勇者の証11
女王とサボッチャが険悪な雰囲気になり静寂に包まれる。いや、チェットの素振りの音だけが聞こえる。その沈黙に耐えかねたウェットンが口を開く。
「ところでアイットバス、ベッドの裏に手形はあったのか?」
そんな話もあったな。その答えはサボッチャが口を開く前からなんとなくわかったが……。
「……はい。それは確かに女性の手形がくっきりと残っておりました……」
「……そうか」
ウェットンは頷くと女王のほうに向き直ると床に片ひざを付けてしゃがみこむ。
「ゴホン、え~、あ~、女王様」
ウェットンはもう完全に女王であることを認めたようだ。それもどうかと思うけども……。
「女王様、ともにお部屋に帰りましょう。この近衛兵団の兵団長ウェットンめがお連れさせていただきます」
……なんだこのすごい手のひら返し。この感じだとこいつが妬まれるような出世をしたのはたぶん顔だけじゃないな。
「いいえ、私は出ません!さっきそこの人たちに説明しましたが、私のもう一人の子、サボッチャが今どうしているかわかるまで絶対にここを動きませんから!そんなに私をここから出したいならサボッチャを目の前に連れてきたらどうなんですか!?」
あれ、さっきまで安否の確認だけだったのに、目の前に連れてくるの?難易度上がった……。だけど、クリアしている……。
「それに私は普通に近衛兵団が嫌いなので出て行くとしてもあなたとは出ません」
ウェットンの長いものに巻かれる作戦失敗!
ウェットンは少ししかめっ面をするとサボッチャの肩を叩く。
「本当にサボッチャという名を聞いたことないのか?」
そいつが聞いたことなければほかに聞いたことある奴がいるとは思えませんが……。
「ええ、ありませんね。そもそも私のような孤児もいる以上名前も当てになりませんし……」
そうだね!お前が言うと説得力が違うね!
「何より今まで沈黙を貫いてきたのにこのタイミングで隠し子だなんて……。都合がよすぎると思いませんか?」
お前はそれを言うな!
「確かに……。だが女王様がそうおっしゃっている以上はあちらの仰せのとおりにしなくてはなるまい」
ウェットンは立場の高い人間には弱いようだ。
「ハッ、大丈夫でしょう。適当に話を聞いてそれっぽい人を見繕えばいいじゃないですか。どうせ向こうもわかってないんだし」
そして、お前は図太いな。そんなんだから左遷されるんだよ。
「バカ!相手は女王様だぞ!もっと敬意を示さんか!」
ウェットン、小物臭が半端ないのだが……。せっかくのイケメンが台無しだ……。
ウェットンは女王に向き直る。
「我が敬愛すべきロクルルエント王国の女王様!そのサボッチャ様の特徴などが分からねば我々も探すことができませぬ」
女王もウェットンの手のひら返しにさすがに少し引いているようだったが、少し間をおいて答え始めた。
「そうね、サボッチャはあの人に似て歯は白かったわ。虫歯もない。手と足の指はそれぞれ5本ずつなのに目と鼻の穴は2つしかなかったわ」
……この人は何を言ってんだ?人じゃなくても当てはまる可能性があるぞ!
本当に忘れたことないのか?
「ふざけてんのか!個人的な特徴だよ!何考えてんだ!馬鹿か!」
サボッチャが食って掛かる。気持ちはわかる。というか王宮の生活がつらかったのは単純にその性格が厳格な雰囲気に合わなかっただけなのでは?
「なによ!うっさいわね!わかってるわよそんなこと!ええ~と、あっそうだ!生まれた時の体重は4367gだったわ!きっと今は強い子になっていると思うわ」
「生まれた時の体重は特徴じゃねぇよ!人を見ただけで生まれた時の体重がわかんのか!?ああ!?」
そうカリカリするなって!出生記録とかはないのか?本音を言うともうサボッチャがお前だって真実がわかろうがわかるまいがどうでもいい。早くこの一件を終わらせて俺に自由をくれ!
「あんたさっきからほんとうるさいわね!順番に言ってんじゃない!そんだけうるさいとどうせ彼女とかいないんでしょ」
「あんたには関係ないね!親でもないくせに!」
「それもそうね。あんたみたいな性根の腐った男なんて興味ないもの」
「俺の性根が腐っているだと!?俺は孤児だったけど尊敬できる素晴らしい父と母に育てられたんだ!その言葉、まさか俺の父と母に向けて言ったんじゃないだろうな!」
「あら、あなた孤児なの?まあ、このご時世に拾い子を王宮に勤めさせるなんて素晴らしいじゃない!じゃあ、きっとあなたの性根が腐っているのはあなたの生みの親のせいでしょうね」
「何をいまさら!そんな女、あったことはないがあったとしても何の感情もないね!」
「まあ、私もあんたの生みの母親なんてどうでもいいけどね!」
やめて、その会話、やめて!
「あの女王様、ほかには特徴がありませんでしたか?」
「あとはそうね……、お腹に大きなホクロがあったわ。ちょうど人差し指の爪ぐらいの大きさの……」
ホクロなら大きくなってから消えるってことはない。というかホクロって身体が成長しても大きくならないんじゃなかったか?
サボッチャの反応を見る。特に焦りはないようで澄まし顔でいる。わかってない?
しかし、ウェットンは何か気づいていたようだ。2秒ぐらいの間があったあと、ウェットンが興奮気味にサボッチャに話しかける。
「お……、お前!確かあっただろ腹に……ホ……、ホクロ!」
「はあ、ありますよ、俺の腹に少し大きめなホクロ。でも、それがなんだっていうんですか?」
この感じ……、本気で自分がメーレスさんの子供ではないと信じて疑っていない、根拠のない自信が伺える……。まあ、それはそれで知らないほうがいいこともあるしな。
「お前もしかして……、サボッチャ……様……なのか、……なのでしょうか?」
ウェットンが急にサボッチャに対しても畏まる。
……こいつ。
「ちょっと、やめてください、ウェットンさん。俺がそのサボッチャ?何を言っているんですか」
「だって考えても見ろ。……見てください。まず、孤児で自分の本当の名前を知らない……んですよね?」
「本当の名前っていうのがどういう意味なのかにもよりますけどね。生みの親が付けた名前って言う意味なら確かに知りませんが、俺には今の親が付けてくれたアイットバスって言うれっきとした名前がありますから!」
俺の目に見えるステータスは生まれたときの名前が見えるってことか……。
じゃあ今は関係ないけど、チュルパはおかしくね!この世界にってこと!?
「生まれたときの体重が4367gだった……んですよね?」
「それはわかりません」
それはわからんよな……。変なのはさむな!
「そして、女王が王宮に嫁がれた少し前に生まれたんだよな、……ですよね?」
「ええ、まあ、ここ最近読み込んだ資料から考えるとそういうことになりますね。ただ、俺と同年代の人なんてたくさんいますよ。近衛兵団の選抜試験なんて合格まで確か6回くらい試験がありましたもん」
ここは試験がザルだったのではなく、人数が多かったと捉えておこう。というか6回もふるいにかけて残るのがこいつとかそいつとかなわけ?この国ヤバイな!
「手と足の指はそれぞれ5本ずつなのに目と鼻の穴は2つしかない」
「そこまで言われると確かに当てはまることは多いな……」
今まで頑なに反論してたのにこんなにわけのわからんところで引っかかるな!
「王都内の出身地区が女王と同じではないですか?」
「それは偶然ですよ。王都は広いといっても16地区しかありませんからね!」
なぜか持ち直した……。でも16分の1って結構な確率だぞ?王が街中で見初めるレベルってことは身だしなみはもちろん、治安もそこそこ悪くないはず、その地区はそれなりに裕福だと推測できる。そこ出身の孤児ってそうそういないんじゃないのか?
「だけど、昔言ってましたよね……。逆玉の輿に乗りたいって……」
サボッチャの手から牢屋の鍵束がするりと落ちる。
「そんな……、まさか……、まさかそんな……。この人が……」
どこでなびいてんだ!まあ親の七光りで多少待遇が変わるだろうけども、お前はそれでいいのか!?
「あなたが俺の生みのお母さん……、なのか……」
「えっ、あなたが私の息子……、なの……」
お互い気まずそうな顔をしている。当然といえば当然か。さっきまですごい言い合いしてたもんな。
「まっまっまだ、きっきっ決まったわけじゃない!そっそっそれに、こんなのの子供なんてこっちから願い下げだ!」
「ふっ、ふん、わわわ私もよ!こんな口の悪いのがむむむ息子だなんて!」
もはや修復不可能だけどこれにて一件落着!
さてと、それでは生き別れた親子の再会を祝してみんなでうまいもんでも食いに行くか!
……さすがにそんな雰囲気じゃない。しかし、ウェットンもサボッチャも女王も黙っていても俺のお腹は黙ってない!
とはいっても俺にはどうすることもできない。しかし、話についていけてなくて黙っていたチェットが沈黙を破る。
「……えっ、つまりこの牢屋に入っている女性がこいつの母親だったってこと?」
チェットはサボッチャを指差す。最後だけ聞いていればそれくらいはわかるだろう。
『はい』
別に俺に聞いたわけじゃないと思うけど早く帰りたいので答える。
「そうか、……ということはだ」
今度は女王の方に顔を向ける。
「あなたはデベソですか?」
チェットが謎の質問をする。
なんだその質問!?どういう理屈でその質問したの?あっ、あの時の口論か?
よくこの空気感でそんな質問できるな……。
「……えっ!……ああ、まあ……、ええ……」
女王はどうやら頭の中がパニック状態のままのようで今言うべき……、今後一生答えるべきではないどうでもいい質問に答えた。美人さんのヘソの事情なんて聞きたくなかった。
「ほらな!言っただろ!」
チェットがサボッチャに向かってうれしそうにそう言ったが、反論する気にもならないのは俺だけではないようでまたしばらく長い沈黙が流れた。




