占い6
「それではさっそくお主の能力を見てみるかのう」
そう言うとババアはゆっくりと右目だけを閉じる。これはまさか、このババアも俺と同じ特殊能力がある目を持っているというのか?相手のステータスを見れるという……。それで実力を測る気か?まずい、自分で言うのもなんだけど使いどころなんてないのに俺は能力だけは最強だぞ。
「あっ間違えたわい」
そう言って今度は左目を閉じた。
どうやら違ったみたいだ。なんなんだ、こいつ……。ここに来てからこのババアのボケっぷりに振り回されっぱなしじゃねぇか。チェットの恩人っていうから結構期待していたのに残念で仕方ない。本当にすごい人なのか?
「ほう、そういうことか!お主ここにきて一言もしゃべっとらんのは『はい』と『いいえ』しか話せないからか……。なるほどのう。<神の左目>を得た代償か……それとも先天的なものか……そこまではわからんがのう」
なんだこのババアは……。驚きのあまり声が出ない。もともと何も言えんが……。じゃなくてなんでわかった?たぶんチェットも気づいてないぞ、俺が『はい』と『いいえ』しか話せないことは……。
「ほうほう、お主、<神の左目>を持っているのか。あれは戦いに出るものが持っていればそれだけで百人力じゃからのう。フムフム、よいものを持っておるな」
<神の左目>なんて名前があるのか。このババアは分析とか観察じゃないな。この能力のことを持っていることを知っているはずがない。見た目でわかるはずもない。何か特殊な能力を持っているようだ。
「むむ、お主の本当の名はサタケ……サタケ……、下の名は読めんな」
俺の名前まで!俺も知らないのに?適当かもしれないがそれでもこの世界で聞かない日本人の苗字だ。
見ただけか、何かしたのか、それはわからない。だけど、どんな方法にせよ、すごくうれしい。会ってから失礼なことばっかり言ってすみませんでした、占いおばあさま。
「ぐぬぬ、これでは文句のつけようがない。やむを得ん、合格じゃ」
……合格?ってああ、実力を測られていたんだった。
……って合格かよ!思わずうなずいちゃったってやつか?さっきまでの意気込みはどうしたんだよ!お前しか結果知らないんだから適当に誤魔化したらいいじゃん!俺が話せないのも知っているんだし!なんかうまいことやれよ!
「わかっておる。それでもクレサには幸せになって欲しいからのう。嘘はつけんのじゃ」
10歳の女の子なんて旅の邪魔だ!
しっかりしろよ!間違い、しっかりするなよ!
「安心せい。あくまで一次試験が合格しただけじゃ」
一次試験?ということはまだあるのね。
「そうじゃ。まだ始まりにすぎぬ」
そうか。何もしないまま合格にされたんじゃこっちとしてもどうしようもないからな。
……というかちょっと待て、今の会話になってなかったか?俺の言ったことに返事するように……。
「そうじゃ。聞こえておるぞ!わしは<神の左耳>を持っておるからのう」
聞こえているの!?どういうこと?というか<神の左耳>って何?俺の左目の能力も<神の左目>って言っていたがそれと似たようなものか?
「うむ、<神の左耳>とは右耳をふさいでいるときのみ発動する神にも等しい能力じゃ。相手の心の声を聞き取ることができるんじゃ」
まるで耳かきしているようにババアは自分の右の耳の穴に指を突っ込んでいる。人と話しているというときにこれほど失礼な態度はあるまい。いや、態度とかどうでもいいわ。やっと会話になる人物が見つかった。俺の考えを伝えられる。俺の感じた疑問に返事をくれる。
……なんだこの喜び。人と話すってこんなにうれしいことだったんだな……。俺と出会ってくれて本当にありがとうございます。チェットも引き合わせてくれて本当にありがとな!
「へ?なんだって?最近聞き取りづらいんじゃよ。もっとはっきり言わないとわからんわい。歳のせいかのう、最近なんだか調子がよくないのう」
心の声に耳の遠さが関係あるのか?心の声をはっきり言うってなんだよ……。なんかこう、手放しで喜べないんだよな、いつも……。
「クレサ、クレサ!ちょっとおいで!」
俺が油断しているとババアは突然立ち上がり大声を出した。
びっくりした。突然立つな!叫ぶな!元気いっぱいじゃねぇか。何が歳だ!
ババアに呼ばれたクレサは複雑そうな顔をして部屋に入ってきた。さっきまでババアが馬鹿みたいに怒っていたのを見ていたから俺との結婚はきっと無理だと思っているのだろう。まあ、普通はそうなるだろうがよかったな、なぜか許しが出たぞ、なぜか……。本当にどうなってんだ! こっちの身にもなれよ!俺にも心の準備ってもんが……、あっプロポーズしたの俺か……。いやいや、あれはそんな風じゃなかっただろ、ふつうに考えて。
勘違いで意味わからないことになったことはたくさんあったけど人生設計が狂うことってあるか?あっ、サボッチャがいたな……。いやいや、今は出てくんな……。
まだあきらめるな。こんな少女とこれから過ごせってか?家事はできるし、しゃべり方も丁寧。そして、顔もかわいい。世間の目もあるが年齢以外文句のつけようもない。
だけどな!旅に出たら家事は必要ないし上品なのもかわいいのも必要ない!今は結婚とか考える余裕は俺にはない!一緒にいたら楽しいだろうけど荷物はチェットだけで十分だ。俺がそうはさせない。まだ一次に受かっただけだからな。ここからの展開次第でどうとでもなる。
ババアはクレサを自分の横に立たせると穏やかな声色で言った。
「クレサ、ここからはお主の問題じゃぞ。お主はまだ半人前。これから我が家代々続く一人前になるための試練を始める」
そう言ったババアの顔はいかにも悪人だった。
クレサへの試練か……。またクイズか?まあ、何でも構わないけど……、どうせ無理難題なんだろ?
「今までこの試練を突破できたものはいない」
難しいのを用意するのはわかっていたけどいないの!?お前の家系は半人前ぞろいか!
「お前の母、アレサも途中で逃げ出しおったからのう」
それでクレサが生まれているということは……。ちゃんと意味のある試練なんだよな!急に不安になってきたぞ……。
「クレサ、今一度問おう。覚悟はよいか?」
「もちろんですわ!」
クレサは即答する。
悪いことは言わん。もう一度覚悟に問い直せ!
「そうか……。これから出す3つの課題をすべて達成できたらそこの男と一緒に旅に出ることを許そう」
「はい、おばあさま。これが前から言ってらした試練ですわね。私がんばりますわ。がんばって立派なお嫁さんになります」
「ふん、そうかい。この試練は途中で困ったらわし以外なら誰かに相談してもいいし、わし以外なら誰かの力を頼ってもよい。ただし、出された課題は確実に成功させるのじゃ!」
ババアはクレサの気持ちがぶれないことに面白くない顔をしているが、コクリと小さくうなずくクレサの目は静かに燃えていた。
面白くなくてもクレサに嘘はつけないと言っていたのは嘘ではないらしい。適当に誤魔化すことなくクレサと向き合っている。そんなクレサに果たしてどんな試練を与えるのか……。
「それでは第1試練じゃ。街で薬草を3コ買って来るのじゃ!」
……なんだそりゃ!楽勝か!
「期限は3日以内じゃ!」
3日!?だから楽勝か!何がしたいんだ!きっとなにかと間違えたんだろ。3秒以内とか……。
しかし、ババアの目はまったく笑ってない。本当に薬草買いに行くだけ?これが試練になるの?
「そう言えばクレサは街に行くのは初めてじゃったか?」
……えっ?
「そうですわ」
マジか!
「行き方はわかるか?」
へ?そんなレベル!?
「いいえ、わかりませんわ」
おいおい!
「いつも水をくんでいる川があるじゃろ。その川の流れに沿って歩けば1日もあれば街につくじゃろ」
は?1日!?1日中歩かせる気か!しかも言ったことない場所に!鬼か!悪魔か!鬼ババアか!前言撤回だ。これは限りなく虐待に近い試練だ。
「その街のブラスティナの道具屋にはハルサンがおる。週に一度、家まで必要なものを運んで来てくれるあの男じゃ。その男から買いなさい。買う相手が知り合いというのがわしからの最大の譲歩じゃよ」
「そう言えば私その人と会ったことありませんわ。いつも私がお外に出ているときに来られるので……」
せっかくの譲歩が……。ボケてるのかボケたふりをしているのかわからないが、このババア、かなりの鬼畜だぞ!
「そうかい。それは残念だったのう。」
それで済ませるあたりかなりの悪人だな。
「ちなみにズルできないようにハルサンから今日から3日以内の日付が書かれた領収証をもらってこないとこの課題をクリアしたことにはならないからのう」
抜け目がない!
「薬草3コだけ渡されただけではわからん。どこかの盗賊団から奪ったかもしれんからのう」
どういう教育を施したらそこを疑えるんだ?
「あと適当な紙に書いても意味ないからのう。心の声を聞けば一発でわかるからのう」
字で見破れよ!心の声を聞いてズルを見破るんならそのくだりがいらないだろ。
「そんなことしませんわ」
そうだそうだ!クレサがそんな子に見えんのか!嫌なババアだな!まあ、俺が逆の立場だったら確実に全部試していたことは黙っておこう。
「それではただいまより一人前試練その1、『はじめてのおつかい』を開始する。がんばるんじゃぞ!」
「はい、頑張りますわ!」
クレサ、がんばれ!そして、けがとかしない程度に失敗してくれ。
「それではさっそく行ってまいりますわ」
クレサは笑顔で手を振ると部屋から出て行った。かわいい。
「ああ、クレサ。ちょっと待ちな!」
しかし、ババアがすぐに呼び戻す。
「お金は持ったのかい?ハンカチは?街についたら宿を最初に決めるんじゃぞ。困ったらハルサンや駐屯兵とかに相談するんじゃぞ。知らない人について行っては駄目じゃぞ!」
なんだかんだ言って心配なんだな。今まで面倒を見てきたんだ、当然か。本当に悪い人じゃなくて良かった。
「おばあさまったら。わかっておりますわよ、フフフ」
「うむ、それならよい。そうじゃ、お主からも何か言っておやりよ。未来の妻になるのかもしれないんじゃぞ!」
あっ、俺か?急に振られるもんだから……。というか俺話せねーし、ババアはそのこと知ってんだろ!と心の中でツッコんでいても仕方がないのでとりあえず手を振った。
するとババアが思いもよらないことを言い出す。
「クレサ、この者はしゃべれんでな。<神の左耳>を使いなさい」
……クレサも持ってんのかよ!使えんのかよ!それなら話が360度違うだろ!回りすぎた。180度だ!いや、そんなことどうでもいい。
一緒に旅ができれば、道中俺も寂しくなくなるぜ!
早く帰って来て俺の話し相手になってくれ!
右耳をふさいでいたクレサは俺ににっこりほほ笑むと誇らしげに部屋を後にした。




