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罪滅ぼしは終わりました。ここからは幸せになります!  作者: ミカン♬


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12 アーノルドの危篤

「予想通りだったわね。元気出しなさい、ジゼル」


「はい。父の考えが分かって、私の進むべき道も決まりました」


「ジゼル……」

 言いかけたアーノルドに突然、発作が始まった。


 激しい咳と共に、大量の血を吐く。


「お兄様、しっかりなさって!」


「だいじょうぶだ……」


 そう言いながら、アーノルドは己の不甲斐なさを噛み締めた。


『私が相手になります』

 ジゼルの父にそう宣言したばかりだというのに。

 今回は持ち直せない――そう覚悟した。


「すまない、ジゼル……」


「申し訳ないのは私の方です! 無理をさせてしまって……」


 血に染まったアーノルドの手をジゼルは握りしめた。


 ベッドに運ばれ、横たわった彼は意識を失い、危篤状態に陥った。



 医者たちが駆け付けると、ナタリアとジゼルは部屋を追い出された。


 廊下で、ジゼルは泣き崩れた。

 甘えすぎたのだ。早く出て行くべきだった。


「私のせいです……」


「違う。お兄様は、最後にジゼルの力になりたかったのよ。あの人は、そういう優しい人なの」


「最後だなんて……」


「だって治らないんですもの! 難病がもし呪いなら、私が代わりに999回、いいえ、百万回でも《罪滅ぼし》をしたわ」


「私が迷惑をかけたからです。今からアーノルド様の為に罪滅ぼしをします、何度でも!」


「馬鹿ね。呪いじゃないわ。迷惑でもない。今はお兄様のために祈りましょう」


 ナタリアは、潤んだ目を強く閉じた。



「罪滅ぼし……」

 ジゼルは考えを巡らせた。


 ジェリコム侯爵家の呪いは強力で、転生しても続く、魂に刻まれたものだ。

 それを、ジゼルは自力で解いてきた。


「私の異能……」


 アーノルドの言葉が脳裏をよぎる。

『ジゼル、君は異能を授かっている。きっと君を幸せに導く。だから心配いらない』


 幸せに導くスキルが《罪滅ぼし》だとは思えない。

 あれは占い師フレイヤが教えた、呪いを解く方法のはずだ。


『占いでは999と出ている』

 フレイヤはそう言った。


「もしかしたら……」



 ──そのとき、扉が開き、医師が顔を出した。


「手は尽くしました。どうぞ最後のお別れを……」


 公爵夫妻とナタリアが部屋に入ると扉は閉められた。


 だが追うように、ジゼルはアーノルドの部屋へ飛び込んだ。

 止めようとする看護師を押しのけ、ベッドへ駆け寄る。


 息も絶え絶えのアーノルドの手を、強く握る。


「どうか、アーノルド様の難病が完治して、健康になりますように!」


「君は誰だ、出て行きなさい!」


 医師の制止にも、ジゼルは手を離さない。


「ナタリア様、私が治してみせます!」


「できるの? 本当に?」


 体が震えた。この状況で失敗は許されない。

 それでも「やらない」という選択など、ジゼルにはなかった。


「もし回復されなければ、私の人生すべてを差し出します。それでも構いません!」


「馬鹿なことを……。ご家族の邪魔をするんじゃない!」


 医師の叱責にもジゼルは膝をついて、動かない。


「ナタリア様、999回お祈りします。それが私の力かもしれません」


「……確かなの?」


「分かりません。でも、祈らせてください。アーノルド様のために……!」


 もう今となっては、何もしないよりは可能性を信じたい。

 そう必死に訴えるジゼルに、ナタリアは一縷の望みを託した。


「それなら999回、お兄様の回復を祈ってちょうだい!」


 ジゼルは一心不乱に祈り、ナタリアは回数を数え続けた。



「101回、102回……」


 誰もが幻を見ているようだった。

 祈り始めるとジゼルの手がかすかに光り始めた。

 やがて光は次第に強まり、彼女を包み込んだ。


 アーノルドの容体が、ほんの少しずつ快方へ向かい、

 医師たちは息を呑む。


「……信じられない……これは、彼女の異能なのか?……」


「奇跡は起こるわ。私はジゼルを信じる」


 デュアム公爵夫妻、そして廊下では使用人たちも集まり、共に祈り始めた。


 3時間以上続いた祈りは、ついに999回目を迎える。

 その瞬間、ジゼルの中で何かが解き放たれた。


 握った手を握り返され、

 アーノルドの目が細く開くと、ジゼルを見つめて微笑んだ。


「アーノルド様!」

「ジゼル……」



「おお……危篤状態を脱しました。もう大丈夫です」


「……良かった。本当に……。ジゼル、よくやったわ。ありがとう!」

 ナタリアはジゼルをきつく抱きしめた。


 廊下に歓声が広がる。

 アーノルドは、多くの人に愛されている――ジゼルはそう思った。


 そして自分もまた、その中の一人なのだと気づき、胸の奥がわずかに疼いた。



 *



 ナタリアの部屋。

 二人は疲れた体をソファに沈めていた。


「《999》という数字が鍵なのね?」


「はい。999回願えば、願いは叶うと思いました」


「でも、その代償に……また髪の色が薄くなったわ」


 ジゼルの金色だった髪は、白金色に近づいていた。


「これくらい平気です」


 ジゼルは肩に垂れた髪を指でつまんだ。


 この代償が何を意味するのかは分からない。

 今はただ、アーノルドが助かったという事実だけで十分だった。


 もしこれで自分の命を削ることになっても、構わないとジゼルは思う。



「……ジゼル、本当にありがとう。貴方は私たちの女神よ」


「お礼はまだ早いですよ。医師から『完治した』と聞くまでは、終わっていません」


 その心配は杞憂だった。

 翌日、医師ははっきりと告げた。


「奇跡です。アーノルド様は、完治しました」


 

読んでいただいて、ありがとうございました。

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