むかしばなし⑤:ぼうけん
その日は、
ふたりで「ぼうけん」に出ることにした。
公園のはし。
いつもは行かない、小道。
「ここ、いったことない!」
ひかりが、わくわくした声で言う。
「……いってみる?」
「うん!」
それだけで決まった。
道は、
だんだん細くなって、
知らない木が増えていく。
「すごいね!」
「ほんとに、ぼうけんだね!」
ひかりは、
前を歩いて、後ろを振り返る。
「ちゃんと、ついてきてる?」
「……うん」
ひよりは、
静かに歩いていた。
どれくらい歩いたか、
分からなくなったころ。
「……あれ?」
ひかりが、足を止める。
「……ここ、
こんなとこ、あった?」
来た道を、振り返る。
同じような木。
同じような道。
「……」
「……ひより?」
「……なに?」
「……どっちから来たんだっけ」
ひよりは、
少し考えて、
首をかしげた。
「……わかんない」
その言葉で、
ひかりの顔が、
少しずつ変わる。
「……え」
「……え?」
声が、揺れる。
「……かえれない?」
もう一度、
あたりを見回す。
「……ママ……」
ひかりの目に、
涙がたまる。
「……かえれないかも……」
「……」
ひよりは、
しばらく、黙っていた。
「……だいじょうぶ」
「え……?」
ひよりは、
くるっと向きを変える。
「……こっち」
「ほんと?」
「……うん」
ひよりは、
迷いなく歩き出す。
「……なんでわかるの?」
ひよりは、
少し考えてから言った。
「……なんとなく」
「……なんとなく!?」
「……におい」
ひかりは、
半泣きのまま、
ついていく。
しばらく歩くと、
遠くから声がした。
「ひよりー!!」
「ひかりー!!」
次の瞬間。
「……あ」
公園が、見えた。
ベンチのそばで、
二人のママが、
必死に探している。
「ひかり!!」
「ひより!!」
「……っ」
ひかりは、
一気に泣き出した。
「もー!!
かえれないかとおもった!!」
抱きしめられて、
声が大きくなる。
ひよりも、
少し遅れて、
ママに抱き寄せられる。
「どこ行ってたの……!」
「……ぼうけん」
ひよりが言う。
「……すごい、ぼうけん」
ひかりは、
涙でぐしゃぐしゃの顔で言った。
「……もう、
ぼうけん、
ひよりとじゃないと、やらない……」
「……うん」
ひよりは、
静かにうなずいた。
その日から、
「ぼうけん」は、
ちゃんと「帰れるところまで」になった。




