むかしばなし⑩:ふく
リビングに、
見慣れない布が広がっていた。
ピンク。
白。
ふわっとしたレース。
ミシンの音が止まって、
ママが振り返る。
「できたよー」
差し出されたのは、
二着の服だった。
ひかりの目が、
一瞬で輝く。
「わあ……!」
「すごい!」
「おひめさまみたい!!」
ひかりは、
くるっと回る。
スカートが、
ふわっと広がった。
「みてみて!」
「かわいいでしょ!」
ママは、
満足そうに頷く。
「でしょ?」
「ひよりも、ほら」
ひよりは、
その服を見て固まっていた。
フリフリ。
ひらひら。
飾りが多い。
「……」
「どう?」
ひよりは、
しばらく黙ってから言った。
「……やだ」
即答だった。
「え?」
「……うごきにくい」
「かわいいのに?」
「……いらない」
ひかりは、
きょとんとする。
「えー!」
「なんで?」
「おひめさまだよ?」
ひよりは、
服から目を逸らす。
「……にげられない」
「……たたかえない」
ママは、
一瞬だけ言葉に詰まった。
「……そんなこと、
しなくていいのに」
ひよりは、
小さく首を振る。
「……いや」
ひかりは、
少し考えてから言った。
「じゃあさ」
「ひよりは、
きしでいいじゃん!」
「……きし?」
「うん!」
「わたしがおひめさまで、
ひよりがまもるの!」
ひよりは、
少しだけ考える。
「……それなら」
「……いい」
ママは、
苦笑いしながら言った。
「ほんとに、
二人とも、
変なとこで噛み合うわね」
ひかりは、
満足そうにスカートを押さえる。
ひよりは、
フリフリの袖をつまんで、
少しだけ顔をしかめた。
「……これ、
つよくない」
その横で。
ひかりは、
にこにこして言った。
「でも、かわいいよ!」
二人は、
同じ服を着ていても、
見ているものは違っていた。
それでも。
並んで立つと、
不思議と、
ちょうどよかった。




