彼が私を好きであることを知っているので、彼から告白するように仕向けた私の末路
「あのさ、くっきー」
「ん?」
「くっきーの生年月日っていつだっけ?」
「あれ、前に言わなかったっけ?五月四日だけど…でもなんで今更誕生日なんか?」
「それはね…じゃーん!これ!」
高校の最寄り駅までの帰り道。私は待っていましたと言わんばかりに、彼の歩みを止めて、スマホを眼前に突きつけた。
「うんめい……すう?」
くっきーはスマホに表示されたサイトのタイトルを読み上げると訝しみながら首を傾げる。
そんな可愛い彼の顔を今日も私は独り占めするのだ。
彼は九鬼晴翔くん。私と同じ櫻井高校二年一組のクラスメイト。
あだ名はくっきー。
そして私、有詐味司紗は、そんな彼に片想い中で、今何度目かわからないアプローチを仕掛けている。
これまで間接キス、恋バナ、突然の距離詰めと、とにかくあらゆるきっかけを作り、彼に想いを伝えようとしてきたけれど、彼はいつも笑って、あるいは表情一つ変えずに受け流すのだ。
まるで、『僕たちは、友達のままでいいよね?』と、優しく拒絶してくるみたいに。
それでも私が今日まで懲りずにアプローチを続けてこれたのは、彼の本心を知っているからだ。
現にスマホの中には裏取引で入手した音声データがある!そのデータを再生すれば、私に対する告白とも取れる彼の本心が音声としていつでも聞けるんだから!
『んー、まぁもし付き合えるなら、有詐味さんがいいなぁ。…えっ?、そりゃあもちろん…好きだよ?』
ね!これはもう脈ありありでしょ?
私の前では気のないフリをしてるくせに、男友達の前ではちゃっかり惚気ちゃったりしているのだよ!
あぁ、そういうとこがますます可愛い。好き。
だからこそ今日は絶対くっきーに、はっきりと私の好意を口にしてもらうのだ!
そして私たちの関係を恋人に進展させる!
そう決心して、私は笑顔を隣の想い人へ向けた。
「運命数ってのは、その人の運命を決めるナンバー的なやつだよ!とりあえず、この運命数って言うのが結構当たるって最近評判らしいんだよ!聞いたことない?」
「ないない!初めて聞いたよ!」
「特に相性診断に特化してるんだって!」
そんなことはない。
「へー」
本当に初めて聞いたみたいね。
それなら……いける!
「私も昨日テレビで初めて知ったんだよねー。今ふと思い出して、そう言えば私とくっきーの相性どうなのかなあ……って」
そう言ってくっきーの顔をまじまじと見つめる。
すると彼は気恥ずかしいように顔をすっと俯き気味にしたのだ。
「まあ…たしかに、気になるね」
おやおや。心なしか頬が赤くないかい?
なるほど。手応えありと見た!
「でしょ!だから生年月日を聞いたわけ!」
「なるほどね」
「あとは運命数の占いサイトに生年月日を打ち込んで…」
と彼にスマホの背面を向け、ブックマークを開き、昨日既に出した診断結果の画面を開く。
「おっ!出た出た……って……えぇぇ!?」
演技力は申し分ないはず。我ながら、結構自然な驚き方だと思う。
くっきーも相変わらず頬を赤らめたまま、食いつくように興味津々(きょうみしんしん)でこちらを見ている。
「なになに?もったいぶらずに教えてよ」
「私とくっきー相性めちゃくちゃいいんだって!!ほらっ!」
勢いよくスマホの画面をくっきーの眼前に突き出す。
ふふ、書いてあることは私とくっきーの相性をベタ褒めしてくれてる最高の文だけ!
そんな最高の文を純真無垢な表情でまじまじとサイトのページを読み進めるくっきーに頬が思わず緩んでしまう。
いかんいかんとちょうど私が緩んだ口角を引き締め直したところで、くっきーはスマホの画面からこちらに視線を移した。
「結構いいほうなんだね」
「結構などころか最高に相性いいよ!だってほら、『お互いのことを理解し合えば、どこまでも愛しあえるでしょう』…って!」
「え?……愛し合う?……そんなこと書いてたの?」
そこ読んでないんかーい!一番大事なところなのにー!
「そう!それくらい相性がいいんだって私たち」
「そ、そっか…」
そう小さく呟くとくっきーの目が泳ぎ出す。
頬はさっきより赤い。
これは確実に上手くいっている証拠ではないでしょうか!?
それよりも照れたくっきーが尊い。可愛い。ほんと、好き。あぁ、だめ。ずっと眺めていたい。
彼が目を逸らそうとした瞬間、私はさっと身を寄せて、その視界に無理矢理映り込み、彼をつかまえた。
その上で昨晩から熟成させておいたトドメの一言を、ゆっくりと囁くように繰り出す。
「私…確かにくっきーのこと、もっと理解したいかも」
「有詐味さん…」
「だって、私達今でも十分仲良いじゃん?これでもっとくっきーのこと理解したら…どこまでいけるのかなーって」
「そ、それは…」
それは?
「親友…でしょ」
は?……はあぁぁぁぁぁ!?
「私たち今でも十分仲良い」って言ったよね!?で、くっきーも肯定してくれたよね!?それって、もう現時点で親友って認めてるってことじゃん!!
じゃあさ、じゃあさ、それ以上が親友だったら、私とあなたはいつ恋人に昇格できるの!?
それに親友枠は既に埋まってるの!
だからくっきーには恋人枠になってほしい!!それしかないの!!!
なのに毎回毎回……いい加減気づいてよ!!!!
そんな具合に、心の中で盛大にツッコむが、もちろん顔には出さない。
でも、正直呆れて表情が崩れそうで、ため息の一つでも漏れてしまいそうだ。
とりあえずこのため息は心の中で留めておくとしよう。
はぁ……
「え、俺なんか間違えたこと言った?」
ため息は完全に漏れていた。
「いや!間違ってないよ!…し、親友ね!うん、ぜひ目指したいなぁ親友!くっきー、私とぜひとも親友になってよー」
「もちろんだよ!俺、ずーっとこうやって有詐味さんと一緒に居たいもん!親友として!」
「あははは。親友って言ってもらえて嬉しいよ」
なーんかまたしてやられた感がある。
悔しい!なんでわかってくれないの!
そんな気持ちからふと出た言葉だった。
「じゃあ、くっきーに親友枠入ってもえそうだし、次は恋人枠だなー。そろそろ告白しちゃおっかな」
「え……有詐味さん、好きな人…いんの?」
不意に口にした悪戯な言葉に、くっきーの表情は一変した。
さっきまでの頬の赤みは消え、どこか寂しそうに私から視線を外す。
「いやぁ…えーっと……」
くっきー、本気で私がくっきー以外に好きな人がいると思ってるの?
てか私、地雷踏んだ?
想定外の事態に脳内で警鐘が鳴り響く。
やばいやばいやばいっ!
あー!なに言ってんだ私!
私が好きなのはくっきーだけだよ!!
それでも私の口から『嘘!本当は目の前あ な た!そう!私はくっきーのこと大好き!死ぬほど大好き!』なんて本音、口が裂けても言える勇気ないよお……って、待てよ。
これを逆手に取って、匂わせ的な感じで『いる』って言ったら、ワンチャン私がずっと聞きたかった台詞が彼の口から飛び出すかもしれない。
よおし。ピンチはチャンスだ。言ってやる!
「い……いるよ」
くーーっ、頭ではわかってたけど実際に本人に対して口に出すと恥ずかしくて、顔面が沸騰するくらい熱くなってきた。
もう十二月に入るってのに、なんか汗かいてきた。
「そっか。いるんだ」
「うん。いるよ…」
「じゃあ…あれだ。もうこうやって一緒には帰らない方がいいかもね」
くっきーがぎこちない笑顔を浮かべながら口にしたその言葉は、私の中に生まれていた束の間の喜びと自信と余裕を一瞬で溶かした。
とんでもない失態を犯した。
でもそのことに気づいた時には後の祭りだった。
「えっ?…いやいや、ちょっと待ってよ。付き合えるかどうかもわかんないし、たぶん私が好きってこと気づいてないから」
「今相手が気づいてなかろうと、いずれは告白するんだよね?」
「……で、でも」
「でもじゃないよ。俺、自分のせいで有詐味さんの恋が成就しなかったら後悔しかないからね。だから、今日からは別々に帰ろ?ね?」
「……うん」
「よろしい!……じゃあ俺、先に帰るね。バイバイ」
「う…うん。バイバーイ……」
くっきーは決してこちらを振り返らなかった。
そんな彼の背中が角を曲がって見えなくなっても、私はその場に無気力に立ち尽くすしかなかった。
欲張った。欲張って、私は大好きな人に勘違いをさせて、ずっと望んでいた展開に発展する可能を自ら手放してしまった。
ああ、もう、なんで。
今すぐ、数分前の欲張りで余計なことを言った私をぶん殴りたい。
⭐︎⭐︎
結局、翌日から私とくっきーは一緒に帰ることがなくなった。
それどころか、学校の休憩時間も喋らなくなったし、お昼も一緒に食べなくなった。
教室の中で目が合っても、くっきーはすっと顔を逸らすのだ。
LINEのやり取りもすっかりなくなったし。
完全に終わった。乾いた笑いしかでないよ。
高一の秋から始まったおよそ一年間の私の片想いの着地点は所詮──
「友達止まりなんでしょうかぁぁぁぁ?……どう思う?なっちゃん」
「んー……難しい……質問」
あの日から二か月ほど経った昼休みの教室。くっきーがいない隙に私はたった一人の親友に頼った。
人差し指をくにっと曲げ、下唇に当てて眉をひそめる彼女は高校二年から私の親友枠に入ってくれた今西夏希ちゃんこと、なっちゃん。
そんな唯一の親友であるなっちゃんは相変わらずの辿々しい口調で私に助言してくれていた。
「ねぇ…司紗」
「んー…?」
「司紗はさ……その……」
なっちゃんは言葉を喉元に一旦留め置き、辺りをきょろきょろと見回すと、頬を朱色に染めながらふいに私の耳元に顔を近づけた。
「まだ……九鬼くんのことが……好き……なの?」
吐息混じりに囁かれたその言葉に、私は心臓を鷲掴みにされたかのようにびくっと身体を震わせた。
気恥ずかしさの籠った熱がぐつぐつと沸騰して、顔が真っ赤になっていくのを感じた私は素直に観念した。
「うん……好き」
火照った顔を小さく縦に振ってみせると、言い出しっぺのなっちゃんまで顔をより真っ赤に染めた。
「てか、なんでなっちゃんまでそんな真っ赤になってんのよー!それ、私のジョブじゃん」
「ジョブ……なの?……ま、まぁ……素直だな……って思った……から」
「素直……っていうか、白状しただけだよ。本心を見抜かれて居た堪れなくて、白旗を上げただけ」
「でも……素直なの……大事」
頬から赤みが消えたなっちゃんは優しくやんわりとした笑顔を浮かべた。
「私……も……素直に……想いを伝えた。最初は勘違い……されていたけど……最後は……気持ち伝わった」
体験談を語るなっちゃんの目線はいつからか、私から彼女が素直に想いを伝えたという彼へと向けられていた。
私の左後方の窓際の席に座り、机に肘をついてぼんやり窓の外を眺めている鳥羽くんである。
「司紗は……九鬼くんに……素直に想い……を伝えたこと……ある?」
「それは…」
再度こちらに視線をまっすぐ向けてきたなっちゃんを目前に、なぜか言葉が詰まってしまう。
答えが明白だからだ。
私は一度だって、くっきーに『好き』と素直に言ったことがない。
私が今までやってきたのはあくまでアプローチ。間接キスの演出、占い、恋バナ、運命数。どれも遠回しに『好意を口にしてほしい!』と求めるばかりで、私から素直に伝えることなんて、一度も考えたことはない。
いや、怖くてできないというのが適切なところかもしれない。
「ないよ。それどころか、私はなっちゃんと違って、いつもいつもくっきーに好きって言わせることしか考えてこなかったから」
「なるほど…」
「でもさ、考えてみれば馬鹿だよねぇ。自分が素直になれば良いだけなのに、素直になったら自分が受け入れてもらえなくて振られたら、どうしようとか考えてたら怖くて──」
「そういう…とこっ!」
なっちゃんの人差し指がびしっとこちらへ向けられる。
「へ?」
「司紗は…やっぱり素直……だよ。今だって…正直に話して…くれた…。本当は素直。だから……その司紗の……素直な気持ちを…今度は……九鬼くんに……見せてあげて?……じゃないと……九鬼くんは…気づいてくれない。……気づけないと……思う」
それは親友であるなっちゃんにだからできるんだよ?
だからなっちゃん以外の人に素直になるなんて怖いよ。
ましてやくっきーになんて。
「だめだよ……私がくっきーに素直な気持ちを打ち明けたら、きっと嫌われちゃうもん」
そうだよ。あの人達みたいな言葉を言われるかもしれない。
『有詐味さんってさ、何でもかんでも素直に打ち明けすぎじゃない?なんていうか、もうちょっと空気読んでくれないと、うちらしんどいんだわ』
高一の秋、数分前まで友達だと思っていた人たちに嘲笑されながら冷めた目を向けられて言われた言葉。
この言葉が、今でも私を縛っているのだ。
でもなっちゃんは親友だから、気を許せる人だから、その縛りも解けて素直に気持ちを吐けるんだ。
くっきーはあの人たちとは違うのはわかっている。
だけど素直になった私を煙たく感じるかもしれない。不快に感じるかもしれないって……そう思ってしまう。だから怖い。
たぶん私は一生、好きな人に対して、素直になることができない。
だから相手が口にするのを、嘘をついて、あるいは意図的に誘導したりして、待つしかないのだ。
卑怯な女なのだ。
「そんなことっ……ない!」
私を苦しめる思考を断ち切るような初めて聞いた彼女の大きな声にクラスの空気までも一瞬断ち切る。
当然、彼女の目の前にいる私の意識は完全に彼女へと奪われていたが、我に返り、一瞬静まり返った教室内をきょろきょろと見回した。
その頃には既にみんな、自分の会話に戻っていたし、幸いに鳥羽くんも席を外していた。
特段、クラスの様子に変化がないことを確認できたので私はそっと安堵の息を吐き出した。
「急にびっくりしたよぉ。なっちゃん……」
視線を上げると涙を瞳に滲ませて、小刻みに震えて立っているなっちゃんの姿が見えた。
「って、なっ、なっちゃん!?」
「ごめん…つい……大きい……声出しちゃって……」
「いやいや、ごめんなのはこっちだよ。なっちゃん、せっかくアドバイスくれてるのに、私口答えなんかして」
「ちが…くて……司紗……あの頃の私と……同じ目してた……から……気づいて……ほしかった……の」
「どういうこと?」
「私も……素直になること…怖かった。素直になっても……鳥羽くんが……受け入れてくれる……かわからなくて……怖くて……素直になれなかった。……なかった……けどっ」
なっちゃんはまっすぐ私を見つめ、私の両手を小さな手で握ってきた。その手はか弱いのに、確かに伝わる想いの強さがこもっていた。
「素直になること……はっ…悪いことじゃ……ないっ」
その言葉が、私の胸に響いた瞬間だった。
「あれ…」
熱くなった目頭からつーっと生暖かい雫が溢れ、頬を伝っていくのがわかった。
次の瞬間、慌てふためくなっちゃんが涙でぼやける視界に入った。
「ごごごご……ごめんっ!…司紗……私…の言葉で……傷ついた?」
「んーん」
頬に残る涙と瞼を袖で拭い、なっちゃんに心底からの笑顔を向けた。
「なっちゃん、ありがとう。なんか目が覚めた」
親友が勇気を出して言ってくれた言葉に私の迷いは少しずつ晴れていくように感じた。
「なっちゃんの言う通りだよね…。よーっし!いっちょ伝えてみるかぁ!」
「ほんと?……無理……してない?」
「してないよ!」
「そっか……なら…よかった。九鬼くん……も……きっと……司紗のこと……わかってくれるはず」
お互い目配せをして笑うとなっちゃんは口を開いた。
「で…いつ…伝える……の?」
「え…えーっと、ま、まぁ手堅く考えて、二年生が終わるまでの良いタイミング……でかなぁ……」
私の目が泳いだのを見て、なっちゃんの表情が一転、般若のような鋭い目になって迫ってきた。
「わかった!わかりましたよお〜。今日伝えます!伝えますから〜。そんな目しないで〜」
「ぜっ……たい?」
「絶対絶対ぜーったい!」
「なら……よし」
柔らかく笑って、私の頭をぽんぽんと撫でてくれるなっちゃんに私は決意する。
もう逃げない。
私からくっきーに素直な気持ちを伝えるんだ!
⭐︎⭐︎
放課後、なっちゃんに背中を押されるように私は教室を後にした。
「がんばれ……!」と小さく言ってくれたその声を背に受けながら、くっきーの後を追う。
彼に少しずつ距離を詰めていく。近づくほど脈打つ音が大きくなって、やがてはうるさいくらいに感じた。
昇降口へ着くと、ちょうど靴を履き替えようとしたくっきーが背後にいる私に気づいた。
目を見開き戸惑ったような顔をしたくせに、すぐに笑顔を浮かべた。
「あれ?今日は一人で帰るの?」
「そ、そうなんだよお。なっちゃん、今日は鳥羽くんと帰るからさー。ぼっちなんだよね……」
「そうなんだ…」
あたしのバカ!なんで素直に一緒帰ろうって言わないんだよ!
今日から逃げないって決心したばかりじゃんか!
「じゃあ…またね」
背を向けて歩き始めたくっきーに、私は生唾を飲み込み、思い切って口を開いた。
「そう言えばさ!」
私の言葉にくっきーはぴたっと動きを止める。
「ここ二カ月くらいくっきーと本当に一緒に帰ってないから、たまには一緒に…その……帰りたいなぁ……って」
「でも好きな人に見られたらダメでしょ?」
「あ、いや、好きな人はその…」
誤魔化さない!
伝えるんだ。
私は逃げないもん!
「違う…」
「え?」
「違うの!!」
「え?何が?」
「伝えたいことがあるの!どうしても……」
「伝えたいこと?」
「だから……」
「有詐味さん?」
考えるな考えるな考えるな考えるな
暗示をかけるように脳内で反芻する。
その甲斐もあり、気づけば私は上履きのまま、くっきーの腕を掴み走り出していた。
「ちょっ、有詐味さん?どこ行くの?」
戸惑う彼の声を無視して、校門を抜け、通学路から少し外れた場所にある閑静な住宅街にある小さな公園にたどり着いた。
私が彼と放課後、よく立ち寄っていた馴染みのある公園。
二人掛けのベンチと、錆びれた時計台しかなく、周辺の小学生らは少し離れた場所にある自然公園に行くため、この公園には基本私たちしかいない。
だから素直に気持ちを吐くにはここしかないと思った。
気持ちだけではなく、身体も先走ってしまい私もくっきーも肩で息をして、白い吐息を冬の澄んだ空気へ溶かしていく。
「はぁ…はぁ…なんで急に走り出すの」
「わたしっ!!」
また頭で考えてしまう前に、私は勢いに任せた。
「わたし…私は…本当はくっきーが好きなのっ!!」
突然の告白に案の定、くっきーは目をぎょっと丸くして呆気に取られているようだが、そんなのは関係ない。
「いや、でも、有詐味さん好きな人がいるって」
「それはくっきーのことっ!……ていうか前からずっとずっとずっとアプローチしてきたのに、くっきーは気づいてくれなくて……」
違う。自分が素直になれなかっただけ。自分が悪いんだ。
くっきーは唯一の私の味方だったのに。素直になるべき人だったのに。
そんな大切なことを今更気づいた。
遅いかもしれないけど、私はくっきーにちゃんと素直に伝えたい。
「だから今日はちゃんと素直になりたかったの!くっきーに勘違いされたくなかった……わたしは!……くっきーとずっとずっと一緒に……隣にいたいのっ!」
「ごめん……」
間髪入れずに放たれたくっきーの一言に、世界が色を失ったかのように見えるくらいショックを受けた。
「無理だよ……俺、有詐味さんと付き合えない」
ああ、やっぱり。
どこかで悟っていたのかもしれない。告白したらこう返されるって。
それでもいい。
私は勇気を出して素直に伝えたんだ。
私にしては進歩なんだ。頑張ったんだから。
だから、だからせめて──
「理由を……聞かせて?」
その言葉にくっきーは、表情に影を残しつつ、ゆっくりと私に視線を向ける。
「俺は…重い」
「重い?」
「そう…想いが…重いんだ。もう嫌なんだ。大好きな人のことを好きなりすぎた結果、嫌われるのは」
正気を失ったように青ざめた無気力な彼は控え目に唇の端を上げて、自分の過去についてぽつりぽつりと語り始めた。
「去年の夏に、片想いだった人にプロポーズして、そしたら付き合えることになってさ。俺、ずっとずっと大好きだったから、絶対絶対幸せにするんだって息巻いてた」
次の瞬間、くっきーは身体を震わせながら、拳を握り、涙をぽろぽろと溢れさせた。
同時に悔しさを滲み出しているように、私にはそう見えた。
「俺はただ彼女が好きなだけだった!彼女にいっぱいいっぱいいろんなことしてあげたかった。それが彼女にとっては不快だって、それくらいめんどくさいんだって言われた」
涙を流し、微笑みながら彼は声を震わせた。
「だから、俺と付き合ってもさ、いいことないよ」
くっきーの本心を聞いて
彼も私と同じだったんだ。
素直になることが怖かったんだ。
でも、それ以上にその素直さを拒絶されたことが、ずっと、ずっと辛かったんだ。
私は気づけば、彼を抱きしめ、自分の胸に、そっと彼の顔を迎え入れた。
「去年の文化祭の準備期間の時、隣りのクラスなのにくっきーが私に初めて声かけてくれたじゃん?」
私の胸の中で小さく顔を縦に振るのがわかった。
「あの時さ、いじめられてたんだんよね、私」
「え…」
「私元々は結構素直な子だったんだよねー。たぶんそのままでいたらとっくにくっきーに告白してたかも」
抱きしめて腕の力を緩めるとくっきーは私の胸から離れる。くっきーは未だにに視線を少し逸らしている。
そんなくっきーに私は言葉を紡ぎ続けた。
「でもその素直さが、仇になっていじめられて……素直になるのが怖くなった。でもそんな中でも少しだけ素直になれた人が居たんだよ。私を助けてくれた人」
くっきーに私はにっと微笑んだ。
「私はやっぱり、どうしようもないくらいその人が大好きみたい。その人のおかげで私は立ち直れたんだもん」
紛れもなくそれはくっきーのことだよ。
いじめられて、孤独になって、どん底まで落ちた私に手を差し出してくれたのはくっきーだけだったもん。
だから今の自分があるんだ。
なっちゃんの後押しが効いたのも、今思えばあの時、くっきーが手を差し出してくれたから。
「だからね、くっきー!」
今朝までくよくよ悩んでた私が言うのはおこがましいかもしれない。
今更なんだよって思われるかもしれない。
だけど今度は私がくっきーを信じて、素直な気持ちを打ち明けられるように手を差し伸べたいんだ。
恋人じゃなくてもいい。
くっきーにとって、私が次に進むきっかけになれれば、それでいい!
そう決意すれば、本心から嘘偽りのない素直な笑顔が花咲いた。
「せめて、私くらいには素直になりなよ!これからは私もくっきーに素直になんでも話したいしさっ!ねっ!」
私の言葉に、くっきーは一瞬きょとんとしたあと、ふっと吹き出した。
その笑顔には、涙の名残と安堵の光が混ざっていた。
「ほんと… 有詐味さんは相変わらずだな。全く、去年から何も変わってない」
「なによ〜?それは私が進歩していないってこと〜?」
「明るくて、楽しくて…」
「いいことじゃん!」
「そうだよ?悪いことなんて言ってない。あっ、そういう早とちりなところも相変わらずだな」
「早とちりはくっきーも同じじゃん」
「まぁ、たしかにね」
初めて私たちは素直に、一方的にではなく、互いの間に花を咲かせて笑い合った。
幸せとはこういうことをいうのかもしれない。
この幸せが友達止まりでもいい。
私は素直に彼と笑いあっていたいのだ。
そういう関係でありたいのだ。
「有詐味さん!」
「ん?」
「もっともっと素直になってもいいんだよね?」
「うんっ!そう言ったじゃん!」
「じゃあさ、さっそく………言ってもいいかな?」
そういうとくっきーは私に右手を差し伸べ、上半身を下げた。
「有詐味さんのこと、ずっとずっと大好きでした。いや、今も大好きです!だから…だから……こんな俺でよかったら、もらってください!」
手を震わせ、ながらも一生懸命な告白に、思わずふふっと嬉しさか恥ずかしさかわからない笑みが溢れた。
私の笑みにくっきーは目を丸くしながら顔を上げる。ああ可愛い。好き。大好き。
「もらってください…って、ふふっ…普通逆じゃない?」
「いや、もらわれる側だから。こんなゴミカス人間…」
「もう!偏屈なこと言わない!せっかくの告白が台無しじゃん」
「あ、ごめん」
「私の大好きな彼氏はゴミカス人間じゃないよ!素直で優しくて、思いやりのある人だもん。それがくっきーだもん」
「ありがとう……って、それって」
「YES以外ないでしょ!というか、私が先に告白してたんだけどなあ」
「いや、仕切り直したから実質俺が先で━━」
ずっとずっと前からこうできたけど、紆余曲折あって今になってしまったけれど、それでよかったのかもしれない。
私たちは躊躇うことなく、素直に想いをぶつけ合って、受け止め合えるのだから。
そう思える今が、私は何よりも誇らしかった。
*親友のなっちゃんと彼氏の鳥羽くんのお話は過去作の『隣の席の女子がなぜか俺だけを睨んでくる件』にて!
まだまだ未熟者で勉強中ですので、おかしい点や不明な点、また誤植、誤字、脱字があればぜひ教えてください!
あ、友達のように気軽に教えてくださいね!
もし仮に、上記に当てはまらず、純粋に良かったと思っていただいた場合はお星様★★★★★をお願いします。
めっちゃ喜びます(๑˃̵ᴗ˂̵)




