最終話 白の向こう側
雨の中で、
ひよりは、確かにその姿を見つけた。
街灯の下。
俯いたまま、動かない影。
足が、止まる。
胸いっぱいに息を吸って、
ひよりは叫んだ。
「——ひかり!!」
大きな声だった。
自分でも驚くほど。
その声に、
俯いていたひかりが反応する。
ゆっくりと、
顔を上げる。
視線が合う。
そして、
なぜか――
ほっとしたような顔をした。
探していた人を、
ちゃんと見つけた。
そんな表情だった。
その瞬間、
雨の音が、遠のく。
気づけば、
空から落ちてくるものが、
白くなっていた。
雪だった。
冷たくて、
静かで、
音を吸い込む白。
ひよりは、
言葉を探そうとして――
間に合わなかった。
ひかりが、
ひよりを「ひより」とは呼ばなかった。
もっと奥にある名を、
無意識に口にする。
その名を呼ばれた瞬間、
ひよりの胸の奥で、
何かがざわついた。
理由は分からない。
ただ……
ひよりは、
その違和感を振り払うように、
必死に声をつなぐ。
「……今度は」
「今度こそ、一緒に幸せになろう」
祈るような声だった。
ひかりは、
その言葉を聞いて、
少しだけ目を細める。
雪が、
肩に積もり始めている。
「……ごめんね」
一拍。
「……ありがとう」
微笑んだまま、
その言葉だけを残して。
ひかりが、
一歩、前に出た。
次の瞬間、
視界いっぱいに、
白いヘッドライトの光が広がる。
何も、
見えなくなる。
ひかりの身体は、
その光と衝撃に、
一気に飲み込まれた。
次の瞬間。
世界が、音を失う。
衝撃。
白。
視界が、途切れる。
ひよりの叫びが、
遅れて、空気を裂いた。
名前を呼ぶ声。
届かない声。
雪は、
何も知らない顔で、
静かに降り続いていた。
地面の白は、
もう、
さっきまでの白とは
同じには見えなかった。
ひよりの視界が、
白に満ちていく。
音も、
感覚も,
輪郭も、
すべてが遠ざかる。
最後に残ったのは、
胸の奥で、
確かに動き続ける“何か”。
それは、
願いで、
祈りで、
そして――
断ち切れなかった想いだった。
光が、
すべてを包み込む。




