8月4日(木) エメラーダ
ベッドがへし折れた! 買い物の荷物を置いただけなのに、真ん中のところから突然縦にバキッと……お陰でマットレスまで中の低反発スポンジが割れて使い物にならなくなった! 最悪だ!!
どれもこれも、お前がいつまでも自分の部屋を片付けないから悪い。いっそシルキー達に金を払って来てもらえよ。
確かに、あそこがメチャクチャになったのは、俺にも一因があるよ。だから取り敢えず住める状態に戻るまでは、俺の部屋に来ていいって言ったんだ。なのにもう三週間もお前は、床の上で割れた皿すら片付けない。挙げ句の果ての俺のベッドを壊すなんて!
今ホームページで調べたら、マットレスの耐荷重は250ポンドって書いてあった。200ポンドもオーバーした状態で使ってたんだから、壊れるのは当然だ。ベッドだってセミダブルなんだから、男2匹の体重に耐えられる訳がない。
この調子で、俺の体もぶっ壊れそうだ……ここのところ、まともに寝返りも打てない状態で眠るせいで、体がコチコチになってる。あと単純に暑苦しい。シャワーを浴びたり、毛繕いをしたり、色々手は尽くしてみているけど。この街の夏は蒸し暑いよ。しかもヒート・アイランド現象のせいか、夜になっても蒸篭の中でじっくりホロホロにされてるような気分だ。
こんな時はデトロイトが恋しくなる。夏になったら兄弟みんな、アパートの非常階段で団子になって寝てた。夜風なんかちょっと涼しいくらいで、錆びた鉄の踊り場で身を寄せ合ってたらちょうどいい塩梅に、ぐっすり眠れたんだから。
とにかく、マットレスだけでも早く手に入れなきゃ。それまで俺は毛布を積んで寝るけど、お前はバスルームか、それとも、女の子の家にでも泊まりに行ってくれ。
女の子って言えば、ここのところ803号室の子達がすごく落ち込んでる。あの妖精歌劇団だけど、派閥争いがあったらしい。22人の団員のうち、6人が引き抜きの誘いに乗って移籍して、ホテルを出ていったんだってシャーリーが言ってた。今度会ったら慰めてやれよ。
マンハッタンがこの前のトランス騒ぎを知って、お見舞いにと銀製のゴブレットをくれた。彼女が幽霊になりたての頃、客が忘れていった物なんだと……ほんとかな? その客って、彼女が呪い殺したんじゃないだろうか。
あと、彼女はコモドールのことをすっかり恋敵認定してるから、あいつに6階へは近寄らないように言っておかなきゃ。
いや、彼も今は忙しいし、バーから出る暇もないか。
今月いっぱいやってる、ウェルカム・ドリンクのフローズン・マルガリータはあくまで客のオーダーがあったらだから、稼働率も微妙だね。こう言うところ、ほんとこのホテルはケチだと思うし、そんな中途半端なことをするくらいなら無理にスノッブにならなけりゃいいのにと思う。
今日チェックインしたうち、オーダーしてきたのは半分くらいかな。519号室にも運んだけど、あいつ、昔男の子と一緒に昼下がりから泊まり込んで、南京虫に噛まれたとか物凄い苦情を言ってきたヴァンピールだ。あの時の相手って人間だっけ、ギルレス・マーメイドだっけ。今回は人狼の、とにかく別の子だったことは確かだ。こいつらは3時間の利用でチェックアウト済み。
あと、しあさっての外壁の清掃についてもう一度、新規客と常連客共に周知するようお達し。特に714号室の巨人なんて、神経質になって物とか投げてくるかもしれない。
あいつ、そういえば、今月分の宿泊料金は一週間遅れだけど、ちゃんと払ったんだって。大した進歩だよ。
事務所の扇風機前に、アルクディアがふざけて自分の靴下とかをぶら下げたりする。今度やったら、奴の仮眠中にあの臭いものを口の中へ押し込んだあと、ダクトテープで5重くらいに巻いてやる。
$1,128.28




