8月9日(火) エメラーダ
オーロラが? 彼女くらい良い女性をブチギレさせるなんて、いっそすごいね、アルクディアも。そしてやっぱり、お前ってすごく根性悪だ。
血の匂いって、暑かったら特によく嗅ぎ取れる。あとゾンビの匂いも。両方となればもう、うんざりしちゃったよ、208号室の客がね。
あの部屋の客、最初は2人連れだったんだ。どちらも酔っていた。少なくとも、相手の女性は、男がゾンビだと気付いてなかったんだろう。彼女は、あれ、魔女だよね?
もちろんクロックは分かってて2階にアサインしたんだけど。防犯カメラを確認したら、チェックインして20分後には女は出ていってたみたいだ。
あの男に喰らわされてたの、火焔系の魔法だろうか。腐った肉が焦げる匂い、それとベトベトの血。最悪だ。ベトナムでももう少しマシだった。しかも今回は、こっちがとどめを刺さなきゃならなかったんだから……
急にシフトを代わってくれて、ありがとう。あの女の子、ライブを観に行かないとやらせてくれなさそうだったから。彼女、とても格好良かった! もう少し時間があったらお前にも紹介したかったんだけど……まあ、お前はあの手のちょっとギークっぽい女の子、興味ないもんね。ネオ・グランジっぽい音楽も。だって今でもメタリカとかプレイリストに入れてるし。
ドラムが上手いと、どれだけギターやベースが下手くそでも、何とか格好良くなるもんだよな。だからもう、あのバンドは店じまい。新しい、キース・ムーンばりに強烈なドラマーを連れてこない限り。
昔は自分の興奮を煽るために、浴びるほど酒を飲んだりしたけれど、今ではもっと効率的にハイテンションになれるものがある。昨晩もロックスター(ちょっと笑っちゃうよね、ライブハウスで出す飲み物として)を12缶くらい、すっかりご機嫌になった。でもあれは飲み過ぎると、たくさん汗を掻いちゃうのが難点だな。
彼女、ニコラシカっていう名前の子だったんだけど。最初は彼女が友達と一緒に占拠してるホールテス通りの雑居ビルの屋上で、マットレスを出してきて、俺がトランスしてずっと毛繕いしてても、可愛いって抱きついて撫でてくれたんだ。彼女もライブ後で興奮していたんだろうな。屋上は臭くなかったよ。床はちょっとじゅくじゅくしてタイルが浮いていたし、アワーグラス・リバーからの風も吹いてきていたはずなのにね。
10日目の月がいい感じでさ。俺も歌いながら、タイルの上で踊ってたんだ。そしたらニコもチャイナタウンで買ってきた赤い紙の提灯を、音楽を聴く用に使ってる古いスマートフォンに被せて、ライトを点灯させて。彼女のバンドはマッドハニーっぽい曲を弾くのに、その時はSiaの『Let's Love』なんか流してね。
思うんだけど、やっぱり彼女、あの時、死にたくなかったんだろうな。俺も根気よく、もうちょっと彼女を生かしておいても良かったんじゃないかって、今になって思うよ。確かに俺は衝動的だ。
707号室へはエッグサンドを持っていった。それを取りに行った時、ギブソンのオヤジへ言ったよ、仕事は気が向いたらって。彼もそれでいいってさ。今日は2件くらい、帰り道だったから届けてきた。
記者にはホイストが話をしたって聞いた。あいつらしい。俺も言わないで良かった。奴と同じ扱いされちゃ堪んないよ。
結局、あの集団自殺って、そういう自己啓発セミナーみたいな奴なんだろう? あいつらって元人間だから、そういうの好きなんだよな。頼むからホテルじゃなくて、教祖の家とかでやって欲しい。
前に、アビシニアンのしっぽみたいに長い尾を引く彗星が夜空に走った夜、同じようにくたばった人間達がいたのを思い出した。死んで今よりももっと良いところに行きましょうってさ! 人間の宗教はよく分からないけど、星に攫われるより、ゾンビになってこの世に残った方がまだマシな気がするな、俺は。
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