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第20話 気づいてしまったこと

最初に違和感があったのは、

体調の変化だった。


理由の分からない吐き気。

朝、起き上がれない日が増えた。

制服に袖を通すだけで、息が浅くなる。


ひかりは、それを

「疲れているだけ」だと思おうとした。


学校のこと。

委員長の仕事。

ひよりの様子。


考えることは、いくらでもあった。


病院に行く決断をしたのは、

ある朝、立ち上がれなくなったからだった。


診察室は、静かだった。

白い壁。

事務的な声。


告げられた言葉は、

回りくどくなかった。


ひかりは、

妊娠していた。


それ以上の説明を聞く前に、

呼吸の仕方を忘れた。


紙に書かれた文字を、

何度も見返す。


間違いじゃないか。

何かの手違いじゃないか。


でも、

否定できる材料は、どこにもなかった。


帰り道、

世界が少し遠く感じた。


音が、

ひとつ遅れて届く。


――ああ。


ひかりは、

ようやく、

いくつかの点が線になるのを感じていた。



確かめに行ったのは、

衝動に近かった。


誰かに相談する、という選択肢は

最初からなかった。


ひかりは、

彼らの前に立った。


言葉を投げた。

問いただした。


返ってきたのは、

否定じゃなかった。


そこで、

ひよりにも同じことが起きていたのだと、

ひかりははっきり理解してしまった。


息が、止まる。


――遅かった。


問いただす段階は、

もう終わっていた。



その夜、

ひかりは部屋に戻ってから、

ひよりの顔を思い出していた。


最近、

目を合わせる時間が減っていた。


大丈夫、と言う声が、

前よりも軽くなっていた。


触れられるのを、

無意識に避ける仕草。


――あれは。


考えないようにしていたことが、

一気に押し寄せる。


ひよりは、

言わなかった。


助けを求めなかった。


ひかりも、

気づかなかった。


「……守れてない」


声に出すと、

それははっきりした形になる。


守るつもりでいた。

一緒にいるつもりでいた。


でも、

同じ場所にいながら、

同じことが起きていたのに。


ひよりは、

一人で抱えていた。



その日から、

ひかりは決めてしまう。


誰にも言わない。

誰にも渡さない。


これ以上、

ひよりを巻き込まない。


――守らなきゃ。


その言葉が、

いつの間にか

自分自身を縛るものに変わっていくことを、

まだ知らないまま。


ひかりは、

机に向かい、

白い紙を一枚取り出した。


ペンを持つ手が、

少しだけ震えている。


何を書くのかは、

もう決まっていた。


でも、

それが「別れの準備」だとは、

まだ、

認められなかった。

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