1月14日(金) エメラーダ
ごめんなさい。もう勝手に食べたりしないよ。
でも、そんなに怒らなくてもいいと思う。あんなページの途中に書いてあったら分からない。次から重要事項は、赤ペンで書いておくなりマーカーでアンダーラインを引いておくか何かして欲しい。
あの日は忙しくて、昼飯を買いに行く予定もなかったんだ。あんまり腹が減るから、ムラムラしてるのと頭が勘違いして、顔から髭が出るかと思った。だから食べた。
もうすぐ満月が近いから、カリカリするのも分かるけど、お前は最近、ちょっと怒りっぽ過ぎる。
俺は人間を見ても食欲が湧かないから(トランスしている時はちょっとくらい肉を飲み込んだことがあるかもしれないけれど、記憶がないし、わざとじゃないからノーカンにしてもいいだろう)でも、持って帰ったらいいんじゃないか。ここに勤める前までは、普通にそうしてただろ。
このホテルで、こんなにも死体の扱いが厳格になったのなんか、20年代に入ってからだって聞いた。昔は何も知らない人間が宿泊したら、客も従業員も平気で部屋に押し入って餌食にしてたと聞く。まるで俺たちの生まれ故郷みたいだね。デトロイトも今じゃすっかり寂れたと聞くけれど。
アルクディアなんか今でも結構、死体をつまみ食いしてるって。そう言えば今朝、仮眠室でポリポリ齧ってたの、指か何かだったのかもしれない。てっきりおつまみの骨ガムだと思ってた。
アクアは怒らないよ。底抜けにお人好しな、間抜けだったから。18歳(編註:トランス・アニマルの老化速度は人間の1/3程度と言われる)で死んで、スカーフなんか付けられなかった訳だし、ただ大事に崇め奉ってるよりも、俺が使ったら奴も喜んでると思う。
あれは高級なポケットチーフなんだ、俺が持ってる中でもかなり。今度ピット大の子と遊ぶ時もネクタイとセットで締めて行く。
彼女達とのデートにはチャコールのスーツを着るつもりだ。もうちゃんとプレスもしてある。
案の定、1105号室にミス・チェリー・コークが同泊するようになった。追加料金は支払い済み。セミダブルだけどエキストラベッドは入れてない。明け方頃、弁護士も訪ねてきたし、しばらくトラブルは続きそうだ。注意を怠るな。
919号室の吸血鬼の部屋に鉄剤のオーダー。もしかしたら医者を呼ばなきゃならない事態になるかも。多分、奴はまだ青二才で、これまでろくに生まれ変わりをさせたことがないんじゃないだろうか。今から相手をばてさせてたんじゃ、本番で殺しちまうかも。吸血鬼にとって、それって凄く不名誉なことなんだろう。こっちとしても死体が出るのは面倒だし……お前が持って帰ればいいのか。
人間って飽和脂肪酸が多そうなイメージだけど、実際食った体感としてはどうなんだ?
お前の身体だし、実際、俺と違って骨格が頑丈なんだから好きにボディメイキングすれば良いけど。身長6フィート3インチは大変だな。おまけに体重が240ポンドもあったら。ちょっと腕に力を入れたら筋肉でシャツの袖が破れるっていうのは。でも喧嘩の時にいつも力でゴリ押しなのは危ないと思う。技巧が足りない。
GAPよりはユニクロの方がマシな気がするってだけの話で、このファスト・ファッションって言うのか、昔と比べて服は安くなったけど、結局は悪かろうだ。安い服を着てると、簡単に汚しても良いって思えて、何もかも雑になるような気がする。行動とか、考え方も。それって、あまり良くない。
服が安くなる位なら食い物が値下がりすればいいのに。南の島に行ったら、うまい魚が食いたいな。あっちじゃイカの墨煮込みやロブスター、パエリアが名物らしい。勿論お前の好きな肉料理もたくさんある。
葉巻を吸って酒を飲んで、女と遊んで腹一杯飯を食う、最高の生活するを思い浮かべれば浮かべるほど、今こうして寒がっているのが腹立たしい。しかもさっき、ダウンジャケットの裾を事務所のストーブで焦がした!
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