表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/275

旅立ち3

 チェットより早く起きてトンズラする作戦だったが結論を言うと失敗した……。


 目覚ましは予定通り6時に鳴った。その音を聞いて目は覚めた……。そして、予定通り飛び起きて身支度を整えようと思い急いで体を起こしたとき、急にめまいが……。知らなかったけど、どうやら俺は低血圧だったようだ……。

 飴などを舐めるとか対処法があるが当然都合よくそんなものはなく、めまいが起こってはまた横になるの繰り返しで結局1時間もかかってしまった。


 それでもまだ集合時間よりも1時間も早い。計画には問題ないと思っていたものの、部屋を出た時には既にチェットはロビーにいた。話を聞いたところワクワクしすぎて早く目が覚めてしまったらしい……。小学生か!どうせ小学生やるなら熱出すパターンにしろよ……。


 そして、そんな俺の頑張りむなしく王都ユーゼンまでの道を一緒に歩かされている。タンスの中には金とか金目のものとかなかったし……。


 くそう、低血圧め!

 くそう、タンスめ!

 くそう、チェットめ!

 踏んだり蹴ったりの朝だ!


「よう、相棒!今日は最高に清々しいな!」


 だれが相棒だ!だれが!それに、人の気持ち察するの下手糞か!……これは先が思いやられるわ。


 違うかもしれないが、おそらく文字が読めないのや言葉がほとんど話せないのと同じで多分、今はこいつとは離れられない。

 そう世界に決められている気がする。

 じゃなきゃ後付けみたいな低血圧設定とか……、そんなのってないよな……。


 でもまあ、幸いというかなんというかチェットはうざい奴だが、悪い奴ではない。しばらくはコイツを使って情報集めるか……。


 それに、道を歩いているとき気づいたんだがこいつ……。


「俺の出身のポポポ村の祖先は昔アルカジア王国に仕えていた大魔法使いジクリーンの一族なんだ。アルカジア王国のそのときの王がジクリーンの魔法研究のために与えた土地が今のポポポ村なったんだ。まあ、当時のアルカジア王がジクリーンの力を恐れ、遠くに追いやったっていう見方が一般的だけどね。それに……」


 ……すごいおしゃべりだ。

 朝からずっとこんなかんじ。


 驚きの情報量!!!抜群の安定感!!!いちいちスイッチを入れる手間はありません!!すべてが音声なので文字が読めないあなたにも安心!

 人間スピーカー ~チェット~

 これ一台あればどんな集まりも気まずい雰囲気にならない!!!


 これで売り出せばいけるな。

 こういうネタ帳人間ってどこでも一人は必要だもんな。

 固定費はかかるが……。……いや、やっぱいらねぇわ。


 チェットの話をBGMにしつつ、こんなことを考えていると目の前に見たこともない生き物が前からこちらに向かってくる。

 ゼリー状の小さい生物が3匹……。


「うわー、魔物だー!」

チェットが叫ぶ。不意に現れたならわかるが前からすでに向かってきてたぞ。何で取り乱してんだよ。黙って剣とか構えたらよくね?


 それにしてもこれが魔物か……、なんとなく知ってた。ファンタジー系の敵の定番と言えるような姿形だし……。同じ次元にいることには違和感と言うより新鮮な感じがする。

 もともとファノラが恐竜がどうのこうの言ってたから魔物って言うと獰猛な動物みたいな奴かと思っていたから少しビビってたが、どうみてもこいつらには恐竜のような威圧感はない。


 というか威圧感自体ない。

 あのあほな妖精いわく、俺のステータスは最強。こんな道端でばったり出くわすような雑魚モンスターに後れを取るわけがない。まあ、ファノラが言っていたことが本当のことならばだが……。あいつのことは信用してないしな。でもまあ、不思議と自分のうちから感じるエネルギーと言うかオーラと言うか……、少なくとも目の前の魔物を見ても恐怖心はない。


 事はついでだ。色々と日常生活では制約が多い俺の戦闘では有能さに加えておつりが来る能力の左目でゼリー状の生き物を見てみる。

 3匹とも

 ゼリっち

 HP  15

 MP  0

 ATK 9

 DEF 5

 MAT 7

 MDE 4

 SPD 8

という文字が浮かび上がった。


 ゼリっちってのは多分こいつらの名前だろう……。

 それにしてもよわい、よわすぎる(当社比)。すべての能力が俺の100分の1じゃねーか!


 あれ?名前?

 ……ってことは俺の名前もわかるんじゃないか?

 前回は数値に驚いてしまって覚えてないが……。

 おっと、今は戦闘に集中だ。初めて魔物と遭遇したのにこの緊張感のなさはやばいな……。


 そもそも戦闘で最強という情報が本当に正しいものか確証を得ないといけない。そして、この能力の信憑性も確かめないと。

  戦うか……。でもなー。直接触りたくないよなー。武器があればいいんだけど近くに手頃なものはない。


 仕方がないのでとりあえず近くにいたゼリっちAを思いっきり蹴っ飛ばしてみた。蹴られたゼリっちAはフワッとした光に包まれて消えた。


 これは倒した……のか?ゼリっちAは跡形もなく消え、半固体状だったのにまったく足が汚れていない!これはいい発見だ!敵の姿形に惑わされずに戦うことができる!

 

 じゃなくて!

 もう一匹(ゼリっちB)も蹴っ飛ばした。今度は左目だけで見ながら。


 蹴られた瞬間にHPが0まで下がってゼリっちBもまた光に包まれて消えた。

 魔物はHPが0になると光に包まれて消えるということか。あの光に包まれて消えると言うことは倒していたということだ。消えてくれるのは助かるな。別に魔物を食べるわけじゃないからこのあたりが死骸だらけになってしまう。


 さてと、もう一匹は……。その一匹を見つけたときにはすでにチェットに襲いかかろうとしていた。俺に向かってこないのは賢い選択と言えるな。まあ、あいつも倒してやってもいいが、チェットのお手並み拝見といこうか。これでやられるようならさっきの村に戻ってこいつを置いていかなくてはならない。


 チェットは剣を構えながら何やらブツブツ言っている。何言っているかは聞き取れないが持っている剣が小刻みに震えているように見える。さっき、だいぶ魔物に驚いていたからな。まさか弱音とかじゃないだろうな。まあ、弱音を吐いているなら俺のほうをちらちら見てヘルプサインを出しそうなものだが、自分に襲い掛かろうとしている魔物のみを見つめている。さて、いったいどうするのやら……。


 と思っていたらチェットの手から急に炎が現れた。それを飛ばしてゼリっちCにあてるとゼリっちCは消えた。


 何だ今の!?もしかして……魔法?

 流しで聞いてたファノラの説明にも魔法って言葉があった気がするし、魔物が光に包まれて消えることも科学では説明つかないし、魔法と言う概念があることはわかっていたが、実際に見るとちょっと感動するな……。


 だけどな。その前にお前剣構えただけじゃねーか!使わないんかい!貸せよ!


 ……あっさり終わっちまった。


「相棒、さっきは格好よかったな!一蹴りで倒しちまうなんて!いやー、相棒にお願いして本当に良かったぜ!」


 まあ、当然だろ!お前とはスペックが違いすぎるからな!

 ……あと相棒言うな!


「うちの家系は代々、魔法使いだから物理攻撃は苦手なんだよね。だからあれだけ高い攻撃力を持つ相棒が羨ましいぜ!」


 この力は別に努力で培ったものじゃないがなんか気恥ずかしいな。


「これからもよろしく頼む!」


 まあ、そう言われて悪い気はしない……。

 だが、相棒はやめろ!


 それから一日中歩き通した。途中休憩をはさんだり、昼食をとったりしてのんびりと……。

 日が落ちかけたとき近くに小さな宿屋があったので今日はそこに泊まることにした。


 その宿屋に入ると受付の前には結構な行列ができていた。ここは今日泊まっていた宿とは違って街中にあるわけじゃない。日暮れ前に入ったが少なくとも見える範囲になんらかの施設やアトラクションがあったわけではない。というかそもそも人がたくさん住んでいそうな場所ではない。人の目をはばかった場所にある宿屋……。もしかして……。いやいや、並んでいる人はほとんど男しかいない。いや、逆に男専門の……、いやいや……。


「大人二人だ。素泊まりでかまわないが空いているか?」

「いまはお客さんが多いので相部屋でもよろしければ大丈夫ですが?」

あ……、相部屋?……嫌な予感。

「それでかまわない。ちょっと疲れているからなんでもいい」

「かしこまりました。代金は――」

……ちょっと待て!本当に大丈夫か?


 案内されるまま部屋の前まで来る。そして、豪快に扉を開けると、壁の色は白、大きな窓が一つ、ベッドは二つ、俺の心配むなしく普通の宿屋だった。


「相棒!今日は疲れたなぁー、な!」

チェットはベッドに倒れ込む。


 俺はあんまり疲れてないんだよね。体力的には。

 あれから何度も魔物に遭遇し、わざわざすべて撃退してきた。というか俺が常に瞬殺した結果、逆上して相手が襲ってきたため応戦することになった。その際にチェットは何発かもらっていたしそれは疲れるよな。


 お前の気持ちはわかるがお前と同格とか思われたくないのでチェットの質問に対しては『いいえ』とだけ答えた。


「ハハッ、さすが相棒……。やっぱすげぇぜ……」

と言い残すと吐息を立てて寝てしまった。

 あと相棒言うな。


 道のりはチェット任せできたからここがどこなのかよくわかってない。本当に周りに何もないのかもわからないし、これからどこに行くのかもわからない。大丈夫か俺?


 とりあえず部屋にいてもやることがないので宿屋の食堂で読めもしない新聞を広げて周りの人が話している内容に聞き耳を立てた。

 得られた情報をまとめると、どうやらここは王都ユーゼンに行くために越えなくてはいけない洞窟の手前らしい。王都は洞窟を抜ければすぐそこにあるらしいが、最近その洞窟に強い魔物が住み着いてしまって人が通れなくなってしまったらしい。


 そのためこんな周りに何にもない宿にも関わらず人が多いらしい。

 宿屋の主人も近くに強い魔物が住み着いているのは嫌だが繁盛するのは嬉しいという複雑な気分らしい。

 ……何で主人も会話に入ってきてんだ、仕事しろよ!

 

 となると明日はダンジョン攻略と言うことになるな。ということはその道をふさいでいると言う強い魔物をはじめ、雑魚モンスターでも狭いエリアで縄張り争いをしている分今日より少し強い敵が出てくる可能性がある……。

 

 今頃、部屋のベッドで爆睡しているであろう男の姿が脳裏に浮かぶ。あいつ、鎧着たまま寝てるけど寝違えたりしないのかな……。いつもそうなのかもしれないし、何より脱がしてやるのも嫌だから別に何もしないけども……。

 問題は明日のダンジョンだろう……。うーん、やっぱり、このままってわけにはいかないよな……。

 今日一日チェットとともに旅をして強く思ったことがある。

 やっぱり……、魔法使うのってなんか格好いいよな!今日、戦闘で何度か使っていたがただただ羨ましい!俺もてから炎とか出してみたい!

 魔法を教えてくれないかなぁ……。


 ハァー……。お願いしようにも言葉は伝わらないし……。どうすればいいのやら……。


 ……ダンジョン攻略?どうせ雑魚しかいないでしょ。あいつが多少寝違えていても全く問題ない。


 部屋に戻り、一応タンスの中を調べてから空いているベッドに横になった。


 今日は寝るまで教えてもらう方法を考えよう。

2017/09/18 改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ