勇者の証8
牢屋の前まで来ると看守と思われる男が出てきた。……当然だけど、サボッチャ以外にもちゃんと看守いたんだ。明らかにサボッチャよりも年配で話が通じそうだ。
「お前はバフモッティだな。ウェットン殿の命で今日ここを出たことになってるぞ。今更何のようだ?」
その看守の表情がなぜか硬い。眉間にしわが寄っていてとてもイライラしているようだった。言い回しがきついのもきっとそのせいだろう。
さてさて、どうしたものか……。俺は事情が説明できない。でも、黙っていたらきっと怒り出すよな……、すでに機嫌悪いし……。こうなったら一か八かの一発勝負!
咄嗟に思いついた方法。親指と人差し指で輪っかを作り、金のポーズをとる。
……というのは共通認識でない可能性があるためやめて、ポケットの中身を出して持ちものがないことを見せる。
……というのも俺のズボンの構造ではできなかったためやめて……。
何かいい方法、ちゃんと考えておけばよかった……。
完全に手をこまねいていると看守のおっさんはやわらかい口調で話し出した。
「まぁ、お前も大変だったな。あの新人看守にベッタリされて。近衛兵上がりだって聞いてたから優秀だと思ってたのに定例会議に遅れるわ、晩飯はひっくり返すわ、とんでもねぇやつだっだな」
……あっ、なんかこの人優しそう。そうだ、もっと言ってやれ!
「今も戻ってきたと思ったらウェットン殿によってバフモッティの釈放が決まったから手錠の鍵持っていきますとか言って走っていったきり戻ってこねぇし……。」
まあ、今は勘弁してやってくれ。
「近衛兵をクビにされた理由がよくわかったぜどんなに剣の扱いがうまくてもどんなに頭が良くても人に迷惑をかけるやつはどこでもクズ扱いされるってもんだ!俺は毎日コツコツ仕事を――(以下、新人看守の愚痴の話で特筆すべき点がないため割愛)」
お前の気持ちはよく分かる……。ただな、それブーメランだから!俺がお前の愚痴を聞くために戻ってきたとでも思ってんのか!?あなたも迷惑かけてますよ!
そのあと、小一時間愚痴をこぼされた。結局金がなければ街に出たってこの空腹は収まらない。
というか今思ったけどチェットのところ呼び出されるのだって朝食の後でいいじゃんか!なんで朝一から呼び出されたの?そして、女王もウェットンも何で朝一からいんだよ!
どいつもこいつも俺に愚痴りやがって!愚痴りたいのは俺のほうだ!
そのあと別の看守が来た。どうやら俺に対してどうでもいい話を延々しているこの看守にようがあったらしいが、その看守がすべてを察してくれた。
「どうしたんだい、バフモッティ?あぁ、忘れ物か!……ええっと、君の荷物はまだ中だ。確認しなきゃいけないから一緒に来て!」
そして、俺を牢屋の中に連れていってくれたおかげで愚痴地獄から解放された。
やっぱりこんな人もいるんじゃん!なぜ俺が困るまででてこない?
牢屋の中を二人で歩く。周りを見ると鉄格子がついた部屋が延々と続いている。その部屋の中に人がいたりいなかったりしていた。檻の中から見るのと外から見るのとではだいぶ雰囲気が違う。俺もこの部屋のどこかにずっといたんだな……。でたときは何がなんだかわからないままだったけど、改めてみるとあまりいい空間ではない。
「あの人一度話しだすと長いんだよね……」
不意にさっき助けてくれた看守が話しかけてきた。
「本当は罪人と看守以外はこの中入っちゃダメなんだけど、特別ね。あのままだとずーっと話聞かされることになるから。それに君と一度話したかったんだよね。俺の子供たちに自慢したくて」
自慢?何の?
まぁいいや、俺と話すとは言ってもお前が一方的にしゃべり続けることになるけどそれで自慢になるなら好きにしてくれ!
……意味はわけわからんけど。
結局、そいつもこの世界の住人なので言いたいことを一方的に言うと勝手にすっきりしていた。
それにしても少し眠くなってきた……。話が退屈なのもあるけど、昨日はただでさえ空腹で寝付けなかったのに朝がだいぶ早かったからな。何気なく右目をこする。そのとき偶然牢屋にいる一人の女性が目に付いた。
メーレス
HP 20
MP 0
ATK 12
DEF 10
MAT 12
MDE 683
SPD 14
そういえば俺って左目だけで人や魔物を見るとそいつのステータスがわかるんだった……。何だこの人、MDEだけ恐ろしく高いな……。この国も面白いやつを捕まえたもんだな。
よく見ると見た目はひどくやつれてはいるが、その顔立ちはかなり整っている。間違いなく美人さんだ。それにどこかで見たことあるような顔……。
メーレスさんね……。
……あれ?メーレスってこの国の女王の名前じゃなかった?
……あれ?この人、どこかで見たことあると思ったが女王に似ているような……。
俺は立ち止まってその女性を指さす。察しのいい看守はすぐにこの人のことを話してくれた。
「この人は偽女王事件の偽物さ!この美しさがあれば、そんなやり方しなくてもさ。王族になるのは無理でも普通に幸せに生きていけただろうに……」
やはり偽女王とされていた女か!
「馬鹿な女だよ。欲が絡むと女は怖いもんだ。うちのカミさんなんかも――(以下、カミさんの自慢話のため割愛)」
馬鹿な女とかやめろ!
それにしても思いのほか簡単に見つかった!多分間違いない!この能力をこんな使い方するとは思ってもみなかったが……。
看守は30分くらいかみさんの話をすると再び歩き出した。
結局、お前も話が長いんだよな。
俺の持ち物がある部屋に入ってポケットに詰め込めるだけの金を返してくれた。看守はまだ何回言いたそうだったが、間違いなく長くなるので俺は走って牢屋を出た。
早くみんなに報告しなければ!俺が一番の功績だな!ヤッホー!早く自慢したい!
まあ、飯食ったあとだけどな。これがなけりゃ何のための自由行動なんだかわかりゃしない!
しかし、城門から街に出ようとすると門兵に声をかけられた。
「ウェットン近衛兵隊長からの指示でバフモッティ殿が門の内側にいることを確認したら城門を封鎖するようにと仰せつかっております。なんでも女王様が体調をお崩しになられたとかで……」
……あれ?建前としては街で女王に似た人を探しに行くんじゃなかったっけ?
女王を体調不良を理由に人を遠ざけたのはいいとしてなんでこんなことに!?
ウェットン、お前も心変わりが激しいの?もしかして、俺が女王説を疑ってる?……そんなわけないよね。
この門兵は深い事情を知らされてないんだろうな。だから見つけたら城門を閉めろとしか言われてないのだろう。
でも俺外に出てないのになんだこの行き違いは……。
あ、あの看守どものバカみたいな長さの愚痴か!本来なら行って帰って来るだけの時間はあったはずだから、さっき指示を受けたとしたら確かに俺が城内いるのは帰ってきたあとと考えるべきか。あれのせいで俺が外に出れなくなってんじゃん!
人に迷惑かける奴はクズだとかいっていたがお前がクズだ!
「これからの外出はご遠慮下さい」
門兵は最後にそういうと城門の前にかかっている架け橋を上げて封鎖した。
……門兵に言ってもしょうがない、そもそも何も言えないし。王座の間に戻るしかないな。
なんでこう……。
ハァ-……。
重い足取りで王座の間の大きな扉を開くと何故かみんないた。
パッと見た感じチェットとサボッチャが口論していてウェットンが近くでどうしたらいいのかわからずおどおどしているようだ。
俺が部屋を出る前にチェットトサボッチャは何か話してたもんな。何についてかはわからないけどそれが口論になったのかな?
とりあえず聞いてみないことには何もわからない。
「だから別にそういうわけじゃないって!」
とチェット。
「いや、実際そうだっただろ!」
とサボッチャ。
「そんなことないよ!それにそれはあんたにも言えることじゃないか!」
とチェット。
「何言ってんだ!俺はそんなことしない!適当なこと言ってはぐらかそうとするな!」
とサボッチャ。
「いやいや、そんなこと言ってはぐらかしているのはどっちだ!」
とチェット。
聞いてみても何の話かわからない。
女王の調査方法の議論か?はたまた剣の技に関する話がもつれたか?いや、もっとしょうもないことだろう。俺が話してるときに横から口を挟むな!とかかな?いや、そんな小学生レベルで喧嘩するか?せめて女王様関連で頼む!
近づいていくとウェットンが俺に気づくと素早くよって来た。
「こいつら、さっきから俺の話を遮ってしゃべるな!って言って喧嘩してんだ……。私はどうしたらいい」
小学生だった!馬鹿か!なにやってんの!壁も直ってないし!
どうしたらいいかだって?ぶん殴ってやれ!この小学生どもを!
「お前の母ちゃんデベソ!」
とチェット。
「あ、なんだと!お前の父ちゃんハナクソ!」
とサボッチャ。
……撤回。ぶん殴ってやれ!この幼稚園児どもを!




