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敵よりもミカタがやっかい!  作者: 気分屋
海の大会の決着
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決勝8

「カヅワさん!リタイアクロスですよ!今大会では初ではないですか?」

 実況が興奮気味に隣に座っている解説に向かって言った。

 俺は人生初耳だよ!うわさにも聞いたことないよ!

「そうですね。リタイアする場面はありましたがリタイアクロスは初めてかもしれませんね」

 いや、当たり前みたいに言ってるけども意味わかんないからな!解説しろよ!

「もしかしたらリタイアクロスを知らないという方もいるかもしれませんのでカヅワさん、解説をお願いしてもいいですか?」

 おお、解説するのね。この流れは俺だけが知らないまま話が進んでいくかと思ってたわ。

「もちろんです。解説しなかったらなんで私がこの席に座っているんだってことになりますからね」

 いや、なってるよ!今気づいたのか?

「そうですよね。余計なことをお聞きしました」

 このやり取りがまず余計だから!

「謝らないでください。こういうやり取りもなく解説したらいきなり何を言い出すんだって思われるかもしれませんからちょうどよかったです」

 いや、今から解説しても空気がぎこちないだろ。お願いされたときにスッと言えばよかったんじゃない?

「私が実況者としてもっと自然に話をまわせればよかったんですがまだまだ未熟ですみません」

 そのやり取りをここでするなっつうの!話じゃなくて気を回せ!

「まあ、キュネさんはまだ駆け出しの実況者ですからね。そういうところは仕方ないと思いますよ」

 だからそういう話をここですんなって!

「まあ、そうですけど……。でも私!八百屋と兼業で今後もこういう仕事やっていきたいんです!だから何でも言ってください!早く一人前になりたいんです!」

 早く一人前になりたかったら八百屋の方を休業したら?

「それではリクエストにお答えして、リタイアクロスについて解説させていただきます!」

 いきなり何!?

「待ってました!よろしくお願いします」

 待ってたの?ならもっと発言自重しろ!


 解説がコホンと咳ばらいをすると解説を始めた。

「棄権するというのはたとえどんな競技をやっていたとしても起こります」

 まあ、そうかもしれないけどそうそうないよな。

 そもそもなんで参加すんだよって話だし……。

「しかし、リタイアできるのは一試合で一人、もしくは1チームだけですからね。両者が宣言した場合、必然的に片方のリタイアしか認められません」

 そこがまずおかしいよな。両者棄権でよくね?

「リタイアクロスの起源はかの有名なベヌール剣術大会事件と言われています。その剣術大会ではなんと参加者全員が棄権しました」

 何があった!?

「当時はリタイアクロスの制度がなく一律に全員失格としていましたが、そこで問題が発生しました」

 問題が発生したの?大会自体に問題があったんじゃなくて?

「大会の成績に応じて副賞が用意されていたのですが、誰にどの副賞を渡したらよいのかわからなくなってしまったのです」

 副賞の心配よりも運営方針とか参加者の意欲とかそっちを心配しろよ。というか副賞は運営者が持ち帰れ!

「そこで生まれたのがリタイアクロスです。これによって一試合で片方のみのリタイアが認められることによって大会としても仮に再び全員がリタイアするようなことになっても確実に順位がつくようになりました」

 その順位にどれほどの意味が?

 何の大会かわかったもんじゃない。

「原則では先にリタイアを宣言した方のリタイアが認められますが、両者のリタイアが同時の場合は審判がリタイアクロスを宣言します」

 そんなに参加しておいてリタイアする奴多いの?

 個別に罰金とかにすればいいんじゃないの?

「この決闘方式のルールでは同時の判断は審判が感覚的に決めてよいが、その判断に対して大会本部及び運営委員会は一切の責任を負わない。また、その判定に選手及び観客から不満が噴出した場合はペナルティーを科すことがあると明記されています」

 何の権限があって……、審判に丸投げしているくせに……。

「リタイアクロスを宣言すると、審判は両者の言い分を聞き、よりリタイアするにふさわしいと思った方のリタイアを認めます」

 言い分で判断するの?いったい何の審判なんだ?

「以上がリタイアクロスです」

 ひどいルールだな……。


「でもリタイアクロス自体はそこまで珍しくありませんよね?ヌウェルットボールのようなプロスポーツから学校の運動会まで幅広く使われてますからね」

 それまで黙って聞いていた実況がここで補足を入れる。

 その何とかボールは知らんがプロならリタイアすんな!

「そうなんですよ。もはや日常生活でもよく耳にする言葉なので今更って感じですよね。ここまで解説して来て思ったんですが解説なんていらないのではないでしょうか」

 そうだな!どっちかというとどんな思考でそんなルールが生まれたのかを詳しく教えてくれ!そこがわからん!

「それもそうですね。やめときましょう!」

 もうだいぶ解説されたけどね!

 やることはわかったよ。とにかく二人同時にリタイアしたら審判が話を聞いてどっちかに決めるんだろ?

 コイントスとかじゃダメなの?長くなりそうな気がしてならないんだけど!


「そうだ!この場を借りてキュネさんに一つ伝えたいことがあります」

 ……本当にこの場を借りる必要がある話なんだろうな?

「なんでしょうか?」

「先ほど一人前になりたいと言ってましたが、まずなによりその姿勢が一番大事ですよね。一人前というのはその道で努力を積み重ねて初めてなれるものです。だから早く一人前になりたいと思ったからってなれるものはないんですよ。早くというのは、キュネさんの感覚からすると一瞬でってことかもしれませんが一瞬でなることはできません。ただそうやって一人前になりたいと思いを常に持ち、謙虚な気持ちで行動に移していくことが最も早い方法であることは間違いないでしょう」

 ここでアドバイス?

 いきなり何言ってんだ、こいつ……。

「なんか自信が出てきました!私、頑張ります!素早く一人前になるためにどんどん実況していきます!ああ、でも私は一体実況者として何をお伝えすればいいのでしょう。ここで実況者キュネ、困っています。私は一体に何を実況したらよいのでしょうか?途方に暮れています!」

 自分の実況を始めたの?

 行動が空回りすぎなんですが!

「おそらくキュネさんは私がしたアドバイスをうまく吸収できていないのでしょう。頭の中がちぐはぐになっているようですね。まあでもこの分ならすぐに正気に戻るので大丈夫でしょう」

 その解説はいらんわ!

「私ったらいったい何をわけのわからないことをしていたのでしょう。カヅワさん、ご迷惑をおかけしました。迷惑ついでに一つ私の話を聞いてくれませんか?」

 なんだ急に図々しいな……。

「キュネさん、我々がリタイアクロスの説明をしている間にリタイアクロスはもう始まっていますよ!」

 審判がアミンと対戦相手のじいさんと何やら話している。

「それではこれよりリタイアクロスを――」

「そんなことより私の話を聞いてくださいよ、カヅワさん!」

 審判の声をかき消すように実況が喋る。

 そんなことよりって……、今、審判がやろうとしていることを実況するのがあんたの仕事じゃないのか?

「うーん、難しいですね。私に耳が2つあればリタイアクロスを聞きながらキュネさんの話も聞けるのですが……」

 耳は2つあるけどな!

「カヅワさんが私の話を聞いてくれないのはあれのせいですか?」

 実況者が実況対象に向かってあれとか言うな!

「どうしたもんですかね……」

 そいつをだまらせればいいんじゃね?

「そんなの簡単ですよ、カヅワさん!」

 実況はそう言うと今度は審判に向かって言った。

「サイードさん!私達これから大事な話があるのでリタイアクロスの話は少し待っててください!」

 黙らせる方はそっちじゃない!

「なんでですか!私は好きにやらせてもらいますよ!」

 審判は少しキレ気味で実況に言い返す。

 さっきの審判と違って今度の審判は実況に従順ではないようだ。それがいいのか悪いのかはまだわからないけど……。

「その手がありましたね!キュネさん、ナイスです!サイードさん、私からもお願いします」

 本当にこれがナイスな選択なのか?

「カヅワさんに頼まれたら仕方ないですね。一旦休憩します!」

 なんで解説の言うことは聞くんだ?

 そして、休憩が多いな!この大会!

「ありがとうございます、サイードさん。それでキュネさん、話というのは何ですか?」

 解説が実況に話しかける。

「ええっと……。カヅワさんって今好きな人いるんですか?」

 ……なんだその質問!?

 さっきのはなしの流れどこ行った?

「最近、恋愛はご無沙汰ですよ。でも急にどうしました?もしかして……」

 いや、なんで真面目に答えられんの?そいつをもう病院につれてってやれよ!

「すみません!聞きたいこと忘れちゃったのでつなぎで適当に思いついたこと聞いちゃいました」

 大会の進行を遮っておいて!

「適当にですか……。まあ。忘れてしまったなら仕方ないですね」

 それで済む問題なの、これ?

「はい、思い出したら言います」

 言わんでいい!思い出すな!

「わかりました。ではサイードさん、続けてください」

「お任せください!」

 全然話進まねーな!


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