阿呆・阿房
この小説のジャンル、『恋愛』でいいのだろうか
人間が異性の相手に恋をした場合において、その異性のあらゆる嗜好を自分の脳に叩き込み、そして『相手』との会話を成立させようとする輩が居る。
そして、私の目の前にいる男はその内の『音楽』というジャンルを、個人の情報処理能力を遥かに凌駕するほどに脳に取り入れたいた。
「あのな・・・・・お前がやってるそれ、ストーカーの域だから。」
私はipodを片手に持っている友に言った。
「ほっとけ」
「いらいらすんだよ」
「なんで」
「あらゆるところで間違ってるから」
「どこらへん」
「全てにおいて」
はぁ、とため息をつく友。
「あのなぁ。恋に正解も不正解もないんだよ!」
とも曰く《いわく》「語尾に「!』を付けることによって名言のように聞こえる術」という意味不明極まりない魔法(と呼ぶのも恥ずかしい)を使ったらしいが、私にはそれを無視する権利があるということをこいつは知らなかったらしい。
残念だったな、バカ。
「神乃さんも可哀想にな・・・・・お前に惚れられるなんて」
神乃さんとは私が言った通りで、友が惚れている女性である。
容姿・性格どちらも抜群、しかし天然である。
「何が可哀想なんだよ」
「全てにおいて」
オマエナァ、と友。
「それ言えばいいと思ってないか」
「簡潔に否定できるからな。便利極まりない」
「相手からしてみれば傷付くんだよ」
「傷付けてるんだ。付かなきゃ意味がないだろう」
「・・・・・・」
こちらを可笑しく睨む友。
写真とってブログに上げたい気分だ。
さぞ訪問者数が増えるに違いない。
「まぁ、いいさ」
以外にも、さっさと次の話題に入ろうとする友。
「驚くなよ。俺は今日神乃さんに告白するのだ」
「・・・・・・・は?」
・・・・・・苦しくも純粋に驚いた。
どちらかというと、笑い話である。
「もう一度。お前、何を?」
「だから、告白だって。『好きー』から『あたしもー』まで行って『ぶっちゅー』みたいな」
「いや、だから!」
間違ってんだって。
全てじゃなかったけど。
こいつだけだったけど。
「お前の場合、『好きー』からの進展は無いと思え」
「なんという!」
「あたりまえだ」
「いや、神乃さんの天然ぶりならラブホテルぐらい容易だろう」
「・・・・・・・」
『ぐらい』ってなんだよ。
こいつ、一回死んだ方がいいかもしれない。
いっそ私が殺してやろうか。
死刑になっても私一人の犠牲で世界が平和になるなら構わない。
「何やってんのお前?野球でもすんの?」
バットを持った私を見て、不思議そうに頷く友。
「ちょっと世界を救いに」
一回言って見たかった言葉ではあるが。