占い9
その日はもう遅いということで第3の試練は明日からとなった。
夜になるといっそう静けさを増した。
疲れているということも相まって部屋の隅にある長イスの上で横になるとそのまま一夜を明かした。
まだ日も昇らないうちからバタバタと物音がする。昨日は早く寝たせいか、眼だけはすぐに冴えた。
占いババアとその孫娘の朝は早い。テキパキと朝食の準備を整え、俺やチェットが寝ている横でおそらく彼女たちのいつも通りが進んでいく。
チェットがようやく起きたときにクレサの最後の試練は再開された。俺はというとまだ起き上がることができなくて長イスに寝ころんだままだ。なんか態度悪くてごめんな。すべては俺の低血圧が悪い……。
「よいかクレサ。これが最後の試練じゃ」
ババアはクレサと向かい合い話し始める。
「はい、おばあさま。」
クレサはごくりと息をのむ。
俺達の存在は完全に無視だ。俺が悪いとは思っているよ。だけどなんかリアクションとかないの?
俺のことなど眼中にないようで、クレサの表情を見ながらババアが勿体付けて話す。
「最終試練の内容は!……ズバリ!……お前の母を!……ここに連れてくる!それが最後の試練じゃ!」
……それが?それって難しいのか?自分の母親だろ?
「そんな……」
クレサは目を大きく見開いて驚いている。
……何をそんなに驚くことがあるんだ?確かにここにいないけれど難しいってどういうこと?会ったことないとか?でも名前は知っていたし、ババアも隠している様子もない。
生き別れとかそういうことはないだろう。だとすれば何が難しいんだ?
「私、おかあさまは時々荒っぽいから苦手ですわ」
クレサは眉をひそめながら言った。やはり面識はあるようだ。ただ驚いていた理由には驚きだけど……。
「うむ、あの子はたまにスイッチが入ったように口が悪くなるからのう。誰に似たのか知らんが街に出て毒されおって」
いや、それはきっとあんたの影響だと思うぞ。
「それにおばあさまが出入り禁止にしてましたよね、おかあさまのこと。確か庭に植えた紅茶の葉を勝手に抜いて燃やしてしまったとかで……、もういいんですの?」
……。
「あれは本当に頭に来たからのう。あそこまで育てるのにどれほど苦労したことか。」
……すみませんでした。昨日勝手に抜いて燃やしてしまいました。今後一切人の家で勝手に雑草を抜かないと誓います。
でもあれは一応俺なりの善意であったと言い訳させて……。
いや、もう余計なことは言わないでおこう。
ババアは神の左耳とやらを使っていなかったので俺の懺悔に激昂することなく淡々と話を続ける。
「じゃが背に腹は代えられん。クレサがここを出て行ってしまったらいったい誰がわしの面倒を見てくれるというんじゃ」
試練の理由がまったくクレサの成長に関係ないんだが、それでいいのね?
「万が一が起こってしまった時のためにわしの面倒を見る人材を確保しておく必要があるんじゃ」
最後は保身かよ!
「クレサがこの試練に失敗すれば問題ないんじゃが――」
まあ、ババアからすればそうだね。クレサが母親を探している間の自分の世話はいいの?
「山奥で年寄りの一人暮らしは大変なんじゃよ。」
……いや、その時はここを出て街に行けばいいんじゃね?
「街は知らない人いっぱいおるしのう」
人見知りか!あんた、いくつだよ!
というか占い師ならそれなりに人がいるところでやった方が儲かるんじゃないの?
「ですがこれは難しすぎませんか?もう私おかあさまのお顔をはっきりとは思い出せませんし……。もう何年も会ってませんもの……」
そうなの!?
「では、やめるか?」
ババアがうれしそうな表情で尋ねる。
「いえ、やります。」
ババアは悲しそうな顔をする。
「ですが、何かヒントをいただけませんか?」
クレサの真剣なまなざしに気圧されババアは渋々答える。
「わしが持っている情報をすべてやろう。これでダメじゃったら嫁ぐなどと馬鹿なことを言わずにおとなしくこれまで通り、この家でわしの面倒を見るんじゃぞ」
クレサは黙ったままうなずきババアを見つめ返す。
「正直なところわしもあの子が今どこで何をしているのかはわからん」
聞いた途端にクレサは素早く両手を上げる。
「わからんとはどういうことだ!ああん!」
何事だよ!前にも見たことあるけどあれは目の錯覚じゃなかったのね。
でもまあ、ババアの怒りを見た後だと怒っている幼女は見ていてかわいいので逆に和む。
「まあ落ち着きなさい、クレサ」
「すみません。おばあさま。私としたことが……」
まあ、クレサは気を失わずに自力で元に戻れるからまだいいけど、このババアと旅に出るのは俺と会話できる点があっても勘弁してほしい。
というかこの二人が荒っぽいと評する母親っていったいどんな化け物なんだ……。あまり会いたくはないな。
「お前の母親アレサの情報だが、数年前に街で、ブラスティナの街で暮らしているという手紙が来た。その後手紙が来てないからのう。今もブラスティナで暮らしているのじゃろう」
ブラスティナ……。どこかで聞いたことある街の名だ。
「ということはもしかしたら昨日薬草を買った時にどこかですれ違っているかもしれないですね」
10分もあれば往復できるっていう……。あれはチェットのせいか……。けどここから最寄りの街なんでしょ?様子を見に来てたりしたことあるんじゃないの?
「ああ、そうかもしれないのう。ただ今もその街でアレサと名乗って生活をしているかはわからないぞ。我々の血筋は代々神の力が宿りやすいからのう。わしの娘というだけで危ない可能性があることはアレサも知っておるからのう。じゃから確証がないまま聞いても答えてくれるかはわからんぞい」
血筋の話は知らんがババアが神の何ちゃらを2つも持っているところを考えると納得せざるを得まい。というか神の能力ってDNAの問題なの?
いや、その件はどうでもいい。問題はこの最後の試練だ。まず、情報がほとんどないに等しい。
現状わかっているのはブラスティナの街にいる可能性が高いってことだけだ。名前はわかっているけど使われているかはわからんというし、それに人探しで一番大事な顔とか体とかの身体的特徴が何一つわかってない。街にいる10歳ぐらいの子供がいそうな女性を片っ端から当たって行くしかないのか。しかも当たったとしても正解を認めるかはわからない。最悪、向こうは探されていることにすら気づかない可能性だってあるしな。
……こいつは、無理ゲーだな。ババア、さっきあきらめムードだったのに全然手を緩めないな。
「この試練の期限は3日じゃ。3日以内にこの部屋にアレサを連れてくるのじゃ!」
しかも3日!?たったの?
かくれんぼじゃないんだから探される側に探されているという前提がない人探しなんて警察や探偵じゃあるまいし普通の人はやったことすらないだろう……。
……いや、俺、やったことあったわ。そして、見つけたわ。
俺なら偽名使ってようが本名さえわかれば一発で見つけられるわ。この左目があれば!この左目は相手のステータスはもちろん相手の名前までわかる。
能力最強でさらに相手のステータスを見抜く左目を持つ、まさに戦うためにこの世界に来たと言っても過言ではないこの俺が人探しの道を極めてしまったとでもいうのか。
なんだこれ?
いや、この課題は見つけて終わりじゃない。ここに連れてこなくてはならないんだ。
それに俺はしゃべれない……。俺が見つけても説得はできなければ何の意味もない。
いや、クレサがいる。クレサの神の耳は確か心の声が聞こえるとか言ってたわ。クレサになら俺の言葉が通じる!
今回は見つけた後一人でやきもきしなくて済むぞ!ただクレサの母親が一緒についてきてくれるかという問題がある。説得に失敗する可能性はある。だって母親がここにきたら待っているのはこの変態ババアの介護だ。そもそも単に歩くのだるいとか言われる可能性も高い。
いや、チェットの移動魔法があるじゃねーか!最悪交渉失敗しても魔法で有無を言わさず連れてくれば即終了じゃねぇか!
俺が見つけて心の中でクレサに教え、それをもとに交渉しチェットが連れ去る。
攻略法がわかると急につまらないな。一気にしょぼくなってしまった。
本来は相当難しいよ、この試練……。しかしそれにしてもピンポイントでうまくいきすぎだろ!
こうも都合がいいと次当たりとんでも展開が待っていそうな気がする……。
いや、きっと大丈夫だ、根拠はないけどそう信じよう。




