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四華物語3

作者: WAIai
掲載日:2026/09/04

「ーいらっしゃ…あら」

「こんにちは」

王貴珠は酒場の女主人揚八鹿に挨拶した。

すると彼女のすぐ後ろからも、「よう」と声をかけられる。

もう一人の男主人揚延広である。

彼はふんどし姿で洗い物をしていた。

二人とも四十代。

店は盛り上がっており、陽気に歌を口ずさんだり、踊ったりと、自由だった。

貴珠は席に座ると、八鹿が聞いてくる。

「何する?」

「うーん、どうしようかな」

卓に身を伸ばすと、八鹿をちらりと見る。

「おすすめは?」

「どぶろく。それと野菜炒めと塩でつけた肉かしら」

「それ、くれ」

「はい、ただいま」

八鹿が去っていき、貴珠は片肘を卓につき、待つ。

男の格好をしているので、変な奴に絡まれることはなかった。

王家といえば、大きな任侠の集まりで、有名である。

ーたまには、外でゆっくりしないと。

色んな話が聞こえてきて、耳を澄ます。

それよりも八鹿がやって来て、どぶろくを置いていく。

どぶろくとは蒸した米、米麹、水を混ぜて発酵させた酒で、白く濁っており、粥のように米粒が残っていた。

「一人で来たの?」

「そうなんだ。大丈夫、酔わないようにするから」

「大丈夫よ。もし寝ても、うちの主人が送っていってあげるから」

「おう、任せろ」

延広が腕こぶしを作ると、貴珠は苦笑する。

ーそんなに頼りなく見えるかな?

これでも剣の特訓をしたり、体術を習得したりと、厳しい毎日の練習に耐えているのだが、見た目では分からないらしい。

「おや、ここにいい尻が」

酔っぱらった男ー三十代くらいだろうか。

それがやって来て、八鹿の尻に触る。

「きゃあ!! もう、お戯れはよして」

「げへへ。いいじゃねえか」

貴珠は曲がったことが大嫌いなので、立ち上がると、八鹿に触れている手を放させる。

「何だ、お前!!」

「ただの客だ。お前こそ、失礼だろうが」

「いいのよ、貴珠ちゃん」

「良くない。早く謝れ!!」

「謝るのはお前のほうだ。ふざけるな」

貴珠と男は火花が散ったかのように、睨み合う。

「よっしゃ、兄ちゃん。俺と勝負しようぜ」

「何の勝負だ? 飲み比べか?」

「違う。俺がどぶろくを三つ用意するから、どこの国のものか当てろ。分かったか?」

「貴珠ちゃん、やめたほうがいい」

八鹿は素早く言ってくれたが、貴珠は自分の舌に自信があった。

ー王家をなめるな。

貴珠は腹を立てると、男の要求を受け入れる。

「いいだろう。早速、やるぞ」

「貴珠ちゃん!!」

「いいから。大丈夫」

そう言うと、貴珠は手巾で目隠しされる。

「わはは。お前の負けだ、お前の!!」

男は酒臭く、大声を発してくるので、皆が集まってくる気配を感じる。

貴珠は負けてたまるかと、腹に力を込める。

「早く頼む」

「おう、いいぞ。ー主人、頼んだ」

「はい、三種類ね」

貴珠の前に、三つのお猪口が並べられる気配がする。

「よし、いいぞ。まずは一つ目だ」

八鹿の柔らかくて優しい手が、お猪口を持たせてくれる。

一口飲むと、家では飲んだことがない味だった。

粒も大きく、伸び伸びと育った場所のものに違いない。

「ーこれは、夏華のものだ。米の粒が違うし、口当たりも違う。どうだ?」

「貴珠ちゃん、正解!!」

「ち。次だ、次」

「次はこれね」

またお猪口を持たせられると、味わうように口に含む。

今度は逆にどぶろくの味が薄く、水を飲んでいるかのようだった。

米の生育環境が良くないに違いない。

「ーこれは冬華のものだ。味が全然、違う」

「また当たり!! 酔いたくない人には、ぴったりなのよ」

「ちぇ!! くそ、最後の一杯だ。飲め」

「いいだろう。ー八鹿さん」

「頑張って、貴珠ちゃん」

お猪口をもらうと、口をつける。

今度は米の味がしっかりしており、稲穂の広がる光景が浮かぶ。

もう一口飲むと、蜻蛉が飛んだり、鎌を持った人々の姿が浮かぶ。

「これは…秋華のものだ。間違いない」

「正解!! 全部、当てちゃった!! すごーい!!」

「もう目隠しは外していいな?」

「だ、駄目だ!! あと一勝負」

「駄目だ。約束は約束。ちゃんと守れ」

「くっそー!!」

がたんと、男が椅子を蹴飛ばし、暴れようとした。

貴珠は素早く目隠しを外すと、男の腕を捻りあげる。

「痛ったー!! や、やめろ!!」

「お前が暴れるからいけない。皆に謝れ」

「い、嫌だね。俺、悪いことしてねえもん!!」

「何だと」

額に青筋を立てると、貴珠は蹴りを繰り出す。

男の急所に当たり、ぴょんと跳ねる。

「これ以上、暴れるなら、外へ出ろ。俺が相手になってやる」

せっかく盛り上がっていたのに、空気を読まない人間のせいで、台なしだった。

そういう人間は、貴珠は許せなかった。

ー皆、しーんとしているし。この野郎。

どうやって料理するか考えていると、延広が洗い物をやめて、貴珠の側にやって来る。

「俺が何とかする。おう、行くぞ」

「は、はい…」

延広が怒っているのが怖いのか、男は黙った猫みたいに連れて行かれる。

貴珠はほうと息を吐くと、八鹿が「いやーん」と言って抱きついてくる。

「八鹿さん、どうしたの?」

「どうしたって、もうこの娘は!! 危ないことはしないの」

「でもあいつは八鹿さんの尻を触った。悪いことだ」

「そうなんだけど…まあ、いいか。おめでとう!! あなたの勝ちね」

周りから拍手と歓声が上がる。

皆、静かにしているのをやめ、また賑やかな雰囲気となる。

「ーあ、あなた。どうした?」

「殴っておいたから、もう来ないはずだ。全く、俺の八鹿に手を出すなんて、何て奴だ!!」

「男は去っていったのか?」

「おう。俺を怒らせると怖いことを教えてやった。ありがとうな、貴珠」

「どういたしまして。それより料理と酒が欲しいんだが」

「あら、ごめんなさい。今、お持ちするわね」

卓に戻り、椅子に座っていると、延広と八鹿が自分の仕事に戻っていく。

すると、少女がやって来て、手を差し出してくる。

「お兄ちゃん、格好良かったよ。だから、一緒に踊ろう?」

「え…? 俺が踊るのか?」

びっくりしていると、歳は十くらいだろうか。

可愛い盛りの少女が手を引いてくる。

貴珠は拒まず、皆の場所へ連れて行かれる。

「よう、兄ちゃん。格好良かったぜ」

「すげえよな。あいつ、邪魔だったし。いい勉強になったんじゃないか?」

口々に悪口を言うが、皆、貴珠に感心があるようだった。

「踊れと言っても、どんな風に踊ればいいんだ?」

「適当だよ、適当。楽しもうね」

少しずつ身体を揺らすと、皆、口笛を吹いたりしてくる。

ー本当は踊ろうと思えば、踊れるんだが…。

王家では幼い頃から色んな勉強をさせられているので、一通りは踊ることができた。

もちろん舞姫には負けるが、揺金樹ー金のなる木として、幼い頃から期待されているのだが、とりあえずここは皆の真似をして、軽く身体を揺する。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!! 手を繋いで」

「はい、手」

小さくて柔らかい手を掴むと、手を振りなから、横に移動していく。

客とぶつかりそうになると、逆方向に踊り出し、貴珠は笑い出す。

「楽しいな。どうだ?」

「お兄ちゃん、上手。すごい!!」

少女の目がきらきらと輝く。

憧れの対象となったようで、嬉しかった。

「貴珠ちゃん、できたわよ!!」

「はい。じゃあまた」

「うん!! ばいばい」

手を振ると、卓に戻り、酒を一口飲む。

貴珠自体は酒に強く、いくらでも飲めた。

兄弟や親がびっくりするくらい、がーっと飲んでしまうのだった。

「今日は少しずつ飲むか」

踊っている人達や歌っている人達は、楽しげな雰囲気だと認め、貴珠は酒をごくりと飲んだのだった。

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