もしもの話⑦:お泊まり会の話
その日は、特に理由もなく泊まることになった。
「着替え、貸すね」
「……うん、ありがとう」
ひよりは受け取って、軽く頷く。
ひかりも、いつも通りの顔だった。
夜。
部屋の電気を消して、テレビだけをつける。
画面に映ったのは、
大きな文字の 《心霊特集》。
「……ちょっと待って」
ひかりが、すぐに声を上げる。
「これ、見る流れ?」
「……今、やってたから」
「だからって……!」
そう言いながらも、
ひかりはチャンネルを変えなかった。
暗い映像。
不自然なノイズ。
低く響く効果音。
「……やっぱ無理かも」
ひかりはクッションを抱きしめる。
「……怖い?」
「怖いに決まってるでしょ!」
即答だった。
ひよりは画面を見たまま、少し考える。
「……演出、だと思う」
「音とか、編集とかで」
「それっぽく、してるだけで」
「そういう話じゃないの!」
ひかりは、ひよりの袖を掴む。
「ちゃんと見てて」
「一人にしないで」
「……うん」
「離れないよ」
結局、最後まで見てしまった。
エンディングが流れ、
テレビを消す。
部屋は、一気に静かになる。
「……もう寝よ」
ひかりが、少し早口で言った。
布団を敷いて、横になる。
電気を消す。
しばらく、何も音がしない。
「……ひかり」
暗闇の中で、ひよりが小さく呼ぶ。
「なに?」
「……トイレ」
「行けば?」
「……一人だと」
「ちょっと、心細い」
ひかりは一瞬だけ間を置いてから、起き上がる。
「さっきまで平気そうだったのに」
「さっきは、平気だった」
「今は……なんか、だめ」
理由は、ひよりにもよく分からない。
廊下は暗い。
トイレまでの距離が、やけに長く感じる。
ひかりは何も言わず、
ひよりの少し前を歩いた。
「……ここ」
トイレの電気がつく。
「終わったら呼んで」
「外で待ってるから」
「……近くに、いてほしい」
「はいはい」
用を済ませて戻ると、
ひかりはちゃんと、そこにいた。
部屋に戻って、布団に入る。
「……ごめんね」
ひよりが、小さく言う。
「なにが?」
「付き合わせちゃった」
「いいよ」
ひかりは、あっさり言った。
「さっきは私が怖がってたし」
「お互い様でしょ」
少し間があって、
ひよりがぽつりと言う。
「……暗いと」
「急に、色々考えちゃう」
「ふーん」
「昼間は、あんまり気にならないのに」
「夜あるあるだね」
ひかりは、少しだけひよりの方に寄る。
「……近い?」
「……うん」
「ちょうど、いい」
ひよりは目を閉じた。
怖い話も、
夜も、
一人なら、たぶん平気だった。
でも。
誰かが隣にいると、
怖さに気づいてしまうこともある。
それでも。
その怖さごと、
一緒にいられるなら。
ひよりはそう思いながら、
静かに眠りに落ちた。




