占い8
どう考えても嫌がらせでしかない第2の課題も結論から言うと10分で終わった。
家を出た瞬間からアンデットウルフの強烈な腐敗臭がしてきた。臭いがしてくる方向へ歩いているとものの数分でアンデッドウルフに遭遇した。一時的に戦闘態勢に入るもののアンデットウルフが俺を見るなり頭を地面に擦り付けて命乞いをしてきた。チェットが目玉を置いていったらという鬼畜外道な勇者にあるまじき条件を持ち出した。そして、即座に交渉は成立した。アンデットウルフは目玉を置いてどこかへ立ち去った。あまりの悪臭に泣きそうになりながらみんなで目玉を持ってきた袋に入れた。そして、そのまま遺影に帰り、ババアに袋ごと目玉を投げつけた。ババアはあまりの早さにか、あまりの臭さにか放心状態になった。確認が済んだし、あまりの臭いに耐えられなくなった俺はその目玉を外に持って行って先ほど引っこ抜いていた雑草とともに燃やした。それからババアは椅子に座って固まったままで動かない。次の課題がわからないし、特にやることもないのでとりあえず俺たち3人は紅茶を飲み始めた。
そして、現在に至る。
本来ならこの課題は相当難しい。ほとんど誰もクリアできないんじゃないだろうか。本来ならな。あいつと午前中に戦っておいてよかった。倒さなくてよかった。俺の攻撃は今まで常に一撃で終わってたけど、石つぶてだと攻撃力が落ちるのか単純にあいつのHPが高いのかわからないがそれがラッキーだった。そして、覚えててくれてよかった。あいつ完全にビビってたもんな、俺に。
ここまで俺に都合よく事が運んだことって今まであったっけ?いや、まだ調子に乗るのは早いな、第3の試練が終わってないし、油断は禁物だ。いや、今までも油断はしてなかった。というか油断する暇すらなかったな。俺があまり頑張らなくてもというか頑張らない方がよい展開になるなんて、俺っていったい……。
いやそう卑屈になるな、俺。最近いいことなかったからなんかこう巡り合わせって奴で今は運がいい時なのだろう。苦労のサイクルが終わっていいサイクルに入っている。きっとそうだ。今はこの時間を、この紅茶を楽しもう。
それにしても本当にこの紅茶を飲んでいると心が落ち着くな。もしかしてやばい成分が入っていたりしてな。
「クレサちゃん、これ自家製なんだよね。本当においしいよね、この紅茶」
3人がテーブルを囲って紅茶を飲んでいると不意にチェットがしゃべりだす。いや、俺は考え事をしていたせいでチェットがしゃべっていることに気づかなかっただけかもしれないけど……。BGCにも慣れてきたものだ。
「ええ、おばあさまの自慢の一品ですわ。おばあさまが庭で育てている特別な葉の栽培からすべて手作りですの。」
へぇー、自家製なのか、それも1から。うまいわけだ。
「おばあさまはああ見えて実は短気で一度怒るとなかなか収まらないんですの。おばあさま自身もわかっているのですけど自分ではなかなか抑えられないようでして……」
それは知っています、身をもって。
「そこでそれを抑えるためにおばあさまが自分でこの紅茶を作りましたの。この紅茶に含まれるなんとかという成分が人の心を落ち着かせる働きがあるそうですわ。どんなに怒っているときもこの紅茶を飲むとすぐにいつもの穏やかなおばあさまに戻るのですの」
やっぱりこの紅茶にはそんな効果があるのか。いつもの穏やかなおばあさまはまだ見たことないけど。
そういやチェットも俺が怒られてる時にティーカップ持って部屋に来てくれてたような……。いや、あの時ババアに紅茶出してなかったな。そのあともう一回来て、なぜかクレサだけをお茶に誘いに……。一番飲んでほしい人にノータッチじゃねぇか!
クレサの話を聞いているチェットがしきりに「へぇー」と言って頷いている様子を見るにこの紅茶にそんな効果があることは知らなかったようだが、それにしたって……。見えない悪意が爆発している。チェットが最近いい人に見えてきてたけど、やっぱりチェットはチェットだった。
俺が紅茶に大満足しているとクレサが俺の方を向き直り、恥ずかしそうにしている。顔を覗き込むとしどろもどろになりながらクレサは俺に質問してきた。
「旦那様もこの紅茶お好きですか?」
クレサの大きな目が真っ直ぐ俺を見つめる。
『はい』
考えるまでもない。ただでさえうまいのにそのうえ俺の荒んだ心まで癒してくれる。こんな飲み物他にないでしょう。それに俺の気持ちがちゃんと伝えられた。いつもしゃべれないことに苛立つばかりだったが、今日初めてしゃべれることに感謝できた気がする。
ただね、やっぱり旦那様はやめて。恥ずかしいから。
「よかったですわ。私も作るの手伝ったことあるんですの」
無邪気にほほ笑むクレサ。ただかわいい。
「そうですか。旦那様もお好きですか。ウフフ。でしたら今年も庭の葉が立派に育つといいですわね。おばあさまが雑に植えたせいだったり、成長の途中のせいだったりで今はまだ雑草みたいですけど、秋ごろには収穫して冬にはおいしい紅茶になります。今年は今までよりも楽しみですわ」
……え?なんだって?庭に生えている雑草みたいなのがこの紅茶の葉だって?
まさかさっき全部引っこ抜いてしまったあの雑草が?目玉と一緒に燃やしてしまったあの雑草が?
……これ?
いや、あれはただの雑草だ。あれはただの雑草だ。あれはただの雑草だ。
「俺もできたら今年も手伝うよ。一緒においしい紅茶作ろうね、クレサちゃん」
チェットが俺の心に平然と追い討ちをかける。相棒だろ!助けてくれよ……。
「はい、チェットさん今年もお願いします。旦那様もぜひ!」
とりあえず笑顔でこっちを見るの、やめて……。
「……あれ?そう言えばさっきお外に出たとき紅茶の葉を見なかった気がしますわ……」
それは偶然だな。俺も見なかったわ……。
じゃなくて!本当に俺が悪いのか?雑草と間違われない方法なんていくらでもあるよね!敷居とか柵とかあれば入らないし、せめて一か所にまとめて植えろよ!ババアが適当に植えるから悪いんだ!知らない人が見たらあれは雑草でしかないもん。大事なものは他人からもわかるように管理しろよ!
と自分に言い訳したところでもうこの紅茶は帰ってこない……。今年の分は本当にすみませんでした。なんかこう……、俺の幸せって絶対長く続かないよな……。
ティーカップが急に重たくなった気がする……。




