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閑話② つよくなるってこと

次の日も、

公園だった。


すべり台と、砂場と、

少しさびたブランコ。


ひよりは、

いつものベンチの端に座っていた。


ひかりは、

少し離れたところで、

石を並べている。


昨日の夜のことが、

胸の奥に残っていた。


——だいじょうぶ。

なにも起きなかった。


そう思っていた。


「ひより」


後ろから、

知らない声がした。


ひよりの耳と、しっぽを見て、

ひそひそ笑う。


「それ、ほんもの?」


ひよりは、

声が出なかった。


足が、

すくむ。


ひかりが、

振り返る。


「やめて」


思ったより、

大きな声だった。


相手は、

ひかりを見る。


「なに?

 ひかりが、まもるの?」


ひかりは、

ひよりの前に立った。


小さな背中で、

ちゃんと、隠す。


「ひよりは、へんじゃない」


言葉が、

止まらなくなる。


「また、

 いじめたら……」


胸が、

ぎゅっとなる。


「ひよりをいじめるやつは、

 みんな、

 ひかりがたおしてやるんだから!!」


叫ぶみたいな声だった。


相手は、

驚いて、走っていった。


公園は、

また静かになる。


ひよりは、

ひかりの服を、

ぎゅっとつかんだ。


「……ありがとう」


ひかりは、

ちょっとえらそうに笑った。


「だいじょうぶだよ」


その日は、

それで終わった。


誰も、

倒れなかった。


ただ、

その言葉だけが、

空気に残った。


次の日も、

同じ公園だった。


同じベンチ。

同じ砂。


ひかりは、

少し離れたところにいた。


ひよりは、

ひとりだった。


また、

同じ声。


同じ、

からかう笑い。


ひよりは、

声を出そうとして、

出なかった。


その瞬間。


ひよりの内側で、

何かが——

ひよりではないものに、切り替わる。


怖い、も。

嫌だ、も。

考える、も。


全部、

遠くなる。


胸の奥が、

静かに、

空白になる。


そこに、

遠い場所から届いた力が、

ひよりを通って、

世界に触れた。


名前も、

意思も、

ここにはない。


ただ、

「守れ」

という衝動だけ。


ひよりの目は、

どこも見ていなかった。


それでも、

立っていた。


そのあいだに、

何かが起きた。


砂の上で、

子どもたちが、

うずくまっていた。


「いたい……」

「いたい……」


大人たちが、

走ってくる。


誰かが、

電話をかけている。


サイレンの音が、

遠くから近づく。


その音を聞いたとき、

世界が、

ゆっくり戻ってきた。


胸の奥の

空白が、消える。


同時に、

力が抜ける。


ひよりの身体は、

そのまま崩れた。


砂の上に倒れ込む。


「……ひより!」


ひかりの声。


その声を聞く前に、

ひよりの意識は、

完全に落ちた。

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