そうと決まればこのしょうもなさそうなコントを見る意味があるのか。いや、ない。
まあ、しいて言えばこのまま強引に進めると今後の二人のテンションに影響があるかもしれない。
いや待て、それはむしろ好都合ではないか!
しかし、思い立つのが少し遅かった。
「お待たせしましたわ。ではご覧ください、旦那様」
クレサのニコリと微笑んでお辞儀する姿を見てしまった。
わずかに遅かった。頭では見ない一択なんだが……、心がちょっと見たがっている。
「どうもー、チェットです」
「クレサです」
「今日は俺たちの名前だけでも憶えていってください!」
知ってるよ!客が俺しかいないんだからもう少し客層に合わせてやれよ!
つうか、これコントじゃなくて漫才じゃ……。
「クレサちゃん、俺さ、占い師になりたいんだよね。だけど占い師なんて見たことも聞いたこともないから――」
いや、クレサのばあさんが占い師なんじゃないのかよ……。これはネタか……。
というか見たことも聞いたこともないものによくなりたいと思ったな。設定ひどいぞ。
「――だから、クレサちゃん占い師になってくれない?」
やってもらうのかよ!何だそれ!
自分のなりたいものくらい自力で模索しろ!
「わかりましたわ。私には綺麗なお嫁さんになるという夢がありましたが、それはあきらめて占い師になります」
……それは両立可能では?
というかそもそもそのカミングアウトいる?
「えっ!そんな……、そこまでしてもらわなくてもいいよ。俺も夢をあきらめるよ!」
占い師の設定で何かするんじゃないの?
「なんかそれ嘘っぽいですわ」
何の疑い?
「うん、まあ、クレサちゃんが夢をあきらめてまで叶えたい夢なんかないからさ」
自分で占い師やってクレサにお客さんとかやってもらえば成立すんじゃね?
「そんなこと言わないでください!自分の夢を大事にしてください!私に綺麗なお嫁さんになるって夢があるようにチェットさんにも夢があるはずですわ!諦めないで!」
さっきあきらめようとしていたのに?
「クレサちゃん、しつこいよ!もういいわ!どうもありがとうございました」
何その終わり方!?
いや、本当にもういいわ。
これでようやく次にいける。




