決勝4
今まで通り自由な感じで実況と解説が決勝戦の進行が進んでいく。
「さてさて決勝戦の第一カードですが、これは驚きの展開になっていますよ!」
驚くほどの情報が俺達にはないけども……。
「驚きの展開ですか!?本当ですか!?」
早いよ……。さっきもそうだけどよくそのテンションでずっといられるよな。
「もちろんです!これはカヅワさんもびっくりされると思いますよ」
解説が驚くかどうかは問題じゃない。話を進めろ!
「それはどうですかねー。私くらいになるとほとんどびっくりしませんけどね」
どの口が言ってんだ……。
「カヅワさんは人生経験が豊富ですからね。でもそれでもびっくりされると思いますよ」
人生経験が豊富なら驚きの展開があるって言われてあんなに驚かないでしょ。
「そうですね。最近も全然びっくりするようなことなんて……。あっ、そうそう!この前びっくりしたことがあったんですよ!」
急に何の話!?あっ、そうそうじゃねーよ!
「えっ、なんですか?教えてください」
今、本当に必要か?お前にはほかにやるべきことがあるんじゃないのか?
「もちろんです。ここまでしゃべっておいて言わないなんて手はありませんよ」
あるよ!仕事に支障をきたしてんだろ!
解説が一人語りを始めた。どうでもいいのに……。
「あれは一昨日のことです」
一昨日じゃねーか!一昨日驚いてんじゃねーか!
「古い友人たちと切り裂きのブロリアの店でディナーを食べに行ったんですよ」
切り裂きのブロリアは確か解説が昔パーティーを組んでたっていう人だよな。なんかすごい負担をかけられてた……。
「ブロリアの飯は昔から驚くほどおいしかったから楽しみにしていたんですよ」
もう昔から驚いてばっかだな!
「みんなもそろったのでよし、これから一杯やるぞと意気込んで店に入ったら……、そしたらなんと私だけ出禁になったんですよ!」
なんかやったんでしょ、どうせ。
「ええ!?びっくりしました!私まだ出禁の店ないですから」
実況が驚いた声を上げる。
サクラか?そんなに驚きはしないでしょ!それに出禁なんてそうそうなるもんじゃないでしょ。
「聞いたら前に2、3回、酔った勢いで店内のテーブルやら椅子やらをぶっ壊したからですって!」
一度ならず……。
「まだ10回はやってないんですよね?それで出禁だなんてびっくりですね!」
仏の顔も三度までって言うけどな。そんな10回ルール聞いたことない。
「ええ、ですから私だけ2次会から参加ですよ……」
店変えなかったの?友人たちも大概だな……。
「2次会までなにしていたんですか?」
何でもいいわ!話を進行に戻せ!
「2次会に遅刻したらまずいと思って店先で1次会が終わるのをただ座って待ってましたよ」
いや、他にもやりようがあるだろ!
ようやく俺の中でびっくりした話と繋がったわ。
「そんなこと言って、お店から漂ってくるおいしそうな匂いを嗅いでたりしたんじゃないですか?」
別にいいだろ、そのくらい。
「びっくりしました!?なんでそれを!?」
店先にいたら不可抗力だと思うけどね!
驚くようなことか!?
「私ならそうすると思っただけです」
バカばっかだな。喫茶店とかで時間を潰したらいいんじゃないの?
「そうですよ。その通りです。今日一番びっくりしました」
こんなしょうもないのが?もっとびっくりしたことあるんじゃないの?
さっきまでのゲルナとの戦いは驚きの連続だったじゃん?
「いずれにしても店先にいれば2次会に遅刻する心配はないですね」
終わったら呼んでもらったりやりようはあると思うけども……。
「ええ。まあ、私は酒の席で遅刻したことないですけどね」
出禁のくせに!
「そんなカヅワさんも決勝戦の第一カードにはびっくりしますよ!」
あっ、やっと話が戻った。
「うーん……、残念ですがたぶん驚かないと思いますよ」
どこから来るの、その自信は……。
「それはどうですかね?まずはアミンさんからです。なんとアミンさんは先ほどの準決勝で手を負傷していました!」
それはお前らも見てただろ。
でっかい音を立てて拳銃が暴発してたじゃん。
「ええ!?アミンさんはさっき私たちが解説していた試合に出てましたよね!?」
なんで覚えてないんだよ。
「そうですよ。負傷してたら私が実況してないわけがないですし、カヅワさんが解説してないわけがないんです」
えっ、なんて?
「そうですよね。私が解説していれば皆さんの、少なくともキュネさんの記憶に……、いや、キュネさんはともかく私の記憶に残っていないわけがない!」
そしたらそういうことなんでしょ!
「そうなんですよ!いつの間にって感じじゃないですか?」
全然わかんない。
「ええ!?こんなにびっくりしたのはキュネさんにブロリアの店先で料理の匂いを嗅いでいたのを言い当てられたあのとき、つまり10秒ぶりですよ!」
さっきの話でしょ!なんでわざわざ振り返った?
「カヅワさん、驚くのはまだ早いですよ!」
早いというかそもそも驚くところだったか?
「ええ!?驚くのはまだ早いなんてびっくりさせないでくださいよ!こんなに驚いたのは1秒ぶりですよ!」
いつ驚いたかは言わなくていいから!うるせーよ!
「なんとアミンさんは右利きです!」
割合的には右利きの方が多いんじゃないの、俺も右利きだし。この世界はどうか知らないけど……。まあ、聞き手なんてそんなのどっちでも驚くようなことじゃなくね?
「右利き!?アミンさんは右利きなんですか!?こんなに驚いたのは1秒前以来ですよ!」
もうそれ言いたいだけだろ!うるせーんだけど!
「カヅワさん、これだけじゃないんです!」
今までのは驚くような内容じゃねーしな!
「これだけじゃないんですか?いやいやこれくらいでしょう!これ以上驚かさないでくださいよ!」
もはや何を言っても驚くやつを驚かさないなんて無理だろ!
「じゃあ、本当はまだアミンさんが異世界から来たとかありますけど、これはやめておきますか?」
いや、言ってるから!やめてねーから!
「……は?いや、それは普通に嘘では?キュネさん、からかわれてますよ、それ!」
普通のリアクションだよね、それが。それが普通のはずなのにすごい違和感があるのはなんでだろう……。
「そうですか?でもほかにも経営しているリサイクルショップの立ち上げからわずか半年で10億ゼニー稼いだ話とかありますがアミンさんの話はこれくらいにしておきましょう」
その話は確かに驚きだな。結局1ゼニーが何円くらいなのか未だにわからないけど、普通の買い物をするのに10億なんて桁の額が動くと考えるのは難しい。この世界でも有終の大金持ちなんじゃないのか?
「驚く驚かないというよりへぇーって感じですね」
この話が!?
右利きの話の方がへぇーって感じじゃない?
「そんなことないですよ!あとそれだけじゃないんですよ!アミンさんは決勝戦を計画的棄権するという情報もあるんですよ!」
おい!こっちの作戦を勝手にしゃべんな!
「キュネさん、さっきから言いたかったんですがどこからの情報ですか?全部でまかせなんじゃないんですか?」
まあ、たぶん全部本当だけど、そういうことにしておいてくれ!
「本人からそう聞いたんですけどね。なんかカヅワさんに言われるとなんかそんな気がしてきちゃうから不思議ですよね」
本人から聞いたのに!?
「キュネさんの話を聞いて少しだけ楽しみになって来ました!」
今の会話の流れで?
「それはよかったです。まだ試合を始めるまでに紹介しなくてはいけない人がいますからね!まだまだ楽しめると思いますよ!」
いや、観客は試合を楽しみたいんじゃないの?
この紹介コーナーを楽しみにしている人って本当にいるの?




