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敵よりもミカタがやっかい!  作者: 気分屋
プロローグ
1/275

はじまり

「……あっ、起きました?」


 聞き覚えのない声が聞こえて俺はゆっくりと目を開く。そこは何もない真っ白な空間だった。全体が真っ白すぎて床と壁と天井の境界がわからないレベルで真っ白だ。こんな生活感の欠片もない場所を俺が知っているわけがない。そもそもここはいったい誰が何の目的で作られたなんだ?防音とかでもなさそうだしびっくりアート展とか目の錯覚を使ったアトラクションとかだとしたらセンスがなさすぎる。技術はすごいけどな!


 ここはいったいどこなんだ?何も思い出せない。ここにいる理由もそうだがそもそも俺は誰だ?名前は?過去に何があった?いろんなことを認識し考える力があるから記憶がないといってもすべてを忘れてしまったわけではないようだ。おそらく一時的な記憶喪失……、それも自分に関すること。でなければ俺の鼻をくすぐるこの甘い香りがプリンのカラメルソースであることや足元に転がっている空になったプラスチック容器がプリンのものだということには……。なぜプリンがここに?場違い感が半端ない。


「あっ、起きました?」


 全く状況が飲み込めない。ここはどこだ?さっきまで何してた?そして、このプリンはなんだ!?何で生活感のないこの空間に生活感溢れるプリンのゴミが転がっているんだ?何がどうなったらこんな状況に!?

 考えがまとまらない。


「あっ、起きました?」


 さっきから後ろから声が聞こえている。その声はどう聞いても女の子の声だ。だけど、いや、だからこそたぶん振り返ったら余計に困惑する。まずは事態の整理だと思っていたが一人で考えても仕方ない。思い切って後ろを振り返るとそこには小さくて可愛い女の子がいた。しかも、ただいたのではなく宙に浮いていた。よく見ると背中から生えたトンボみたいな羽で飛んでいる。

 ……妖精?ファンタジーの世界でしか知らないから確かのことはわからないが妖精に違いない。これではっきりした。ここは現実ではない。こんなに自我がはっきりしていて夢ってことはないだろう。ということは考えられるのは一つだ。VR、バーチャルリアリティーってやつだな。噂でしか聞いたことないけど技術の進歩ってすごいんだな!


「あっ、起きました?」


 さっきから馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉を連呼していたのもプログラム上の問題ということか。まあそうとわかれば話は終わりだ。VRならでかいゴーグルを付けているはずだからそれを外せば終わりだ。誰がやったのか知らんが悪質な嫌がらせだな。寝起きドッキリは失敗に終わっ……、あれ?何もついていない?何度も目や耳を触っても何もない……。これはVRじゃない?


「あっ、起きました?」


 うるせぇ!

 これがVRじゃないならなんでこいつは同じことばっかり言ってんだ?脳みそが小さすぎて記憶できるボキャブラリーも少ないのか。残念なやつだな。というか何でずっと後ろから声かけてんだ?はじめから視界に入れよ。その羽は上下動しかできないのか!

 いや、待て。落ち着くんだ、俺。まずは情報の整理だ。こうなったらこの珍生物と会話するしかない。話になれば……だがな。 


まずは丁寧に。

「あっ、起きました?」

「……はい、起きましたよ。ところでここはどこであなたは一体な――」

 俺が言っている途中にもかかわらず、

「そうですか、よかったよかった。それでは私のことと……、あと……、えーと……、なんか……その……必要な諸々について?簡単に説明させていただきますね」

 被せてきた。何だこいつ!

「言いたいことないなら俺に最後まで言わせろ!」

 結構声を張ったつもりだったが、まるで聞こえてないようだ。話をする前からこいつの頭が悪いことはなんとなく気づいていたが、どうやら耳も悪いらしい。失礼な奴だ。


 やつは何食わぬ顔で続ける。

「私の名はファノラ。俗に言う妖精です。あなたをこの世界に呼び出したのは私なんですよ~。王の要請でね! 妖精だけに!」

とまさかのドヤ顔、そしてダブルピース!「可愛い」という第一印象は早くも消え去り代わりにある負の感情が芽生えた。

「うるせぇよ!というかこの世界に呼び出したってどういう――」

 丁寧にという心構えは早速消えた。しかし、当然のように俺の発言に対して一瞬も気に止めない。


「あっ、なぜあなたを呼び出したかというとですね、話が長くなるのでよくテストに出るところだけかい摘んでお話します」

「なんのテストだよ!そして、なぜの前にこの世界ってどういう意味なのか――」

「今いるところはあなたがいた世界とこれから行く世界との間にあるなんでもない中間層です。……この辺は特に気にするところではないですし特に気にかかるところはないですね」

「あるよ!まず最初から意味がわから――」


「これから行く世界は、妖精と魔物が世界の覇権を争っている世界です。魔物とは、様々な世界の様々な生き物の負の感情が具現化した存在だと言われています。そして、どこからともなく現れ、世界を乗っ取ろうとするのです。それを阻止すべく我々は立ち上がったのですが妖精には力がないので私たちに代わり人間が魔物と戦っています」

「それは人間と魔物が戦っている世界なんじゃないの!?」


「ちなみにあなたがいた世界も妖精と魔物の戦いの場だったらしいですよ。まあ、あなたがいた世界の場合、妖精サイドが魔物の存在に気づくのが遅かったため、すでにティラノサウルスとか言った魔物たちが力をつけてしまっていて……。新しく人間を召喚しても歯が立たなかったのです。ですが当時の妖精王が機転を利かせて異世界から隕石を召喚しなんとか勝つことができました」

「勝ち方!?それがありならそれ使えよ!というかあなたがいた世界ってどういう――」


「話がそれました。これから行く世界が戦いの場になったのはだいぶ前ですが、その世界にもともといた人間の活躍で十分に善戦していたのです。しかし、数年前に魔王ケケケと名乗る強大な魔物が現れてから一気に均衡が破られてしまいました。魔物サイドがこの世界の覇権を握るようなことがあればその先にあるのは破滅……。その余波はこの世界だけでなくほかの世界まで広がります。そうあなたがいた世界にも悪影響を与える。しかし、奴の力は強大で我々の持つ力だけではとても対抗できない。そこで、『こいつを討伐するためには異世界から優秀な戦士を召喚するしかない』ということになったわけです」

「いや、なったわけですじゃねーよ。それで俺がここにいるんだろ?そもそも何で事後承諾なんだよ!」


「私が代表して様々な世界で戦士の素質がある人間を探し回り特別強い陽性反応があったあなたを見つけ召喚させていただいたわけです。妖精だけにね!」

 ……何をニタニタしてやがる。……疲れてきた。事後承諾ですらないし強制召喚じゃん……。それ出俺の言い分は無視なのね。


「要するに、我々はあなたに魔王ケケケを討伐していただきたいのです」

「それはだいぶ前から知ってたよ!」

「やはりというかさすがというか私の眼力に狂いはなかった。あなたの戦士としての潜在能力は最高級だったというのもありますがなんとステータスが最初から全てMAXになっております。すべてというのは体力、魔法力、物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さのことです。さらに、あなたには特殊能力があって左目だけで人や魔物を見るとその対象のステータスを数値として見ることができます。つまり、敵や味方の能力を見てどういう戦略でいくか考えるなんてことができます。こんなチートみたいな能力っフェ、アリー!? ……なんちって」

「なんちって、じゃねぇ!」

 かなりうざい!! 喜々として語っているその顔のせいもあって何倍も!


 今までの話を簡単にまとめると俺が強いからゲームのような世界に連れて来られたということか。面倒なことになったもんだ。となると魔王を倒せば元の世界に帰れるのだろうか。というか倒さないと帰してくれなさそう…。まあでも最初から能力がチートときているならゲームとしてはつまらないがどう転んでもすぐ帰れるだろう。


 ……帰る?どこに?そもそも俺には記憶がない。俺の過去に何が?こいつは何か知っているのか?


「引き受けてくれますか?」

 これだけ面白いこと言えば大丈夫だろう……そんな顔してやがる。言っておくが全然ウケてないからな……。


 ここまで勝手な奴だ。どうせやらないとここから先に進まないんだろ?だけどな!

「断る!いきなりわけもわからず連れて来られてはいはいとわけのわからんことを聞けるか!」

「ありがとうございます。うまくいく(よう、精)一杯祈ってます。妖精だけに!!」

「何でありがとうございます。やらないよ、俺は!そんなことより俺、記憶がないんだけど何か知ら――」

「あーとーはー、あっ、すみません、まだ説明してないことが……。元いた世界への帰還方法はまだ言ってませんでしたよね」

「聞けって!というかそれって魔王を倒すことじゃないの!やらないから関係ないけど」

 とっさに口をついて出たがこれはツッコんだんじゃない。確認しただけ。セーフ。

「全世界でも妖精王しか異空間を移動させる力を持っておりません。私があなたを召喚した力も妖精王の力をお借りしておこなったものでして……。帰還したければ妖精王にお願いしてください。ですが、世界に認められた勇者しか持っていない勇者の証を持つもの、もしくはその勇者と苦楽を共にした仲間しか謁見を許されておりません」

「何だそりゃ魔王討伐のためにつれてこられたのに魔王倒さなくてもいいのかよ!」

 戦わなくていいならそれでいいわ。面倒くさいし。

「つまり、勇者の証が謁見するためのチケットであり、そのぐらいの格を有しているのがエチケット……。 ……なんちって」

「ペッ」

……唾が出た。こいつ本当に言いたいことだけを言ってくるな。


「まぁーでも、現在妖精王は魔王に捕まっていますので魔王を倒して助け出していただかないことにはなんとも……」

「結局魔王は倒すんかい」

 ……すごく負けた気分だ。


「まあ頑張ってくださいね。あと一つぐらいなにか大事なことを忘れている気がするのですが……」

 なにか必死に考えてる。

 気がするってレベルじゃなく俺は何度も訴えているはずなんですが!


「だから、それは俺の記憶の話だろ?召喚の後遺症とか?なんか心当たりはないの?」

と言ってプリンカップを手にとった。それにしてもこれは覚えてんだけどなんでかな……。見て一瞬で思い出したのかどうなのかすらわからない。

 俺がプリンカップを手に取った瞬間、ファノラは急に慌てだした。

「すみません、すみません!! それ食べたの私でした。あなたを召喚したときに、一緒に召喚されまして……。……その、……最後の一口ぐらいは……残そうと思ったのですが……美味しかったもので……、つい……。すみませんでした」


 薄々そう思ってたよ。話してるとき口からプリンの残り香がしてたからな。というか食べるのが一口なんじゃないの?残すのが一口なの?

 いや、この際それはどうでもいい。特別プリンが好物ってこともないしな。だがこれだけは言わせろ!

「俺の質問に答えろ!」

「フー、あとひとつはこれか-。スッキリスッキリ。それではこれから妖精と魔物がいる世界、人呼んでラランデューイデュン。そちらに移動します」

「えっ、俺行かないって言ったよね!」

 という発言むなしく体の周りが急に光りだした。ワープでもするのだろう、こういう移動方法はなんかファンタジーっぽい。

 ……なるほどね。断られることを想定してこんな話の聞かない奴を案内人にしたわけか……。


「残念ですが、私とはここでお別れです。人間は基本的に妖精を見ることはできません。ですが、妖精が見えるスポットがその世界にはあります。人に聞けばすぐわかると思います。私はこれでも高位の妖精なので妖精に聞けばまたお会いできますよ」

 たぶん、わからないことだらけだけどお前には聞かない。

「これであなたを養成する仕事はおしまいです。妖精だけに!」

 もういい、自力で何とかしろということか。最後まで話の合わないやつだったな。

 


「次見かけたら声かけてくださいね。これからの活躍を期待しています。それでは!」

 ファノラが手を振っている。


 どうにもならない現実を前に適当に手を振り返す。まあ、口では散々嫌だと言ったが冒険に興味がないわけではない。魔物がいてもステータスが最強なら危険もないだろうし。


 ここまで来たらしょうがない。割り切って頑張りますか。理由も根拠もないけど言ってやった。

「任せとけ!」

 言った直後光が強くなった。


 別れ際、急にファノラは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「あ、大事なこと言い忘れてました。なんであまり質問してこないのかなと思っていたら、あなた、『はい』と『いいえ』以外話せないんでした……」

「……」

 それを一番最初に言えよ……。


2017/09/18 改稿

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