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罪滅ぼしは終わりました。ここからは幸せになります!  作者: ミカン♬


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16/28

16 告白

 

 ジゼルとナタリアがデュアム公爵家に戻るなり、執事が慌ただしく駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませ。アーノルド様が、ご心配のあまり体調を崩されまして……」


「え? 大丈夫ですか?」


「ええ。なので、ぜひお顔を見せて差し上げて下さい。きっと安心なさいます」


「分かりました!」


 小走りで向かうジゼルの背中を、ナタリアと執事は顔を見合わせ、にんまりと見送った。



 アーノルドの部屋を訪れると、彼は静かに、ソファで本をめくっていた。


「おかえり、ジゼル。ナタリアはうまく片付けてくれたようだね」


「ただいま戻りました。

 はい、すべてナタリア様が……あの、起きていて大丈夫なのですか?」


「ん?」


「体調を崩されたと、執事さんから……」


「あ、ああ。そう、そうだったね」


 アーノルドは慌てた様子で本を机に置いた。


「少し動悸がして……でも、君の顔を見たら落ち着いたよ」


「本を読まれていたではありませんか。心配したのですよ?」


「執事が少し大げさに言っただけさ。

 ほら、ここに座って。今日の出来事を聞かせてくれる?」


 彼が隣のクッションを軽く叩くと、ジゼルは素直に腰を下ろした。

 難病だったとは思えないほど、彼の顔色は良い。


 ジゼルが真剣に報告を始めると、アーノルドはその横顔から目を離さなかった。

 華やかに振る舞わずとも、ジゼルには人の心を和ませる力がある。


 澄んだ声に耳を傾け、ふと触れる肩に、抱き寄せたい衝動を覚える。


 肩が触れたまま、どちらも動かなかった。

 離れるのは簡単なのに、二人は動けない……。



 ――ジゼルと共に生きたい。

 そのためにも、健康な身体を取り戻さねばならない。


 今や、ジゼルを守る騎士役はナタリア。

 アーノルドは、そんな現状を静かに噛みしめた。



「……あの、私の話、長すぎて疲れませんか?」


「いいや、君の話は、いくらでも聞ける」


 ジゼルは少し驚いたように目を瞬かせ、それから照れたように小さく笑った。



 報告が進むにつれ、アーノルドの表情に影が落ちる。


「そのフレイヤという呪術師を逃がしたのは残念だった」

「一瞬で消えてしまって……まだ聞きたいことがあったのに」


「両家を法的に断罪するのは難しそうだ」

「いいんです。両家と縁が切れたので、満足です」


 ジゼルらしい感想だとアーノルドは思った。

 しかし、フレイヤという存在は危険な火種のように、彼の胸の奥をチリチリと焦がす。


 クレスやニルトンのような小物ではない、もっと巨大な何か。

 そして、ジゼルの内側に隠された「秘密」に触れた唯一の存在。

 

 アーノルドの胸に、黒いインクが滲むような不安が広がる。

 

「大丈夫ですか?」

 ジゼルの青い瞳がアーノルドを覗き込んでいた。


「……ジゼル。お願いだ、どこにもいかないと約束してほしい」


「はい。今後はナタリア様にお仕えすることに決めました。

 ナタリア様の幸福を願いたいと思います」


「いや、もう異能は使わないでほしい。次に何を失うか分からないから」


「では、もう一度だけ」


「ナタリアは望まないと思うよ。君が傍に居るだけで私達は幸せだ。そして、私は君を幸せにしたい。私の人生はジゼルに捧げるよ」


 ジゼルは弾かれたように目を見開き、すぐに耐えかねたように視線を落とした。


「アーノルド様の人生はアーノルド様のものです。私達は長い間、縛られて生きてきました。もう、心のままに自由に生きていきませんか?」


「心のままに……そうだね。私は君が好きだ。ずっと一緒に居たいと思っている」


 アーノルドの視線が、ジゼルの瞳を捉える。  

 けれど、見つめ返す彼女の瞳は、波紋のように揺れていた。


「その……迷惑だろうか?」


 怖がるように、アーノルドの細い指が僅かに震えている。

 それはジゼルも同じだった。


「迷惑だなんて……でも、そんなふうに言われる資格は、私には……」

 言葉とは裏腹に、視線だけは、どうしても逸らすことができなかった。


「資格がないのは、私の方だよ。ナタリアには悪いけど、君を義妹に望むのはもう少し先だ」

「それは……」


「健康な体を取り戻す。その時、改めてプロポーズさせて欲しい」


 真っ直ぐすぎるその言葉に、どんな表情を返せばいいのか、ジゼルにはわからなかった。

 適切な言葉が、頭の中からすっかり消えてしまっていた。


「ジゼル?」


「はい。……その時に」


 それが、今の彼女に絞り出せる、精一杯の「答え」だった。


(――嬉しいです。でも、約束はできません)


 飲み込んだ言葉は、喉の奥でひっそりと、熱を帯びていた。



 

読んでいただいて、ありがとうございました。

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