表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/275

勇者の証4

 投獄生活1日目……。

 寝床は悪いし、臭いし、ジメジメする。文明レベルはそんなに高くないのにこの異世界にきて屋内にいることが多いように思う。何だこの世界……。


 鉄格子越しに一人の男がだらしない態度で立っていた。

「昨日左遷をくらってついてねぇと思ってたけど意外と面白いものがあったな!なあ!バフモッティさんよお!」

 昨日俺を追いかけてきた近衛兵団の一人のサボッチャだった。こいつ、朝からテンション高いな。というかお前左遷されたの!?あくびしたり鼻ほじったりしてる見てたからなんとなく理由はわかるけども……。


「バフモッティ、聞いてくれよ。確かに近衛兵団に配属されてた時は任務と関係ないことも度々やって迷惑かけちまったこともあったよ。でも昨日あのチェットとかいう男の相棒、つまりお前を一番、最初に見つけたら今までのことは帳消しにしてやるって言うから必死に頑張って一番に見つけたってのに結局取り逃がしたからって結局、左遷になっちまったんだ。逃げられたのは俺のせいじゃないじゃんか!それで俺の功績をチャラってどうなの?どう思う?おかしいと思うだろ、バフモッティ?」

 知るか!うるせぇよ!俺に愚痴るなよ!というか馴れ馴れしいし!確かにお前だけ目が必死だったけどな。

「おかしいと思うだろ、バフモッティ?」

 サボッチャは切実な目でこっちを見ている……。それ念押さなきゃいけないほど大事なことか?面倒くさいからからとりあえず合わせておくか。

『はい』

 そもそもお前はそんなこと言うために俺の牢屋の前にいたわけではあるまい。

 本題入れよ!


「なっ!だろ!やっぱりおかしいよな。上のやつらの意味不明さときたらなんなのって感じだよ!まったく」

 お前の上の奴らのことは知らんけども……。なんでテンション上がってんだよ。


「ハァ-、クソ!近衛兵団給料よかったのになー。この仕事の3倍だぜ!囚人看守なんてやってらんねぇよ……」

 初日で給料を確認しているあたりはさすがだな!わかったよ!もういいよ!お前もおしゃべりか!

 本題入れ!


「まぁ少しすっきりしたよ。聞いてくれてありがとな」

 そう言い残すとサボッチャは爽やかな笑顔で立ち去った。


 ……マジで!それだけ!?言うことほかにあんだろ!あいつ、一体なんなの!?

 結局チェットが帰ってこないと話は進まないけどさ。用があったから俺の牢屋の前に立ってたんじゃないの?もしかしてあれが用とかじゃないよな。

 ……と思ってたら、やっぱりサボッチャは照れくさそうに笑いながら戻ってきた。

「すまんすまん。大事なこと言い忘れてた。飯の時間は決まってるからちゃんと起きないと今日みたいに朝食抜きになるぞ!」

 そう言い残すと再び軽い足取りで立ち去っていった。


 はぁ!?今日、朝食抜きなの!?それはともかく何で忘れてんだよ!やばい!イライラがピークだ!


 俺の投獄生活は最悪のスタートを切った。


 俺の扱いはとりあえず死刑囚なので労働とかはなく、自分の檻の中で一日をただダラダラとさせている。

 暇だ……。

 さて、どうしたものか……。

 おそらくチェットは来る!付き合いは短いがそういうやつだ。

 俺があの洞窟のボスに攻撃された時も思いっきり怒ってたからな。あいつは仲間思いのいいやつだ……。


 あと9日か……。

 今のままだと必ず俺かチェットのどちらかが死ぬということになっている。チェットが帰ってきたらチェットが……。帰ってこなければ、俺が……。


 だが、WIN-WINの方法が一つある。それは……。


「おい、バフモッティお前って盗賊じゃん。今まで盗ってきたお宝ってどこにあんの?やっぱりアジト?」

 急にサボッチャが戻ってきては気軽な感じで尋ねてきた。

 俺はお前の友達か?今考えごとしてるから話しかけんな!

 それにそんなの俺が聞きたいわ!本人に聞けよ!そいつが実在する人物なのかすら知らんけど!バフモッティって誰だよ!


 答える気もないし答えられないので黙って考察に戻る。

「……だんまりか。さすが友のために牢屋に入る男だ。義理堅くて口が硬い!いいね、そういうの」

とサボッチャはちょっと嬉しそうに言った。


 別にそういうわけじゃねぇよ。


「残念だけどまぁ、あと9日か。せいぜい残りの人生楽しめよ!」

それだけ言うとサボッチャはまたどこかへ行った。


 うるせぇよ!というか何しに来たんだよ!お前も暇か!

 だがあいにくお前の話し相手にはなれないぞ!俺はしゃべれないからな!


 ええと、そうそうWIN-WINの方法ね。 そう、それは……、走れメロス作戦!

 って、誰でも予想できるわ! なのになんか勿体つけたみたいになっちった。くそぅ、サボッチャめ!

 この作戦は、人の心を失った愚王を人間の絆の力で感動させ、2人ともに無罪で解き放ってもらうという策だ。


 これを成功させるにはいくつかの条件がある…。

 ①王が疑心暗鬼

 これは問題ないだろう!ちゃんと絶対に帰ってこないと思ってたし、なにより人を信じるとか人として大事なことが分かってなかった。


 次に②チェットがボロボロになった服、もしくは裸で期限日の日没ギリギリで帰ってくる。

 ……これは少し心配だな。あいつのことだから必死過ぎて服がボロボロだったり服が完全にすり切れてしまったりという点は問題ないだろう……。あいつは直情馬鹿だから今もどこか走ってるに違いない。

 

 ただ刻限ギリギリっていうのが少しな……。そもそも秘伝の薬なんて実態不明のものは適当に何かで見繕って持ってくればいいんじゃないか?実際に帰る必要はない。洞窟抜けられなくて早々に帰ってきて準備してたりして……。それはないか。あいつ空気とか読めなさそうだからな……。

 

 ……いや待て、はじめからどんなに頑張っても間に合わない時間設定にする可能性もある。というか俺が逆の立場ならそうする。そ

 ……いや、あの女王はチェットが戻ってこないと信じきっている。むしろ余裕をわざと持たせてあるという可能性も……。

 こればっかりはわからないな。

 

 そして、③、これが一番大事だ。

 ②がうまくいかなくてもこれさえなんとかなれば大丈夫かもしれない。

 それは……。


「おう、バフモッティ!暇そうだな!」

 サボッチャがまたまた戻ってきた。

 暇じゃねぇよ!暇なのはお前だろ!今からが一番大事なところだよ!邪魔すんな!


「フフフ、お前が気になってる事教えてやるよ!なぜ俺の鎧がほかのやつらとは色が違うのか!」

 確かに少し気にはなってたけども……、ほかと違うのに下っ端だし……。だが別にいいわ、今は。静かにしてくれ、ほっといてくれ!


 当然そんな思いは通じず意気揚々と語りだす。

「実はな……。あれは俺が近衛兵団に入団試験を受け、そして受かったあの日から2年後……。つまりは最近なんだけどな」

 言い回しがだるいな!なんか長そう……。


 その後、ぶっちゃけどうでもいい話を小一時間伸ばしに伸ばした話を聞かされた。

 要約するとイケメン兵団長のウェットンより目立つために仕事サボって鎧を磨いていたら最後にコーティングのスプレーと間違ってカラースプレーをかけちゃったというしょうもないオチ……。それが今回左遷された一番の理由らしい。そして、それを言い残すと笑顔で去っていった。

 だからなんだ。あいつ邪魔ばかりしやがって! 


 ええっと、一番大事な③、それはずっと信じてはいるけど一度だけ疑うということ。

 これも牢屋に入る前から考えてたんだけど、大したことじゃないのになんか溜めたみたいになって恥ずかしい。あいつが来ると調子狂うな。

 これが俺にできる唯一のことで俺が確実にやっておかなくてはならないこと。 しかし、どうしたものか。これを証明するのは難しいな。


 疑うタイミングはやっぱり処刑される直前か、何もできなくて不安や焦りがつのり疑心暗鬼になる中盤か……。②を考慮するとやはり中盤あたりに一度疑ってから腹をくくるというパターンでいくのがベストか……。

 だがそれよりもどうやって信じているということを伝えるかだ。ただ黙っていたんじゃ信じている感じが周りに伝わらないから感動が起こりにくいだろう。でも、たとえしゃべれても声に出して「俺はあいつを信じてる」って言うのも頭おかしくなったと思われる。信じているなら黙ってドンと構えてろってなるもんな。これじゃ逆に信じてない。そう言う意味で祈りのポーズとかも逆効果になりそうだし……。


 俺にできるのはやっぱり質問されて答えるってことぐらいか……。これなら最後に俺から一発殴ってくれと言えなくてもあいつ一度お前が来ること疑ってたぞって周りに言われればあの大事なシーンを再現できる!


 問題は俺に信じているか否かを質問してくれる奴がいるかどうか。この世界に来てだいたいこちらの知りたい情報や聞きたい言葉は無視されてきたからな。そうなると、サボッチャ……はもういいわ。あいつ自分の言いたいことしか話さないからな。というか何であいつしか来ないんだよ。誰か違う人来ないかな……。


 と考えているところにまたしてもサボッチャが来た。

「あのさ、一番聞きたかったことを忘れてた」

 俺も一番聞きたいことがある。なんでお前しか来ないんだ!?今日初日だろ、ここの仕事!それにどうせこっちの言ってほしいことは言わないで大して興味もないことばかり話すんだろ!


「お前、あいつが戻ってくるとほんとに思っているのか?」

 ……。一瞬時間が止まったかと思った。

 思い返せばこいつ、『はい』か『いいえ』で答えられる質問しかしてないな。言いたいことが伝わるっていいもんだな。もしかしたらこの世界でお前が一番好きかも…。


 タイミングが問題だが、今はまだ疑わなくていい。今は信じておくターンだ。

『はい』

 あとはその質問を定期的にしてくれ!


「……俺の聞き間違いかな?本当にあいつ戻ってくると思っているの?」


 ……お前は疑ってるのね。普通の人はこの状況で帰ってきたりしないだろう。その反応が一番自然だ。そして、好都合だ。疑っててくれた方が

今後も定期的にその質問をするだろう。


 こちらは最高の環境が整った!あとはお前次第だぞ、チェット!


「もう一度聞くぞ!お前はあいつが戻ってこなくないこともないこともなくはないような気がしなくもないとは言えなくもないってわけじゃなくもないと思っているのか!?」

 サボッチャはそう言うとまさかのドヤ顔!


 『はい』か『いいえ』で答えられるけども、仮に『はい』って答えると信じてることになるのか疑っていることになるのかわかって言ってる?

 やっぱりお前のこと嫌いだわ。この世界で一番タチが悪いわ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ