試練12
大丈夫!一介の失敗が何だ!俺はまだ頑張れる!
この世界の傾向から一発で成功するとは思ってなかったし。そして、言いたくないけどもう一回くらいは失敗する気がする。けど成功するまで頑張るしかない。他に思いつかないし。
そういえばさっきの……、リンダさんをこの部屋に入れた一連の出来事で一つだけ気になることがある。リンダさんが磨いていたあのツボは何だ?この王宮内にあるツボというツボはすべて割ったはず……。俺としたことがまさかの見落としか。いやいや、俺がいない間にどっかから持ってきたのだろう。なんにせよ割ればいい話だ、別に割らなくても中に入っているものを手に入れることはできるんだけどこうなったらやけだ!ちょっと高そうだったけど知ったこっちゃない。なんかいいもの入ってないかな……。
素早くと来た道を戻る。
そして、さっきリンダさんが磨いていたツボの前に立つ。それを両手でつかむと思いっきり振りかぶってツボを割ってやった。そして、今回はそれだけじゃなかった。なんと布を見つけた。初めて中に何か入ってた!
……ってさっきリンダさんがこのツボ磨いていたやつじゃねぇか!こんなのいるか!
「誰だー!ツボ割ったのー!今度こそ犯人捕まえてやるー!」
一人で茶番を演じていると足音がこちらに近づいてきた。さっきのツボが割れる音を聞きつけたのだろう。
声の高さからおそらく女性。徐々に叫び声が大きくなる。
……次あの部屋に放り込むのはその人にしよう。曲がり角から姿を現す瞬間を狙って相手に見られる前に相手の目を抑える。やってることがあまりよろしくないこととファンクラブができるほどの俺への人気っぷりを考慮するとやっぱり姿を見られるのはよくない。
「誰ですかー!離しなさい!」
元気なお姉さんだ。体型はこれまた肥満体だったがリンダさんと違って結構若い。格好から察するにリンダさんと同じ仕事の人だろう。若い女性に関しては外見で判断するしかない。とは言っても若い女性の内面的な情報はチェットからあまり聞いてないんだよな……。きっといつもの調子ではじめからグイグイ攻めて、引かれたんだろう。名前くらいはわかる、確かコリンさんだった気がする。まぁ誰でもいいや。早いとこあの部屋にぶち込むもう!
さっきの要領で会議室に入れ、俺はドアの向こう側で中の様子をうかがう。
さすがのサボッチャもこの異常事態の連続に戸惑いがあるようで、迂闊に自分から話しかける様子はない。
「いたたた……。さっきのは何だったんでしょう。ここはどこですか……」
「ここは――」
またしてもサボッチャは言葉をさえぎられる。
「ってここ会議室じゃないですか!なんでこんなに散らかってるんですか!」
「それは――」
……あれ?デジャブ?
「あっ!お母さん!なんでこんなところで寝てるの!もう!」
親子だったのか。いろいろ似てたからもしかしたらと思ったけど……。はっ!まさか気絶したりしないよね……。
「あっ、それはなんか血を見――」
「きっと血を見たのねー。ほんとしょうがないんだからー!あのアイットバスさん、お母さんを医務室まで運ぶの手伝ってくれませんか」
「……そうしたほうがいいですよね」
血を見ると気絶するところまで似てなくてよかった。
早速ですが本題入っていただけませんか?お母さん運びながらでもいいから、コリンさん何でこの部屋が散らかっているのか早く聞いて!
「それにしてもお母さんはなんで血が苦手なんですか?」
サボッチャお前は黙ってろ!
失神するくらいだから俺も気にはなってたけど今はそれどころじゃない!
「それはですね。話せば長くなるんですが――」
話すの?長くなるの?
でもその話が終わればきっと部屋が汚い理由について質問するよね!それまで我慢して聞く方がいいのかなぁ……。
でもまあ面白そうな話題だし聞いとくか。特に迷いなく聞くことを決めれるなんて俺ももうすっかり人間スピーカーのジャンクリスナーになっちまったな……。目で見て情報を頭に入りやすくするためにドアの隙間から中をのぞくと、コリンさんは手持無沙汰になったらしく片づけを始めていた。サボッチャはただ横たわっているリンダさんのそばに突っ立っているだけだ。俺が言うのもなんだけど、片づけるか運ぶかした方がいいと思うよ。
「私の父がひどい人でして家族に平気で暴力を振るう人だったんですよ。もうお母さんは離婚したので今はどこで何してるのか知りませんけど。どのくらいひどいかというとう~んとですね、15年前のあの事件、あれは私の記憶にある中で3番目にひどかった。わたしのお兄ちゃんが……あっ、私実は4人兄弟の3番目なんですよ。で、さっきのお兄ちゃんっていうのは2番目の方、一番上はそのころもう働きに出てましたから。あっ、一番上のお兄ちゃんが何で働いていたかといいますとね――」
まじで話長くなりそうだな。支離滅裂なうえにいらない情報が多い……。
おばさんトーク(内容がない話でも早口や息継ぎを短くすることで勢いを生み、その勢いで相手に有無を言わさず一方的に情報を伝達するトーク術のこと。習得条件は相手が何を考えているのかといったことを考える青春の甘酸っぱさを忘れること。)を身に着けていればこの情報量でも早く終わるのにまだ無理みたいだ。これ最後まで聞いてたら片づけ終わっちまう。
これは早いうちにもう一人連れてきて話の内容をこの部屋に持っていく必要があるな。サボッチャ、お前もそれまで聞きたくもない話を一方的に聞かされる苦しみを味わえ!不憫なサボッチャ……大いに笑える。もっとも、一番不憫なのは気絶したまま冷たい床に寝かされっぱなしのリンダさんだけどな。こっちはあまり笑えないから早いとこもう一人見つけてこないと!
そんなことを考えていると前方から本を読みながら歩いてくる30代ぐらいの男が現れた。体格がわからないくらい大きめな黒いローブに学者帽そしてメガネ。間違いなく学者か研究者だな。こいつの名は確かロビンソン、性格は……、頭がいい人はチェットが苦手なタイプだからこれといった情報はない。
でもこれは当たりかもしれないぞ!部屋の散らかりっぷりを見て謎に思わない人はいない。そして、次のターゲットは謎を解明することを仕事にしてるような人。俺が欲しい情報を引き出すのにこれ以上打ってつけの人材がいるだろうか!これが三度目の正直ってやつか!しかもこのまま放っておけば勝手にあの部屋に行きそう。手間も省けてラッキー!
ついにゴールが見えてきた!
と思った、この時は……。




