勇者の証6
だいぶ早く目が覚めた。モチロン、空腹のあまり……。
2日目か……。先が長いな……。先が長い……。
今日はサボッチャの話をラジオ感覚で聴きつつだらだら横になっていよう……。早く朝飯にならないかな……。
するとドタドタと慌ただしい足音でこちらに向かってくる人がいるようだ。まあ、それは予想に反することなくサボッチャだった。しかし、奴の発した言葉はまったく予想していないものだった。
「出な、バフモッティ!」
なんだ?何が起こっているんだ?チェットがもう着いたとか?……そんなわけないね。
じゃあ、拷問とか?女王に楯突いたから鞭打ちされるとか?これかな……、相手は女王だしね。まあある意味拷問は既に受けてるけどな。飯抜きという拷問をな。
手錠をかけられて牢屋を出るとサボッチャに連れられて王座の間まで来た。
女王が直々に拷問ってことか?洞窟にいた魔物よりも強いってことはないだろう。
特に事前に何もないまま中に入ると女王と兵団長ウェットンのほかにもうひとり……。そこにはいるはずのない男、チェットがいた!
一日ぶりなのにだいぶ久しぶりな感じだ。
……というかなんでいるの?……わすれもの?それとももうあきらめた?
なんにせよ、もっと1日1日を大事にしろよ!
俺の心配をよそにチェットは俺を見ると安堵した表情に変わる。
「よう、相棒!とってきたぜ!秘伝の薬!」
……へ?なんだって!?服とか全然汚れてないじゃん!もしかしてはじめから持ってたのに演出のためにわざと?だとしてもギリギリに来いよ!俺の計画が台無しだろうが!
「いや、まさかあの物置の前の洞窟に魔物が住み着いていてこれ取るのにあそこまで手こずることになるとは思ってなかったわ」
どこの洞窟?それに手こずったようには見えないけどな!
いや、そんなことはどうでもいい!
この状況と一昨日の茶番を納得いくように説明しろ!
女王の表情から察するに彼女もやはり驚いていたらしくしばらく目を丸くしていたが、気を取り直してチェットに尋ねる。
「お主、予定よりだいぶ早いが……」
やはり現実的に不可能な距離だったのか……。本当に謎だ。俺にははじめから持っていたとしか考えられないんだが……。
「……まぁ、なんでもかまわぬ。お主の処刑はかわらん。今日より9日後に広場で火炙りじゃ!ホーホッホ!」
いや、聞かねぇーのかよ!だいぶ驚いていたじゃん!
それに気を取り直すの早すぎだろ!驚きから笑いって!
こっちの作戦は完全に失敗だな……。こっちの仕込みはまったくできてないし……。チェット、お前も助けたかったのに……。残念だ……。
女王の大笑いを聞いたチェットはこっちを見てにっこり笑う。
「良かった。相棒は無事か……」
無事の定義によるが一応な……。
「取りに行ってる間相棒が牢屋で臭い飯食ってるかと思うと急がなくちゃなってその思いがあったから俺は冷静になれた」
臭い以前に何も食ってない。というかなんであせる気持ちが逆に冷静になれるんだよ。
「その思いがあったから冷静になって一度行ったことがある街や城に一瞬で行ける魔法を使えることを思い出せた」
……そんな魔法があったのね。
「相棒がいなかったら、今頃まだ走っていることだろう。今頃まだ臭い飯を食べさせられていることだろう。相棒が身代わりになってくれたから……、いや、身代わりが相棒だったから……」
何でそこまで信頼されているのかは知らんけど……、なんかありがとうな。
「これからも頑張れよ!相棒!」
……もう何も言えねぇ。
チェットがこの言葉を言い終えたあとすすり泣きする声が聞こえだした。なんとあの女王が泣いている。感情の変化が激しいな!
でもこの感じ、もしかして、うまくいったのか!チェットの情にうったえる作戦が!
確かに俺はかの名作にとらわれて大事なことを見落としていたのかもしれない。あれが有効だったのは一例に過ぎない。方法にこだわらず本質を見極めろということか?まあ、俺は助かっていたんだが…
「うむ、お主らの絆、妾は感動したぞ!処刑する前に一度この者たちと話がしたい。それ以外のものは一度この部屋から出てくれぬか?」
と女王は涙ながらに言うと、ウェットンとサボッチャは部屋を出ていった。
……ああ、それでもやっぱり処刑は取り消さないんだ。
何もやってねぇや……。
人払いが済むと今度は女王が急に笑いだす。
「ホーホッホ!な~んて嘘じゃ!人間の調子に乗った人情ごっこなんて吐き気がするわ!処刑なんぞつまらん。今この場で妾直々にひねり潰してくれるわ!」
なんだなんだ、今度は何だ!?こいつは名女優か!
などとのんきなことを思っていたが、女王は全身に力をこめると体がみるみるうちに変化していく。肌は紫になり、手の爪が伸び、1回り……、いや3回りくらい大きく、そして。筋肉質になった。女王だった面影はなく、ただの魔物がそこにいた。
こういうオチだったのね。でもなんか俺が必死に暴いたとかじゃなく、俺からすれば勝手に正体ばらしたって感じだからかいまいち乗り切れない……。
「お前、魔物だったのか!この国は魔物に支配されていたのか!人の命を軽んじるやつだとは思っていたがこの国の人々に対してもそういうことをしていたのか?許せない!この国の人々に代わって俺がお前を成敗してやる!」
チェットはそう叫ぶと剣を抜き、戦闘態勢に入る。よくもまあ、ボルテージがすぐにハイになれるよな……。
……悪いな、チェット。この展開にツッコミを入れる元気はかろうじてあるが戦う元気はない。長引くと辛いんだわ……。意気込んでるところ悪いけど、お前がこの国の人々に代わって成敗しようとしているあいつをお前に代わって俺が成敗します。
最後の力を振り絞って俺は魔物との間合いを一瞬でつめ、思いっきり蹴っ飛ばしてやった。そのまま魔物は吹っ飛び壁にぶつかってそのまま倒れた。まだかろうじて息はあるようだがもう起き上がることは無理そうだ。
ここまでの恨みはなかったが……、雑魚が!
「やったな、相棒!この国の諸悪の根源を俺たちで倒したぜ!」
俺たちってお前何も……。まあいいわ。
「これでこの国ももっといい方に向かっていくだろう……」
お前はこの国のなんなんだ?勝手にまとめんな!
まあでも、これでこの国の人々も魔物に操られたことに気づき、こいつの処刑も取り消されることになるだろう。
長かったが、これで終わりだ。あー、早く飯食いてー。
慌ただしく王座の間の扉が開く。
「なんださっきの音は!何があった!」
ウェットンが大きな声を上げて部屋に入ってきた。
さっきの音っていうのは魔物がふっ飛んで壁にぶつかった時の音だろう。
あとは倒れている魔物の姿を見てうまいこと話が進めば……。
「何だこれは!」
ウェットンが女王だった魔物の方に走り出す。そして、止まって、しゃがむ。
「女王様、どうされました!まさかこの者らに……」
……ん!?見るとあのいかつい魔物の姿から女王の姿に戻っている……。いつの間に!
「ぐは!あやつらにやられた……。まさかこの妾を、一国の王にこんな……、あのー……、なんか強い攻撃をしてくるとは……」
え?見えてなかったの?
「あやつらの末代まで……、呪ってやる……」
それだけ言い残すと女王は光に包まれて消えた。
やられた!普通に女王倒したみたいになっちまった。これじゃ本当にただの犯罪者じゃねぇか!なんで女王の姿に戻った!?というか戻れた!?いや、理由なんてどうでもいい!なんにしてもピンチ!魔物の手から国を救った英雄になるはずがただの王殺しになっちまった。
だが、魔物の今際の言葉の信憑性のなさならもしかしたら真実に気づいてもらえる?
「貴様ら!よくも!」
ウェットンが怒鳴り声を上げて剣を抜き、チェットに襲い掛かる!
……ダメでした。チェット、何もしてないのに剣を抜いてたばっかりに……、ドンマイ。
チェットは国に巣食う悪を成敗した気でいたので自体が飲み込めていなくウェットンの狂気に反応が遅れた。
……斬られる!と思ったがその剣を受け止めた人物がいた。サボッチャだった。
「落ち着いてください、団長!」
「なんの真似だ!アイットバス!」
なんでサボッチャが身を挺して守ったのかは知らん、……が頼む!サボッチャ!
ここで俺がウェットンを倒したり、この場から逃げたりしたら多分街にはいられないだろうし、いれても試練を受けられないだろう。そうなったら目的が全てパーだ!ここで誤解は解いておかなくてはならない。しかし、俺にはそれができない。
それからウェットンがチェットを斬ろうとしてサボッチャが防ぐ……。
それが続く。
いや、それよりもチェットはいつまでそこに立ってるんだ!?馬鹿なの!?サボッチャが庇ってくれている間に早く離れろ!
「これは何かおかしいと思いませんか!」
サボッチャは激しい戦いの中でウェットンに訴えかける。
「何かとはなんだ!?罪人をかばうほどの理由があるのか!?」
「この現場を見て少なくとも何か違和感を感じます!」
「おふたりは普段どのくらい剣の稽古をやってるんですかね?」
チェットは何を頓珍漢なことを口走る。まあ、確かにすごい。サボッチャがしゃべっていたときはアホ以外の何者でもない印象だったが……、なるほどこれが近衛兵団か……。今度からは入団テストに性格診断、少なくても面接は入れたほうがいいな。
二人は一瞬だけ眉をひそめてチェットの方を見たがまた向き直ってサボッチャは言う。
「でも、何かおかしいです…」
「理由になってはないではないか!意味もなく罪人をかばえばお前もタダでは済まないぞ!」
ウェットンの言うことは最もだがあの女王の変貌の一部始終を見てなくても現場を見ればおかしな点は多々ある。
まず女王が処刑するといった相手と話しをするために人払いをした点。処刑しようとしている人とふたりっきりになるか?俺もいたが俺はチェットサイドだ。攻撃される可能性は十分にあるのに……。
そして、俺は手錠をしていたがチェットにいたっては武器を持たせていた点。向こうは処刑しようとしているのだ、攻撃してくださいと言ってるようなもんだ!
さらに、吹っ飛んでぶつかった壁の傷跡が大きすぎる点。ぶつかった時についた傷が普通の女性の体型がぶつかったにしては大きすぎる!壁の傷の周りにほかに不自然に落ちているものはない。
そしてなにより女王が光に包まれて消えた点!仮にこの世界では人間が死ぬときも光に包まれて消えるとしたらバンジャローが自殺したとき舌を噛み切ったのを看守が最後まで見ていたということになる。死なれてもいいならはじめから牢屋になんか入れない。よって看守が見つけたときはもう手遅れだったと考えるのが妥当だ。
落ち着け、サボッチャ!たくさんあるぞ!
激しい攻防の最中、サボッチャはパッと表情が変わる。間違いなく何かに気がついた顔だ!そして、チェットを見る。
「すまないね、さっきはうまく聞き取れなくてさ。ええと、俺は暇さえあれば剣を振ってるぜ!」
どこに気を使ってんだ!答えなくていいわ!お前自身もそういう状況じゃねぇだろ!
もう一度言うぞ!
落ち着け、サボッチャ!たくさんあるぞ!




