1月11日(火) エメラーダ
結局35時間も事務所にいたなんて、頭がおかしいんじゃないのか。適当なところで切り上げて帰れば良かったのに。お前が真面目さを発揮するタイミングが、俺は正直よく分からない。
花火は全部拾えたと思う。落ちてた義足も返却した(右足がなくなっても、オールドファッション氏はピンピンして、女の子2人とイビキを掻いていた)部屋の壁の焼け焦げは、仕方ない、クロックに報告するしかないと思う。まさかこっちの給料からさっ引くことはないはずだ。だって相手はヴァッピーだし。
吸血鬼は馬鹿だ。あんなに部屋を滅茶苦茶にしたら、翌日荷物をまとめてルームチェンジすることになって、まず自分達が面倒じゃないんだろうか。俺だったら、一晩とはいえ、せっかく清潔なシーツをくしゃくしゃの染みだらけにして寝たいとは思わない。
当たり前だけど、荷物と客は1211号室と1212室に移して、1203号室と1204号室は使用禁止。もう12時間ぶっ通しでオゾンを焚いているけれど、鉄錆の匂いは全く取れない。
お前が部屋へオードブルのエスコートガールを運んだ時、45分も戻ってこなかったことも、そもそも本当に彼女を何事もなく送り届けたのか怪しいことも、俺は別に何とも思わない。でも、事務所のゴミ箱に女物の下着を捨てて帰るのはよせ。俺がロベルタに胡散臭そうな目で見られた。俺は女の子を殺してなんかいない。そもそもブルネットの子がERへ行ったのは貧血を起こしたからだ──あのタクシー、ちゃんと彼女を連れてったんだろうか。別にどうでも構わないけど。
確かにどんちゃん騒ぎは面白いけれど、それってわざわざ同じ種族の子を探したり、薬で脳梗塞になりやすくなるリスクを冒すほど愉快かと言われたら、そうじゃないと思う。ファックよりも、ヨセミテに行ってフリークライミングしてる方が、よっぽどアドレナリンが出る。春になったら行きたいな。
クロックもいないし、ストーブに当たっていればやっと息ができる心地だ。本当はずっと毛布にくるまっていたくても、仕方がない。旅へ出るには金が掛かる。ハバナとこの国の間に海がなかったらヒッチハイクでもするのに。
そう言えば昔、道路脇で親指を立てて、旅したことがあったな。確か、サクラメントからシアトルへ行く時だったと思う。車の持ち主が妹に会うとかで、途中ポートランド一日潰したのを覚えてる。オイスターバーでたらふく食った後、ウィラメット川の岸辺に座って、俺は歌を歌ってたから、近くで寝ていたホームレスにうるさいって怒鳴られた。飲んだくれてたお前がクアーズの空き缶を投げたら静かになったけど。
あいつが怒ったのも仕方ないことなんだろう。川からの風で少し肌寒いけど、秋晴れの日差しがぎりぎり帳消しにしてくれる、うとうとするには持ってこいの日だったんだから。街路樹のセンダンは丸い身が鈴なりになる生っていて、枝が撓むくらい。黄色い落葉が水面を埋め尽くすから、その上を歩いて対岸へ渡れそうだった。
早く旅に出たい。待ちきれない、我慢できない。ストーブの前で震えているのが、焦ったくてしょうがない。
イムホテップはフェアリーの子にケーキを投げつけられてキレてた。チェックアウト済み。ゴルフボールは届いた。連中は今夜出かけて、夜明け前に帰ってくるから、また騒ぐかも。
1105号室の客がレイト・インに変更になった。でも既に、電話が何件か掛かってきてる。本人の弁護士らしい。夜逃げすることはないだろうけど、要注意な事に変わりはない。
ブルーレディは魔女なのに、多分フランス人だから、黒い動物は嫌いらしい。猫も、人間も。俺はどちらにも当てはまってるから、ルームサービスを持っていったって相手にされないよ。そのうち、冗談抜きでカエルにされるかもしれない。
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