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敵よりもミカタがやっかい!  作者: 気分屋
占いババアと孫娘編
36/275

占い4

 状況がまるで飲めない。

 なんで俺は罵詈雑言を浴びせられたんだ?確かに目の前にいるババアから見ればクソガキかもしれないが、ロリコンのクズだと!?クレサを送り届けたのは親切心と義務感であってまったく下心はない!


「ちょっとおばあさま!いきなり失礼ですわよ!私のご主人に対して……」

 10歳の少女がババアをたしなめるように必死になってそう叫んだ。

 だが、ちょっと待て!私のご主人って何?俺のこと?俺が何かしたか?ご主人と言えば真っ先に思いつくのは雇用関係だよな。雇った覚えはない。どんなできた子でも彼女の用途がわからん。というかそもそも俺に誰かを雇う金がない。となるとペット?いや、そんなわけないな。またも知らないうちに面倒ごとに巻き込まれている気がする。もういいから話を進める前に誰か説明してくれ!


 状況が一番分かっていそうなのは当事者であるそこのババアなわけだが……、まったく期待できない。人生経験豊富なはずなのにババアが取り乱しすぎて逆に俺が冷静さを取り戻している始末だ。全然説明してくれそうな気がしない。

 さっきのクレサの訴えもまったく聞いちゃいないようだ。

「バーカ!アホ!アンポンタン!」

 何せ、このババア、隣にいる少女よりも低いレベルの悪口を繰り返している。

 この部屋に入る前は品とか知性とか言っていた自分はまだまだ未熟者だということだ。人は見かけによらないとは言うもんだが……、いくつだよ、このババア……。


 となると次に説明できそうなのはクレサか?流れからこの子があのババアの火種であることは間違いないしな。

 どうやって話を聞こうか。隣のババアの目が血走っていてクレサにすらとても近づけない。このババア、品は失っても有無を言わさないオーラだけは相変わらず身に纏っている。あのババアの鬼気迫る顔面はもはや強さのステータスとは別次元の何かだ。いや、それだけじゃない。どこか視線をくぐり抜けたような雰囲気がある。死期が近いだけかもしれないが……。

 俺の唯一のストロングポイントは基本的に役に立たないな。近づく以前に声が出せればいいのに俺のウィークポイントだけがきっちり役に立っている。クレサから直接聞きだすのは難しそうだ。


 まあ、できないことを考えてもしょうがない。ババアは空腹の肉食動物並に無我夢中の状態だがクレサは見た感じどこかまだ心に余裕がありそうだ。何か言葉以外でシグナルを送れれば可能性はある。


 なにかないか……。

 そうだ、目配せだ!ババアの方に誘導できれば、クレサがババアを少しだまら……、落ち着かせてくれるだろう。いずれにしても話が聞けるのは一旦場が収まってからだ。そもそも今の状況を正しく理解できたところでババアがこの状態じゃ話はまとまらないだろう……。一番大事だったのは場を落ち着かせることだった。俺も言うほど冷静ではなかったんだな。


 問題はクレサと目が合うかどうかだ。クレサはもはやさっきからババアの取り乱しっぷりに拍車をかけるように何かを訴え続けている。二人の怒鳴り声が重なってもはや二人とも何を言っているのか聞き取れない。それにしてもいつもこんなにコミュニケーションが一方通行なの?こいつらどうやって共同生活を送ってるんだか……。

 いや、今はそれはどうでもいい。どうしたものか……。俺が動いてクレサの視界に入るのがベストだが、ババアの血走った目がある中で不自然な行動は火に油を注ぐだけか……。かと言って他に何かあるのか?音を立てるとか?いや、これもやめた方がいいだろう。

 目を合わせる方法を考えているとババアの横からこちらを横目でチラッと見たクレサと偶然目が合った。ラッキー、今まで俺から何かしらのアプローチがあっていつも期待値を下回る結果になってはいたけど今回はどうやら天が俺に味方した。ただ目が合っただけど……。

 この機は逃すな!

 ババアを見るような視線誘導をクレサにする。経験上これでわかるだろ程度の頑張りでは100%裏切られるので唇に人差し指を当てながら静かにさせろというメッセージもつけた。

 ここまですればさすがに大丈夫だろう、俺が何をしてほしいのかわかったよな!


 しかし、まあ……。案の定といえば案の定、それを見たクレサは首をサッと捻って俺から視線をそらし、そのまま黙り込んでしまった。何でだよ!

「何クレサに色目使ってんだ!このロリコンが!」

 まあ、結果としては確かに部屋は少し静かになった。ババアが何を言っているかわかるくらいには……。老朽化した壊れたスピーカーから稚拙な悪口だけが部屋に、頭に響く……。少し静かになったのに俺の精神攻撃は悪化した!


 何でそっぽ向いちゃったの!?

 ねぇ!聞いて!感じて!察して!分かって……お願いクレサちゃん!と涙目になったところで伝わるわけもない。なんでこんな知らない土地に吐きそうになりながら連れてこられて知らない婆さんに怒鳴り散らされなきゃいけないんだ。勇者の証も手に入らなかったし、そもそも魔王の魔の字も聞かねーし。俺に何させたいんだよ。


「騒がしいけど大丈夫か?」

 何か香ばしい香りとともにチェットが部屋に入ってきた。

 そうだった。俺にはまだこのおしゃべりがいた。俺が一人でどうこうするのも大切だが、それでもどうにもならないこと、自分にできないことができる仲間に頼ることだって大切だ。こいつなら勝手に場を自分の話に持っていく力がある。俺も何もないわけじゃない。人は一人では生きていけない。頼り頼られて初めて1人前になれる。

 よく言うところの敵だと厄介だが味方になるとこんなに頼りになるなんてなってやつだね。勇者には全く必要ない力なのが残念でならないが……。まあ、来てくれて助かるぜ、チェット!来るのが遅かったのが少し腹立つけど!絶対ババアの声は隣の部屋まで漏れていただろ!

 

 あと無駄に芳しいこの香りは何だ?チェットの登場によって急に心に余裕ができたのか、鼻をくすぐる豊かな香りに気を取られた。この香りは間違いない、紅茶だ。やつの手に持ったティーカップから立つ湯気がそう言っている。あいつも休んでいるところだったのか、なんか悪いな。


 いや待て、俺がこの部屋に入ってくるときはまだクレサがやかんでお湯を沸かしている最中だったぞ……。ということは悠長に他人の家ということもかかわらず勝手に紅茶淹れてたから遅くなったのか……。

 他人の家なのに自由だな!


 もうよそう。分析するほどチェットがいい奴に見えなくなってくる……。厄介ごとに首を突っ込みたくないのはみんな一緒だもんな。だけどこれからは仲間もいるんだからそのマイペースは直せ!な!


 チェットは部屋の入り口に立って周りを見回す。

「あちゃー、これはだめだな」

 そして、それだけ言うと部屋を出ていった。


 ちょっと待て!あちゃーじゃねーよ!頑張り短いよ!

 お前のおしゃべりは仲間が困ってる時にこそ発揮するべきじゃないのか?お前のその力は……いや、考えてみれば仲間を困らせるときにしか発揮されてなかったな……。今まで何度言ったかわからんがお前はほんとに役に立たないな!

 いや、あいつのことは考えていても仕方ない。もともとそんなに期待してはいない。


 まずは分析だ。この部屋を客観的にみると今の状況は稚拙な罵詈雑言を吐きまくっているババアとそこで張り合うように何か叫んでいたが急に静かになった少女クレサ、そして何が何だかわからないまま稚拙な罵詈雑言を吐かれまくっている俺がいる。隣の部屋には我関せずと紅茶をすすっているであろう役立たずのチェット。

 過去の出来事を参考に……とはいかないもんな、こんな経験したことないし。


「おーい」

 後ろからチェットの声がする。何か気が変わって助けてくれる気になったか!

「クレサちゃん、一緒に紅茶飲もう!」

 そんなことなかった。少女は何も言わずにうつむいたまま俺の横を走って通り過ぎた。


 お前がこの状況を前に立ち去ったのはまだ許そう。俺なら迷わずそうしたからな。この状況はチェットが悪いわけではない。まあ、俺もだけどな!

 ただな!なんでクレサを連れていくんだ!クレサはババアに一番近い存在なんだろ?あのババアのことを一番知っている存在なんだろ?真っ先にこの場から離れちゃいけない人物じゃないのか?

 そして、なぜ俺を誘わねぇんだ!お前の空気読めなさならこの状況でも俺をお茶に誘うくらいわけないだろ!


 憎悪を込めて睨みながら振り返る。チェットはただ笑顔だった。

「相棒はお取込み中だもんな。終わったら呼びに来てくれよな」

 それだけ言うとクレサと共に隣の部屋に行ってしまった。

 取り込んでるじゃない。もはや憑りつかれているんだよ!終わったらって何がだ?今終わりそうなのはお前の人生だってこと気づいているのか?……いや、勇者は死なないんだっけ。ああ、もう!どうしろっていうんだ。


「あれ?クレサはどこ行った!?」

 頭に血が上りすぎて周りが見えていないのか、完全に部屋を出て行った今更になってババアがそんなこと言いだした。

 さっき普通に出て行ったぞ。見てないなんてことある!?どんだけ無我夢中でキレてんだよ……。


 今まで一方的に言葉を浴びせられたことはたくさんあるけど悪意があったのは……、表面上に悪意があったことはない。……ん、そう考えればいつも通り、時間との戦いか。チェットと共にした旅のおかげで身についた会話を聞き流すだけの技術をもってすれば何とかなるはずだ!


「おい!聞いてんのかクソガキ!」

 ……何とかなるよな?


 いや、待てよ?よく考えたら話を聞く必要なんてなくね?クレサがいないことに気付かないなら俺もいなくても大丈夫かもしれない。

「クレサ!どこにいるかわからないけどいるならその扉のカギをかけなさい!」

 その声の直後、背後からカギがかかる音がした。

 余計な真似を!


 それから罵詈雑言を浴びせまくられること早1時間……。スルースキルをもってしても精神的な限界点を迎えようとしたそのとき、ババアはようやく疲れたのか机に突っ伏して倒れこんだ。あれだけ言いたいこと言って即寝とはいい気なもんだ。とりあえず一大事とかこつけてドアを破壊してチェットを呼び、ババアをベットに寝かせた。というか言いたいこと言って寝るとか!悪口を言われているときよりも腹立つな!


 まあいいか。このまま静かにしていてくれ!

 こんな経験するのはもうこりごりだ。早くこの家を出よう。チェットもあいさつは終わってるだろうし問題ないだろう。来る前は立派な人だと思ってたのに……。幻滅した!ただ幻滅した!


 チェットの袖を引っ張って玄関を指差す。

「どうした相棒?ああ、わかった。今から昼食だからクレサちゃんの手伝いしたいんだろ。一緒にしようぜ!」

 ……は?何言ってんだ?お前は全然わかってない!

 というか昼食の時間だったの?全然腹減ってないんだけど!ストレスで!


 俺はまだこの地獄の家から抜けられそうにない。

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