【Code1 イーグル】03
A.B.Cクラスには、一年次の最後のバトル、クラス決めで上位の成績を納めた者が集まるクラスであるからして、先程までは気にならなかったものの、一年の時から名を挙げていた者や知っている連中が多い事に今更気づいた。こう言った光景を見ていると、嫌でも自分が上位のクラスに進級したと思い知らされるようで、無性に心拍数が上がるのが分かる。
「おっす、顔色悪いぞ【イーグル】」
そんな時に、遠慮や配慮と言った言葉はお前の辞書には無いのかと疑いたくなるような言動が多い男が話しかけてきた。身体つきが他の一般男子生とに比べて一回りくらい頑丈に出来ていて、見ていてそこ筋肉の一割でいいから俺にくれと言いたくなる程質のいい筋肉質な身体だ。シートヘアーで青色に逆立っている髪は、スポーツをするのに最適な長さに整えられている。
今話しかけてきた男、こいつは俺のチーム【イーグルズ】に所属しているの【ファルコン】。そして何を隠そう、こいつの名前は尾崎良平。そう、先程の訳のわからない言動を発していたあの尾崎だ。
「お前位だよ、上位クラスに入ってもそんなに騒いでいられるのは」
周りで話している連中も、外見では楽しそうにしてはいるが、中ではバリバリに緊張しているが故にこうして話でもしていないと落ち着かない、という雰囲気が滲み出ている。何故そんな事が分かるのか。それは俺も全く同じ状況に陥っているからだ。
だが、そんな事はお構いなしと何時もと何ら変わらない口調、態度で話しかけてくるこの男は一体どんな肝を持っているのやら。少なくとも、このクラスにこの男以上の肝を持っているやつはいないであろう。
「そーかー?このクラスにはいねぇけど、【聖剣騎士団】の奴等は緊張とかしてねぇんじゃね?」
「おまっ、それは比べる対象が違いすぎだろ!?」
「そっかなぁ?同じ人間だと思うけど」
「はぁー、ったく」
良平が口にした【聖剣騎士団】とは、この学年いや、この学園で最も強いチームと言われている団体だ。俺らと同じ二年だけで編成されているチームで、結成以来一度も負けなし、それどころか、一つ上の上級生のチームにも圧倒的力の差で勝利を納めた化け物集団だ。連携も個々の力も目に見張る物ばかりで、一度参考にと試合観戦をしたのだが、あまりに力の差があり過ぎで参考にすらならなかった。まさに化け物集団だ。
それを、この良平という男は同じ人間だとほざきやがる。確かに、同じ人間ではあるがあまりにも違いすぎるだろ。まったく、本当に肝が座っているよ。
「まっ、そんな事はどうでもいいから、バリバリに固まったその表情をさっさとといちまえって!」
コッチがこんな事を考えているとは微塵も思っていないのだろう。緊張で強張った俺の顔を両手で摘まみながら引き伸ばしたりグルグル回したりする。
「って痛いわっ!何すんだよ、まったく」
「へへっ、ようやく崩れたせ!お前の表情!」
こいつなりに気を使ってるのはよく分かるし有難いのだが、もっと優しく出来ないものなのか?
「無理だな、うん」
「………勝手に人の心を読むな」
「相変わらず仲がいいのね、【イーグル】【ファルコン】」
馬鹿なやり取りをしている最中、一人の女が俺たちの会話遮って話しかけて来た。
【イーグルズ】のコードネームで俺たちを呼ぶところから分かると思うが、こいつも俺のチームメイトだ。
コードネーム【シルフ】、本名は東堂優香里。若干癖がかった長い金髪は、腰の辺りで綺麗になびいてる。つり目の青色の瞳には、まるで何か魅了するかなのような輝きを放ち、その手前は赤渕のメガネによって遮断されている。引くところは引き、出るところはしっかりと出ている身体つきは、まさに女そのものであろう。
まぁ、簡単に言ってしまえばかなりの美人だ。このくらいの美人な同級生は中々いない。実際にこいつが告白されたりラブレターもらったりする現場はいく度と無く目撃されているから、俺の感想は間違っていないのだろう。これで性格が良ければ完璧なんだがなぁ………。
「【イーグル】、あなた今失礼な事考えていなかった?)
「えっ!?いや、別になにも………」
何でお前らは俺の心の中の声を読めるんだよ。そんなに表に出しているかなぁ?
「それよりもファルこ………じゃなかったね、良平!さっきの発言はチームの恥だから、今後は気をつけなさい!」
「んに?さっきって一週間前のアレか?」
「そうそう!一週間前に、って違うでしょ!!」
何で乗り突っ込みしたんだ、こいつ?
「え?(ギロッ」
「ぅえっ!?いや、えーと、ごめんなさい?」
え、俺今何にも言葉発してないよね?鍵カッコついてなかったよね?………鍵カッコってなんだよ、俺。
「そもそも、一週間前にあんたが言った醜態なんで覚えているわけ無いでしょ!さっきのSHRの時のよ!」
「あー、あれの事か」
ようやく本題に入れた様子の良平と優香里を横目に、大きな溜息を一つこぼす。本当、戦闘の時はあれ程頼りになる二人なのに、いざプライベートになると一気にダメになるよな、この二人。まぁ、それがこいつらのいい所でもあるんだが。
そう思いながら、この二人がボケたとしてもスルーする勢いで授業の準備を始める。………つもりだった。
「カレーうどんのことだろ?」
(うえええええ!!!???そっちですか!!!???)
まさかの不意打ちに声には出さなかったものの、心の中で盛大に突っ込んでしまった。いきなりするー作戦は失敗したようだ。
(醜態って言っているんだから、カレーうどんじゃなくて女の子のパンツがどうとかこうとかじゃないのかよ!?ってか、こんなボケしたら本当に優香里がキレるんじゃ………)
と思いながら、顔は良平に向いたまま視線だけ優香里の方向に向けると、まるでその場だけ特殊なエフェクトが発生しているかの様に赤いオーラを身に纏った優香里が両肩をぷるぷる震わせながらな立っていた。漫画だったら確実に後ろにゴゴゴゴーという効果音が記されているだろう。
(ヤバイ、ヤバイよ良平!!早く謝れよっ、マジでっ、頼むからっ!!)
俺の心の叫びが良平に届くわけもなく、それどころかまるで目の前の鬼が見えてないかの様に平喘と優香里の前に立ち返答を待っている。
ヤバイ、ここは俺が何とかしなければ!と思った時には、優香里は言葉を発するには充分過ぎるほどの空気を肺に溜め込め、声帯による振動と舌の運動によって発せられる独特の周波数による、人類が生み出したコミニュケーション手段、言語を発せられる準備を完了していた。それとほぼ同時進行で、震える右肩による運動で拳が頭上より高い位置に持っていき静止した。
それを一早く見抜いた俺は、プランを耳栓&防御にに変更して彼女の発する言葉に耐える事にした。
(さらば、良平!!)
きっとお前は優香里による罵声と正義の鉄拳によって華麗に散って行くのだろう。だが安心してくれ、俺はその有志をこの瞳にしっかりと焼き付けて、一週間位は思い出してやるぞー!
「そう!その事よ!!」
そして彼は天国へと旅立って行った。
………。
………………。
………………………あれ?
目の前で起きている現象を理解するのに三秒。
良平は、優香里の罵声を浴びるどころか正義の鉄拳を食らう事もなく、勿論ながら天国へと誘う天使が現れる事もなく飄々とその場に立っている。
一方優香里の方は、良平に罵声を浴びせるわけでも拳を振りかざす事も無い。ただ彼女は、良平の言葉に対して肯定し、震わせた肩の運動によって持ち上げられた右手を大きく振りかざし、人差し指の先端を良平に向けただけだ。
この事実に気付くまでに二秒。
(え?その事よ?パンツじゃなくて、カレーうどん?優香里はカレーうどんの事で怒っているわけで、決して良平がみんなの前でセクハラ発言した事に関しては怒っていないと?そゆこと………?)
………。
………………。
………………………え。
「ええぇぇぇええええええ!!!???」
一連の出来事を頭に整理し、とうとう口に出して驚きを露わにしてしまったとこまで掛かった秒数、五秒。
つまり、彼女が発言してからゆうに十秒間もの間静寂が現れた事になる。
「何であそこでカレーうどんの神秘性を語らなかったの!?」
「怒った理由それっ!?」
な、なんて下らない理由で怒ってんだよ、あんたっ!?
「いや、あの場でカレーうどんの神秘性を語っても、誰も真面目に聞いてくれないと思ったから………」
「当たり前だよっ!!みんなバリバリに緊張している中で、それも上位クラスの連中がカレーうどんの神秘性を本気で聞くわけないだろっ!!」
ってか、分かってるなら最初からその話ふるなよなっ!!
「バカっ!!話さなかったら神秘性どころかカレーうどんについて何も教える事が出来ないじゃないっ!!」
「おめーは話をややこしくしないでくれっ!!頼むからさっ!!」
何で二人ともこんなに真剣になっているんだっ!?俺には全く理解出来ないんだが?
「てか、優香里っ。お前普通怒るとしたらセクハラ発言の方じゃねぇのかよ?」
こいつでも立派な女の子だ。普通に考えて、ああ言った台詞を自分のチームが、それも学年上がって初めてのクラスで初めてのSHRであんな発言をされたら嫌がるだろ。俺ですら恥ずかしくなるのに。
それどころか、彼女は頬一つ赤らめる事なくキッパリと、
「いやだって、もうそれは一種の生理現象みたいなものじゃない」
「………」
………とても理解力がある女性でした。
「そんな事よりもっ、今はカレーうどんよっ!!」
「あぁっ、そうだともっ!時代はカレーうどんだぁああっ!!」
「そんなことじゃねぇよっ!カレーうどんの時代でもねぇよっ!!」
カレーうどんの時代ってなんなんだよっ、いったいっ!!
「ってか、お前らそんなにカレーうどん好きだったのか?」
こいつらとの付き合いは割と長い方だ。何たって結成初期メンバーなのだから、一年間は一緒に過ごした事になる。それ位の付き合いだが、正直こいつらがこんなにもカレーうどんが好きなのは知らなかった。何度も食事を共にして来たが、俺の記憶が正しければこいつらがカレーうどんを食べているシーンを一度も見た事がない。実は見えない所で食べていた、と言うならば説明がつくが、その事を俺が知る術はない。まさか、カレーうどんの神秘性まで語れるほど好きだなんて知らなか………。
「「いや、別に。そこまで好きじゃないけど」」
「………」
………やべぇ、今本気でこいつら殺してぇと思った。
「てか、私は寧ろ嫌いよ。食べる度に汁が服についてイヤじゃない」
「おまっ………!?」
「ってか、カレーうどんの神秘性って………(笑)」
このアマっ!!マジで殺してやろうかっ!!??
「じゃあっ!!お前は何でカレーうどんの神秘性とか語り出そうとしたんだよっ、良平っ!!」
「いやぁ、そりゃ~ね」
そのセリフを話しつつ、優香里とアイコンタクトを取り
「「ノリでしょ!(キリッ」」
「お前らスゲーよっ、マジでっ!!」
いきなり最初のSHRでさノリでボケるとか、そのノリに乗っかるとか、もうお前らスゲーよ、ホントに。ってか、チョイスどうよ?カレーうどんって………。
「んじゃあ、あの女の子のパンツがどうとかってのもノリと?」
「いや、あらゃ本気だ!」
スゲーっ!!やっぱこいつ勇者だわっ!!!
「合法的な理由で女子のパンツを見る方法。それは、基本的にアクシデントやToLOVEる、後は『神風』と呼ばれる伝説の風が目の前の女子、しかも前を歩く人のスカートの下からまるですくい上げるかの様に吹く事を祈りながら歩くしかない。だが、残念な事に男の欲望はそれを気長に期待して大人しく待っていられるほどヤワなものじゃない。だったらどうするか。中にはラッキーすけべなんて言われている野郎もいるが、そんな神に愛されていない多数の男達はどうするべきか。行動だ。行動を起こすしか俺たちに道はない。だからと言って、下手に行動を起こしそれが女子に見つかったら即アウトだ。一人の女子に見つかればその日のうちに50人に知られ、次の日は学園中に知られ、その次の日にはご近所や市街地全体に知れ渡る。女子同士の情報網は甘く見てはいけない。どんなにラッキーすけべな野郎でも、その女子に嫌われ、避けられ、近寄りさえしなくなってしまえば、ラッキーだろうがすけべだろうが何も起きない、フラグの立たないエロゲをやっているのと同じだ。その状況だけは何としても避けなくてはならない。そして、それに怯えてしまって行動を起こさなかったら俺たちは一生パンツを拝む事が出来ない。俺たちの命(欲望)は、いついかなる時も死と隣り合わせなのだ………」
「………ってのを、SHRの時に考えていたと?」
あまりに暑く語っていたのでどのタイミングで話しかけていいのか見失い掛けたが、ようやく区切り的台詞を言い終え、俺はすかさず話の間に入り込んだ。
今俺は呆れているのか、その感情が定かでは無いが、一つだけ言える事がある。
(アホや………。勇者並みのアホや、こいつ)
何かもう、正直感動してるし、尊敬すらしてるよ。アレだけガチガチに緊張している周りの連中など気に求めず、自分の世界にのめり込めるのは、ある種の才能じゃないか。内容はアレだが。
ちょっと前に、こいつが【聖剣騎士団】を同じ人間と言っていた事を思い出した。もしかしたら、こう言った性格だからこそ、そう言った考えが出来るのかも知れない。
普通、あれだけの実力差を見せ付けられたら『戦ってみたい』と思う気持ちより恐怖が勝ってしまう。だが、そんな時もこいつは
「戦ってみてぇなぁ、どんぐらい強いんだろっ!?」
と一人はしゃいでいた気がする。
馬鹿と天才は紙一重とよく言うが、実際は紙一枚分すら間は空いていないんじゃないか。
馬鹿と天才は限りなく近く、そして混ざり合っている。だけど、周りから見るとそれは水と油で、決して混ざり合う事の無い物だと勝手に思い込んでいるのではないか。良平を見ていると、何となくそんな気持ちになってくる。