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むかしばなし①:あんしんできたはなし

公園は、午後の光で白くにじんでいた。

砂場の端で、ひよりは立ち尽くしていた。


遠くから、重たい足音が近づく。

次の瞬間、大きな犬が視界に飛び込んできた。


「……やだ……」


声にならない。

体が先に強ばる。


犬は勢いよく走り、

ひよりの方へ向きを変えた。


「やだぁ……!」


足が動かない。

胸が詰まって、息が浅くなる。


「ひより」


ひかりの声がした。

すぐ隣に来て、ひよりの前に立つ。


「だいじょうぶだよ」


ひかりはゆっくりしゃがみ、

犬の頭に手を伸ばした。


「……ほら、いいこ」


犬は一瞬戸惑うように鼻を鳴らし、

やがてその場に座った。

尻尾の動きが、少しずつゆっくりになる。


その瞬間、

張りつめていたものが、ひよりの中で切れた。


「……っ」


足元に、じんわりと温かさが広がる。

気づいた瞬間、胸がぎゅっと縮む。


恥ずかしさよりも、

怖さの方が、ずっと大きかった。


ひよりは声を上げて泣いた。


「……ぐゎあぁぁぁ……っ!

 ご゛わ゛がっだぁ……!

 ご゛わ゛がっだよ゛ぉ……っ!!」


泣き声は割れて、

何を言っているのか分からない。

ただ、怖かった、という感情だけが、

そのまま溢れていた。


ひかりは何も言わず、

ひよりをそっと抱き寄せた。


強くはしない。

逃げられないほど近くもない。

ただ、倒れないように、腕を回しただけ。


顔が、ひかりの胸に触れる。


あたたかい。


服の向こうの体温。

少しだけ早い鼓動。


あたたかかった。

ちいさな、むね。


ひよりは、そのまま、

ひかりの服に顔を埋めた。


涙と一緒に、

鼻水まで出てきて、

ぐしゃっと、布に染みる。


「……あ」


ひかりが、ほんの一瞬だけ動きを止める。

困ったような間。

それでも、離さない。


「……だいじょうぶだよ」


低く、近い声。

それだけ言って、

ひよりを受け止めた。


ひよりは、

言葉にならない声のまま、

しがみついて泣き続けた。


少し離れたところで、

犬の名前を呼ぶ声がした。


その後、その犬は、

飼い主に連れられて行った。

何度も頭を下げながら、

申し訳なさそうに。


ひよりは、その様子をよく見ていなかった。

ただ、ひかりの手の温度だけを覚えている。


泣き声が小さくなるまで、

ひかりは、そこにいた。

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