応報
今度は眩い朝日で目が覚める。とりあえず身体を起こして欠伸を1つ。次に前足を地面に引っ掻けて伸びをする。これがまた気持ち良い。思わず尻尾もピーンと立ってしまう。
「え?」
そこで違和感を感じて冷静に、あくまでも冷静に現状を確認する。
まず、今俺が居るのは拓けた場所にある池の畔。周りは森で、池の水面に映る自分の姿は猫である。しかしただの猫ではない。なんと、背中から半透明の二対の羽が生えているのだ。頭に近い方の羽が大きく尻尾に近い方の羽が小さい、まるで妖精の様な羽が。
そして驚くべき事に自分が何者なのかを理解している。そう、俺は精霊猫という種族で属性は土と木である。つまり、来世設定システムで設定した姿その物なのだ。
「まさか来世の自分への嫌がらせが俺に回ってくるとは……」
俗に言う因果応報というものである。だが、俺は思った程混乱も落胆もしていない。一度死んだのは分かっているし、この精霊猫を設定したのも俺だからだろうか。まぁ一重に俺の前向き思考のお陰であろう。
精霊種は、空気中に存在する魔力を糧として生きている。というか身体が魔力で構成されていたりする。ただし、精霊猫は例外で精霊に近い存在の猫なのだ。要するに、精霊みたいに感覚で魔法を使える猫である。だから、他の精霊種が活動に魔力を消費するのと違って消費する魔力は背中の羽部分のみ。だが精霊の様に魔力さえあれば死なない身体でも無い。ゲーム風に言うと、一秒辺りの消費魔力が0に近い代わりに他の精霊種なら皆持っている〔物理攻撃無効〕のパッシブスキルが無いのだ。あくまでも精霊っぽい猫なのだから寿命があるのだが、そこは〈不老〉の効果で帳消しされている。だが仮にも精霊種の一端なのでお喋り可能だ。そして保有魔力が多い。更に精霊種は時間を掛けて己の魔力を増やす事が出来る。人間達は魔力を限界まで消費するか成長と共に増やすしか手段が無いのだから、時間さえあれば無限に魔力が増えていく精霊種はチート種族と言って良いだろう。まぁその代わり個体数が少ないし物理的な攻撃は不可能なので魔法が効かないとただ喋るだけの魔力の塊になってしまうが。それに人間の一部は精霊を捕まえて武器にしたりするらしい。相当なハイリスクハイリターン種族である。
とりあえず魔法を使ってみよう。なんとなくで魔法が使えるという事は今の俺にも魔法は使えるという事だ。
手始めに目の前の地面を隆起させてみる。すると極少量の魔力が消費されて目の前の地面が想像通りに盛り上がった。
「予想以上に簡単だ……」
立て続けに埴輪、城、ゴーレムを造ってみる。三ヶ所の地面がもぞもぞ動きだすと、埴輪、城、ゴーレムが地面から生えてくる。俺の想像の半端じゃないクオリティがそのまま反映された3つは最早芸術の域だ。
「次は木だな……」
とりあえずちっちゃい木を生やしてみる。にょきっと双葉が顔を出し、一瞬で手のひらサイズの癖に神秘的な木が出来上がった。なんか小人の世界の大木といった感じだ。
それから魔力が切れる寸前まで検証を繰り返した結果、次の事が判明した。
・土属性は魔法が完成するまでに時間が掛かるが、木属性は一瞬で大木を出現させる事が可能。
・木属性魔法で生えた木は土属性魔法で造った埴輪と違って消す事が出来ない。
・木属性は土属性と比べて消費する魔力が多い。
・戦闘において、土属性は守りに秀でて木属性は攻撃に向いている。
・どちらも無から土や木を創りだす事が可能だが、既存の土や木を操るのと比べて消費する魔力が多い。
結果、俺はあまり対人戦闘向きでは無い事が判明した。どちらかというと城攻めや対巨大生物との戦闘の方が向いているのだ。圧倒的な大きさで潰すか圧倒的な固さ、重量で潰すかの2択が土属性、木属性の強みである。
そんな事よりも、俺は街に向かう事にする。だが精霊猫一匹を街に入れてくれるかどうか不安なので、傀儡君α(今命名)に連れていって貰おうと思う。
少し休憩して魔力を回復させた後、とりあえず硬さを重視した骨組みを出現させる。材質は鉄。そしてこのままでは人じゃないのが丸分かりなので、土で人に見えるように骨組みを覆う。その外側を戦闘を考慮して鉄の鎧で覆い、木の蔓で編んだコートを着せて中身が見えない様にカモフラージュ。これで、今思い付いた傀儡君αは完成な訳だが、やっぱり精霊種はチート種族だと言う事が分かった。人間ならこんな事は出来ないだろう。そしてする必要も無いだろう。
土属性や木属性は土や木を操れるのだが、それは自分が無から創り出した土や木も例外ではない。つまり、この傀儡君αは俺の思い通りに動くのだ。そして、傀儡君αのコートの内側に作ったポケットに俺が入れば“猫を連れた冒険者”が出来上がるのだ。因みに、俺の大きさは後ろ足で立って30cmちょっとという大きさなので邪魔になる事は無い。
斯くして、コートの内側から茶色の猫が顔を出す鎧の冒険者は未踏の森を旅立った。




