旅立ち2
こいつ!!!勇者の証の在り処を知っている!?
偶然、殴りかかろうとした男は驚きのあまりかはっきりとその言葉を発した。これは思ってたより早く勇者の証は見つかりそうだ。肉体言語は共通言語だったんだな。
そもそもこんな簡単に核心に迫るような奴に会えるとは思ってもみなかった。最初の計画ではこの町の名前とか次の街への行き方とか誰でも知っていること聞こうと思っていただけだったし……。
というか大事なことってそれを知ってる人を紹介されるとかその紹介してくれる人を紹介してくれる人を紹介されるとか紹介……(中略)……といった人たちにこちらから頑張って会いに行くものじゃないのか?
……問題はここからだ。勇者の証目当てかという問い……。この問いに乗らなくては勇者の証に関する具体的な情報は教えてはくれないだろう。肉体言語で詳細な内容を聞き出すにはあまりに俺の語学力では足りない。俺の第一印象最悪だし、言い訳しようにもできない。さてどうするか……。
しかし、こうなってしまったらしょうがない問題は俺が使える発声言語『はい』と『いいえ』のどっちで返事するかだ。
イメージしてみる。
①『はい』と答えた場合
ここで始末してやるってなる。
戦う。
勝つ。
敵は逃走。
あとをつける。
そのうち、やつが勇者の証を手に入れる。
横取りする。
Happy end!
②『いいえ』と答えた場合
今のは喧嘩売ってんのかってなる。
戦う。
勝つ。
敵は逃走
あとをつける。
そのうち、やつが勇者の証を手に入れる。
横取りする。
Happy end!
俺の見立てではどっちも大して変わらないな。じゃあ、まあ『はい』ばっかり言っていたような気がするから『いいえ』でいこう!
何で俺がこうして色々思考している間ただ睨んでいるだけなのかわからないが、とりあえず『いいえ』と言った。
さーて、ついにこの世界に来て初めての戦闘かな?拳を胸の前まで持っていきファイティングポーズをとる。武器とか構えられたらかっこいいんだろうけどあいにく持っていないからな。
ところがそいつはため息すると安心したような顔つきになる。
「勇者の証を手に入れてくると言って出てきたのはいいけど、俺は腕にはあまり自信がなくて今までビクビクしてたんだ。殴られそうに見えたのもきっと疲れているせいだろう。突っかかってすまなかった」
……アレ?何だこいつ、マヌケか?あれだよな。俺、ちゃんとある程度悪意を持って殴りかかったよな!?
そう言うとやつは何事もなかったかのように身だしなみを整え始めた。完全にあいつが勘違いしたことになってるんだけど、俺、悪気あったんだけどな。なんかごめんな。俺も何事もなかったかのようにファイティングポーズを解除する。何だこれ?
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はチェット。ポポポ村出身のただの冒険者だ。君は?」
一通り身だしなみを整えると普通に話しかけてきた。こいつ完全に俺のこと受け入れてんじゃん。例え事故でも危ない目にあったあとでなんでこんなにフランクなの?
まあ、そっちが気にしてないならいいわ。それでなんだっけ?ああ、俺の名前か……。
……。
俺の名前ってなんだっけ?そういえば記憶がないんだった。これは答えられない……。
というか答えられないわ!なんであっても!そういう質問やめろ!『はい』か『いいえ』で答えられるような質問にしろよ。
「……すまない。人には言いたくないことの一つや二つはあるよな」
えっ、そこ妥協できるんだ!?
自己紹介とくに自分の名前を名乗るのはコミュニケーションの基本だと思っていたが……、まあ、助かるわ。
「不躾で申し訳ないけど敵ではない君にお願を一つ聞いてもらいたいんだけど……、いいかな?」
お願いってなんだ、クエスト的な感じか?
どうせ引き受けないと先に展開しないそんな気がする。
というか敵ではないといつ言った?俺がそんなこと言えるわけないのに。もし言ったとしても敵でもたぶん口では敵ではないって言うと思うぞ?
それにあったばかりの名前も知らない人にお願いって!
こいつ大丈夫か?
『いいえ』
とりあえず断った。
この世界は限りなくゲームっぽいくせにゲームをやっている感じでいると間違いなくうまくいかない。なのでこっちもゲームっぽく行かなくても何ら問題ないはずだ。
第一、こんななんでもなさそうな奴が持っている情報ならほかにも多くの人が持っていると考えられる。こいつと関わっているとおそらく逆に危ない。
しかし、立ち去ろうとすると腕を掴まれた
「へ?なんて?」
何だこいつ。急に難聴か?
『いいえ』
はっきり聞こえるように大き目の声で言う。
「へ?なんて?」
本当に聞こえてなさそうな顔をしているのが腹が立つ。
『いいえ』!!
絶対聞こえているだろ!さっき勇者の証目当ての質問を答えたときよりはるかに大きな声で言っているのに聞こえてないわけがない。
「へ?なんて?」
これでもか!
だから『いいえ』!!!
「へ?なんて?」
粘り方ァ!
そこをなんとかお願いしますとかもっと下手に出るんじゃないの、普通は!なんで聞こえないふりすんだよ!
そもそも名前を聞くのは妥協したくせになんでお願いはこんな必死なんだよ。というかお願い事の内容も聞かないで承諾する奴がいるのか?まあ、信用できる奴からのお願いならあるかもしれないけど、お前とは初対面で信用0なのにさっきまでのやり取りで俺からの信用はマイナスだからな!
ファノラといいこの世界は一度言った言葉に絶対の自信を持ってやがる。連呼するな。言葉を変えろ!大したセリフじゃないのに面倒くさい奴らだ。
ここで逃げるのもダサいし、わかった。断れないなら引き受けてやる、一瞬だけな!聞くだけ聞いたらさよならだ!
とっっっっても小さい声で『はい』と言った。
「ありがとう。じゃあお願いするよ」
ムカつく!
「え~と、内容なんだけどここから王都ユーゼンまで護衛して欲しいんだ。王都に無事着いたらお礼としてポポポ村にしかない秘伝の薬をあげる。この秘伝の薬を買おうとすると一つ100000ゼニーする、なかなか買えない代物なんだぜ。秘伝の薬を飲めばたちまち……おっとこれ以上は今は言えないな」
聞いてねぇし!
「それじゃあ、行こうぜ!」
『いいえ』
誰が行くか!
「ハハハ、すまない。確かにもうじき日が暮れるし無理して今からいくこともないな。出発は明日の朝にすることにするよ。今日はゆっくり休もう!」
そう言う意味で言ったんじゃねーよ!
だが、チェットは俺の腕を強引に掴んでは近くの紫色の看板の店に入った。宿らしい。
チェットは受け付けと会計を済ませると
「これが君の分の部屋の鍵だ。今回は俺のおごりだ!明日の朝8時にこのロビーに集合でいいかな!それじゃ、今日はおやすみ!」
そう言い残すと自分の部屋に入っていった。
おごりか……。そういや金とか持ってないし、今晩どうするとか考えてなかったから助かった。ありがとうチェット、君の愚かさに乾杯!
俺は自分の部屋に入って運ばれてきたご飯を食べながら考えた。
今日はいろいろありすぎた。
異世界に来て、変な妖精に会い、変な人に会った。
本当に疲れた。
できれば今日あった人物達とは一生会いたくないな。
明日の朝8時ロビーに集合とか言ってたな。
これは約束を反古にするチャンスだろう。俺に個室を与えたことを後悔するがいい!あいつより早く起きて、それでさよならだ!
よし俺も寝よう。
寝坊なんて馬鹿なオチにならないように部屋にあった目覚ましをしっかり6時にセットした。流石にやつは起きてはいまい。
そして眠りについた。
一応タンスとか調べてから!
2017/09/18 改稿