試練4
このままだと入るまでファンクラブの勧誘をされ続けられそうだったので、スキを見て逃げだした。所詮はパンピー、俺の速さにはついてこれない。
そもそも強制的に入れられたファンクラブ会員にいったいどんな意味があるんだ?会員の好きなものにまったく共感できないのに……。
まあ、もう会うこともないだろうし……、会いたくない。
というかバフモッティファンクラブなんてあったんだ……。俺の影響でこんな害悪が待ちにはびこっているんだとしたらやめてほしいな……。目的がすごいところにある団体だったしな……。早く解散しないかな……。世界平和のために……。
……いや、ちょっと待て。この前予想した奴の投票があったら、もしかして俺、勝てるんじゃね!ファンクラブをうまく操作すれば俺勝てるんじゃね!何せ、少なくとも1001人はいるからな。あとは俺がほんものであることを証明できるかだが……、それもサボッチャを連れてくれば一発だ。
よし、どんとこい!
向かうところもないので会場の隅に立ち尽くす。会場はサッカーコートが作れるくらいに広いのに、それを埋め尽くす勢いの人の数だ。結構参加者多いな。バフモッティスタイルの連中が勇者になりたくて来たのかははなはだ疑問だが、やはり勇者というのは人気職なのか?食堂で聞いた話だとそんな感じではなかったけど……。
まあ、それでも勇者になりたがるような酔狂なやつもいるだろう。中には見た感じから強そうなやつも結構いる。ステータス見なくても俺以下だろうがな!
なんだかんだで人相手に試したことはないからな。腕が鳴るぜ!
そうこう考えていると会場の前方にあるステージにひとりの男が歩いてきた。その男はマイクを握ると力強い声で叫んだ!
「勇者の証を手に入れるための試練を今から始めるぜ!野郎ども!勇者の証は欲しいかァァアアアア!」
すげぇ、テンションだな。
「勇者の証を手に入れたいかァァアアアア!」
周りも熱くなっているのがわかる。
「準備はいいかァァアアアア!」
……ゴクリ。始まる。
「勇者の証を掴み取りたいかァァアアアア!」
いや、もういいよ。本題入ってくれ。
「勇者の証を物にしたいかァァアアアア!」
しつけぇよ!
「準備は出来たかァァアアアア!」
とっくだよ!
男は大きく深呼吸すると
「さてと、私は本日の司会を務めさせていただきます、メイクです。本日はよろしくお願いします」
と普通のトーンで言った。
急に口調!まあいい。やっと始まるんだな。
「いきなり本題に入るのもなんですのでええっと、最近巷じゃもちきりのこの話題!みなさんは当然既にご存知ですよね!」
始まらねぇのかよ!なんじゃねーよ、本題入れよ!
「そう一躍時の人となったバフモッティさん!」
お前もか!
「今もこの会場のどこかに来てらしているようですよ!」
誰だよ、その情報リークした奴!……容疑者はたぶんあいつだけど……。
「ちょっと呼んでみましょうか。みなさんも会いたいですよね!それでは私のあとに続いてバフモッティコールいきましょう!」
誰も出てかんわ!茶番はいいから本題入れ!
「せーの」
「ちょっと待った!」
大きな甲高い声が会場中に響くと、壇上にひとりの女性が乱入してきた。よく見ると会員ナンバー999のさっきの人だった。ファンクラブ会員としては神聖なもので、適当な感じが気に入らなかったとか?
「あんたさっきからなんで様をつけないの!?ふざけてるの!?半端な気持ちでバフモッティ様に会おうとするなんてふざけないで!」
なんかそうっぽい。俺に言わせればお前の中のバフモッティ像の方がふざけてるがな。
その女の人を皮切りに次々と壇上にバフモッティスタイルの人がステージに上がっていく。そのすべての人々がかなり高圧的な空気を纏っている。
バフモッティファンクラブがどういうクラブなのか……、俺は怖い。
「ファ、ファンクラブの皆さんですか……。噂には聞いていたのですが申し訳ございません。これからは気をつけます。本当に申し訳ございません。ですのでここでは怒りをお収めください。お願いします」
メイク……、必死……。
「口では何とでも言えるわ!反省しているのなら私たちのファンクラブに入りなさい!」
……怖いよ。バフモッティ様ファンクラブ怖いよ。無理に言葉で断らなくてよかった。
「いえ……。私はその……。」
「入りなさい!」
「……はい。この仕事が終わりましたら……」
「ダメ、今!」
「……はい。」
メイクは頭をガックシ落とすと会員の人たちに連れて行かれた。さっき俺にも勧誘した人だけ残りマイクを持ってこっちに話しかけた。
「みなさん、すみません。私バフモッティ様のファンクラブ会員No.00999のものです。今から30分間の休憩になります。そのあいだにトイレなどはお済ませになってください」
……まだ始まってないのに30分の休憩って!!おい!バフモッティファンクラブの奴ら!大暴だぞ!この国の元女王だったあの魔物並みにひどい!
というかほかの人たちはどうなの?この展開に文句とかないの?会員じゃない人でここに来た人はみんな結構怒ってるんじゃない!?
近くの人たちの声に耳を傾ける。
「なんだトイレ休憩かよ。しょうがねぇなー」
「俺さっきも行ったけどもう一回行ってくるかなぁ」
「別にトイレじゃなくてもいいんだろ。俺小腹がすいたからちょっとパン買ってくる!」
「あんたはどんなときでも食い意地が張るのね。私のも買ってきて!」
「朝飯ちゃんと食わなかったのかよ。俺の分も頼む」
「このタイミングで食べるのがパンって、お前……。ついでに俺のもお願い」
「俺はいいや」
「僕も。食べ物より飲み物が欲しいな。何か飲み物買ってきて!」
……なんでこの休憩を受け入れてんの?お前ら何しにここに来たの!?怒ってるの俺だけかよ!俺の懐が狭いの、これ?手続き5分で終わるって言ってたじゃん!なんで休憩30分もあんの!
じゃなくて自分で買いに行けよ!
一旦壇上から消えたメイクだが、30分後スキップしながら戻ってきた。
「ええっと、それでは早速ですが今回の試練の内容はをご説明させていただきます」
全然早速じゃねぇよ!そんでなんでお前ご機嫌なんだよ!何言われたかしらんけど絶対騙されてるぞ!
もうどうでもいいけど。これでようやく本格的に始まるんだな。
さて、どんな内容だ……。できれば戦闘系で頼む!
「今回の試練の内容は……」
メイクは精一杯ためて肺に詰まった空気を一気に吐き出すように叫んだ!
「これだァァアアアア!知能テストォォオオオオ!」
……やっぱり違ったか。ふーんそっか、知能テストかー。確かに勇者に必要なのって知識だもんな……。
っておい!知能テストってなんだよ!
知識なんて勇者の証を手に入れたら不老不死になんだからそこからかんばればいいだろ!今現在はなんだって別にいいじゃん!
……それは戦闘も一緒か。
いや、一緒じゃねぇ!やばいやばいぞ。知能テスト!これだけは無意識に避けていたのに……。なるべく考えないようにしてたのに……。
俺は異世界人だぞ!例えば、日本で一番高い山は?という質問。日本人なら幼稚園児でもわかる問題でもこの国に置き直したとき俺はこの国で一番高い山を知らない。というかこの世界に存在する山の名前を一つも知らない。そんなんでどうやってここにいる人たちに勝てって言うんだ……。このままではもしかしたらあの頭いかれている会員どもにも負けてしまう。一般的な常識に関する問題でもこの世界の人とうまくいったことないし……。それ以前に文字を書くはおろか読むことさえもできない……。答えられなければ絶対に勝ち上がることはできない。
どうする……。最大のピンチだ。
思わず頭を抱える。
後ろから肩をポンと叩かれた。
「やっと見つけたわい。お主が本物じゃな!」
振り返った先にいたのは白髪のおじいさんでなんとなくだが体中から知性を感じさせるオーラを放っていた。この世界の今まであった人の中で一番頭よさそうだ。
この人はそう、……誰?




